200 守護神獣と帰るべき世界の関係――変わりゆく世界でも、地道さは大切に――④
『単刀直入に言おう。
君達異世界人にはこれから――世界各地で眠り潜んでいる守護神獣に接触を図ってほしいと考えている。
その際、状況によっては……彼らを倒してもらう必要がある』
「ええぇっ!?」
魔王様から今後について話したいと魔王城に招待された私達、異世界召喚者達。
気軽に会話を交わそうという事になり、暢気に考えていた私・
守護神獣……世界を見守っているという、魔物を遥かに超越した存在。
8体存在するうちの1体――1人を私達は良く知っている。
クラスメートの一人で、現在魔王様に会う為に旅している
紆余曲折を経て、エグザ様は元々の肉体を取り戻しつつも、レーラちゃんとの同居状態を続け、レイラルドにある私達の『宿舎』で共に生活している。
レーラちゃんもエグザ様も元気かなぁ……早くあって心配かけてごめんって謝らないと。
守尋くん達も今どこにいるんだろうか――案外近くには……来てないかな、さすがに徒歩だとここ遠すぎるし。海渡るし。
ともあれ、そうして親しくなっている存在と同質の方々を倒せ、というのは正直衝撃だった。
『あくまで、状況によっては、だ』
思わず声を上げた私をクラスメート達が何とも言えない表情を浮かべたり、思いきりニヤニヤしてたりする中、魔王様も何処か楽しそうに再度注意点を述べた。
うわぁ、魔王様をほっこりさせる私すごいなぁ……嘘です、時々正直過ぎる自分が悲しいです。
――ちなみに、私の横に座るもう一人の私・姉さんはポンポンと肩を叩き「ドンマイ」と励ましてくれております……うう、なんだろう、いつもよりちょっと多めに恥ずかしい……励ましてくれた事には感謝だけど。
ともあれ咳払いをして気持ちを整えた私は、恥ずかしさのついでとばかりに魔王様へと尋ねてみた。
「――安心しました。
でも、どうして守護神獣の皆さんに接触しなくちゃならないんですか?」
『端的に言えば、世界をあの神々と自称する痴れ者どもから守る為だ。
君達は知っているだろう、神域結晶球を』
神域結晶球。
神域の力が練り込まれた守護神獣の権能の欠片たる結晶、人の為に与えられた
私達は、強力な結界の起点となったり、亡くなっていた赤竜王様の躯を復活させる、といった力の一端しか見れていないけど、それだけでもその凄まじさは感じ取れるというか体感したというか。
そう言えば【神域】か。
私が先日到達した【ステータス】の進化した形、その領域も――そういう名称だ。
あの生と死を超越した、あるいはその先に辿り着く場所であるアカシックレコードと含めて、何か関連があるんだろうか。
気になりつつも、私は魔王様の言葉の続きに耳を傾けた。
『あれは守護神獣たちの力の欠片であり、この世界を守るための絶対守護の欠片だ。
元々1つの――君達風に言えばプログラムを8つに分けたものをそれぞれの守護神獣が取り込み、管理している。
守護神獣たちそのものも基本は同じだ。
遥かな過去に神から1つの役目を受けて、それを分割して各地で請け負っているに過ぎない』
「一つの役目……世界を、守る事ですか?」
「基本的にはそうよ、妹。
でもより正確に言えば……この世界の理の外にある者達……理を手中にしながら自ら外道に堕ちた愚か者達から守る事」
そう答えたのは魔王様――ではなく、姉さんだった。
そうか、姉さんはずっと生まれ変わって来た事でいろんなことを記憶し続けてるんだった。
その辺りについても可能なら、今度皆で改めて話を聞かなくちゃだね。
『よく覚えているようで何よりだ。
君がいれば今後は随分楽になるが――』
そこで魔王様はチラリと私の方へと視線を向けたが――視線はフードで見えないけれど、顔の角度で分かる――何を思ってか、小さく頭を横に振った。
『それは今焦らずともいい事だな、様々な意味で。
さておきだ。
今もう一人の八重垣紫苑が語ったように守護神獣は元々、あの神々とやらの暴走を見越して構築された存在だ。
本来ならただ世界を見守るだけを役目としてほしかった、というのが本来の神の願いだったのだろう。
しかし、あの痴れ者達がこの世界を自分勝手に使い潰そうとしているなら放置は出来ん。
ゆえに神域結晶球が必要となる……本来の力を行使する為に、8つ全てが』
「8つの神域結晶球が揃うとどうなるんでしょうか?」
小さく挙手しながら尋ねたのはクラス委員長の
その問い掛けに、魔王様は小さく頷いてから答えた。
