199 魔王城に集いし異世界人達(なお特に戦いはない模様)――変わりゆく世界でも、地道さは大切に――③

「ふーむ、魔王様直々に話ってなんだろうな」


 そう呟いたのは党団『選ばれし7人ベストセブン』の一人、寺虎てらこ狩晴かりはるくん。

 その言葉に、私・八重垣やえがき紫苑しおん他、異世界召喚されたクラスメート達はそれぞれ考え込んだ。


「今後か――この世界の人族と魔族との和解について協力してほしい、とかだろうか?」

「それ、この世界の人達のすべき事じゃない?

 出来る事はしてもいいけど――異世界人の私達が出来る事、大してないと思うけどね」


 クラス委員長の河久かわひさうしおくんの言葉に、網家あみいえ真満ますみさんは退屈そうにに突っ伏しながら答える。


「じゃあさ、俺達を元の世界に帰してくれる、とか?」

「だったらありがたいけどなぁ――今更うちらがただでこの世界から帰れるとは思えないだろ」

 

 期待を膨らませてか、つばさ望一ぼういちくんが若干目を輝かせながら呟くも、正代ただしろしずかちゃんの冷静な指摘にすぐさましょんぼりとなった。


 そうしてやりとりを重ねつつも有望な答えは見つけられず――こういう時正答を導き出すだろうはじめくんは思う所があるのか考え込んでいた――私達は再びに呼び出された理由を考え出す事となった。

   

 ここ――すなわち、私達がいる魔族領内の魔王城、その城内にある円卓の間である。

 魔王様との謁見に使う玉座の間よりも若干広い一室――その中央に大きな円卓が一つ設置されている、そんな場所だ。

 私達はその円卓をグルッと囲むようにそれぞれ席についていた。


 魔王城という名前のイメージから、私達ファンタジー作品を様々に見知っている異世界人的には毒々しいデザインやら何やらをイメージするかもだけど、別にそんな事はない。

 むしろ白寄りの灰色を主体とした落ち着いた色調で、私達が座っている椅子のデザインも人が使う事を配慮しているであろう丸みを帯びた使い易いものとなっている。


 そんな落ち着ける空間となっているこの円卓の間は、魔族の重鎮たちによる話し合いの場所として普段は使われているらしい。

 今回は私達の為に貸していただいている――いや、正確に言えば今回も、だ。


 以前――時が過ぎて、もう半月ほど前となった『蒼白そうびゃく騎士きし』達との戦いの前。

 その対策会議にもここを使わせていただいていたからである。


 再びここで話し合う事になるとは正直考えていなかった。

 事が終わったら、こういう凄い場所には中々来る事ないよね、うん、と思っていたので。


「でも今回は正装とか着なくていいのはホッとしたよ……まぁ、今は場所に緊張してるけど」


 考え込んで煮詰まった場の空気を持ち上げる為か、何か話さないと落ち着かなかったのか、薙矢なぎやれいくんが何処となく緊張した様子で言った。

 前回――グーマお父様の領主就任祝いから数日と経たないうちに、こんな凄い場所にいるのだから緊張も当然と言えば当然だと思う。

 その上、正装だったら緊張度もさらに上がっていたと思うので『服装は普段着で構わないので』とわざわざ手紙に記載していた魔王様に感謝です。


 そう、手紙。


 私達は祝いの席で『魔王様から』として魔王軍司令代行たるニィーギさんから手紙を預かった。

 その手紙には『今後についての重大な案件を私達に頼みたい』という内容が記されていた――


 私達、異世界人の言語はこの世界ではあまり知られていない。

 それゆえに、ある意味でそれは、万が一手紙が盗まれたりした時の為の、最大限の情報漏洩対策と言えた。

 まぁ手紙自体に重大な事柄は書いてなかったんだけど――念には念を、という事だろう。


 ……ただ、彼ら――楽園とやらにいる『神々』とやらはどうも私達の言葉を知っているらしいので、彼らに対しては何処まで有効なのかは分からない。

 とは言え、祝いの席で渡された一手紙まで嗅ぎ付けて来るとは思えないので、まぁ全体的に杞憂、あるいは、そもそも私の考え過ぎで魔王様の遊び心でしかない――のかもしれないけど。


「えと、大丈夫だよ、薙矢くん。

 ここ私達何度か使わせてもらってるけど、厳粛過ぎる場所じゃないし、魔族さん達も親切だし」


 ともあれ、私はちょっと緊張気味になっているレイラルドからの面々を解そうと声を上げた。

 レイラルドの皆は魔族の皆さんとあまり会った事ないし、魔族領に来るのも初めてだろうから緊張も当然だろうしね。


 ちなみに彼らは祝いの日から今日までコーリゥガ邸に滞在している。

 グーマお父様が、魔王様との話し合いまで待つ際、土地勘もないのに宿を探すのは大変だろう、と提供してくださったのである。


「確かに、すごく親切で丁寧だったね……ちょっと驚いちゃったのが申し訳ないなぁ」


 ちょっと申し訳なさそうに呟いたのは酒高さけだかハルさん。


 魔王城へは、手紙の指示に従って麻邑あさむら実羽みうさんによる空間転移の魔術で直接訪れたんだけど、その際魔族の皆さんが――魔王様の親衛騎士団との事だ――数十人程待機して出迎えてくださっていた。

 ただ、すごく気合が入ったお出迎えだったので、レイラルドの皆も初見時の私と同様に驚きを隠せなかった――まぁ挨拶の後はにこやかに対応してくださったんだけどね、騎士団の皆さん。


「ははは、その旨伝えておきますよ」 


 そう笑いながら円卓の間に入ってきたのは、私達に手紙を渡してくださったニィーギさんだった。


「というより、こちらこそ失礼いたしました。

 外からの来客などあまりないので、こういう機会ではついつい張り切ってしまいがちなのです。

 どうかご容赦を」

「いえいえ! こちらこそ……!」


 両手を振りながら慌てて声を上げるハルさんにニィーギさんはにこやかに笑みを返す。

 そんなやりとりを目の当たりにして、場の空気が若干あたたかくなっていく――うーん、時々思ってたけど、ここはホント魔王城という言葉のイメージから遠い場所だなぁ、勿論良い意味で。


 ゲームでは魔王城的な場所は最終決戦の地――というのは最近あまりない気がするけど、少なくともある程度以上の決戦の場で、強い魔物! 強い敵! すごい罠! 激戦!みたいなイメージがある。

 でも、それも結局ゲームの印象による一方的な見方だよね……なんとなく反省する私でございました。


『――――揃ったようだな』


 そうして円卓の間が和やかになった瞬間。

 聞き慣れた、というほどではないけど、聞き覚えは確かにあると言える――不思議な、何者ともつかない声が響いた。

 その声に私達が揃って振り向いた先、円卓の間最奥の方角の一席に――空席だったはずのその場所に、いつの間にかその方は座っていた。 


 他でもない――魔王様だ。

 今日も深