『結晶球が揃えば――外界からの干渉を完全に弾く事が出来る神域大結界が展開できる。
それが展開されれば、あの痴れ者達は連中が暮らす『楽園』とやらからこちらには干渉出来なくなる。
当然それ以後は連中の介入なしに世界の歴史を進める事が出来るようになるだろう。
だが――』
「だが、もしその大結界とやらが展開されれば――俺達異世界人は元の世界に帰れなくなる、違いますか?」
「「「!?」」」
そんな中、2人だけ当然であるかのように平静なままだったんだけど――今はそれについて追及する場面じゃないと思ったので、私は声を上げず、ただ魔王様へと視線を向けた。
他の皆も向けた視線を一身に浴びながらもまるで動じる様子もなく、魔王様は頷いた。
『推察どおりだ。
大結界は外界からの干渉を完全に断ち切るが、その影響を受けて結界の内側から外に出る事も難しくなる。
だからこそ、君達こそが結晶球を集め、所持しておくべきだと私は考えている……元の世界に帰るその時まで』
「そうか――もしこの世界の誰かが大結界の事を把握していて、結晶球が僕達の知らない内に集められて使われたら僕達は……」
「ええ、そこに悪意があるかないかにかかわらず、元の世界への帰還が知らない内に不可能になってしまうでしょうね――
確かに、これはわたくし達としては無関係と言っていられる状況ではないようです」
確かにそうだよね……魔王様が『私達の今後』と語っていたのを、私は改めて納得する。
河久くんの呟きに対して、
「詰まる所、これは魔王様達魔族とわたくし達との取引、という事で間違いないでしょうか?
魔王様はわたくし達に結晶球回収を依頼し、その達成に協力する――無事回収に成功すれば、わたくし達が元の世界に帰還後、結晶球を最終的に自分へと委ねてくれればそれでよし……そういう事でしょう?」
『細部は違うが、概ねはそう思ってくれて構わない。
結晶球を集めて大結界を展開する事は、我々――人族と魔族、いや、この世界に生きる全てのものにとって共通の最重要案件だが……私としては、その結果この世界の事情に巻き込んだ君達が本来の世界に帰還出来なくなるというのは承服しかねる事でね。
可能なら我々で全ての結晶球を揃えた上で君達に預かってほしかったんだが――
今後、我々はあの痴れ者共への対抗策や軍備を整えなくてはならないので思うように動けなくなる。
それは人族全体も同じだろう。
ゆえに心苦しいが、それぞれの都合と最善の為に、回収を君達に託すのが一番いいと考え、今回君達をここに呼んだ次第だ』
なるほど。
魔族も人族も神域結晶球は回収したい――けど、色々準備しておきたいから、その為の手が足りない。
大結界を張る事さえ出来たらその準備も必要なくなるかもしれないけど、どう転ぶかは現状分からない――少なくとも守護神獣様たちを見つけるだけでも大変そうだしね。
だから『結晶球を勝手に使われるのは困る、現状特にするべき事がない私達』に捜索・回収をお願いして、他の誰かによる勝手な使用が出来ないように大結界展開直前、もしくは私達が元の世界に帰還するまでの所持を推奨してくれている、という事だろう。
確かにそれだとそれぞれの都合や帳尻が合う、のかな?
『だが、言うほど気楽に頼めるような事ではないのもまた事実。
世界各地にいる守護神獣の発見と結晶球の譲渡についての交渉はそう容易くはないだろう。
守護神獣の中には我々の手に委ねるなどありえない、と考えている者もいるかもしれない』
「――つまり、回収に当たって危険な目に遭う可能性はそれなりに高い、と」
『そういう事だ。
ゆえに、君達に話し合って決めてもらいたい……神域結晶球の回収をどうするか、を』
その視線を受け取った私達は、なんとはなしに――答えを探るようにそれぞれの顔を見合わせていった。
皆が納得出来るような意見はそう簡単には出せない……それゆえの沈黙、思考時間が円卓の間を支配した。
でも、このまま誰も黙ったままだと、意見があっても口にしづらいかもなぁ。
いや、焦って口にする必要はないんだろうけど、折角魔王様が最初に『気楽に』と気遣ってくれたんだしね、うん。
そんな訳で。
「あ、その、まず個人的な意見でなんだけど、いいかな?」
ポンコツな自分の意見でも、話し合いを始める切っ掛けになれば……そう思って、私は口を開く事にしたのだった――。
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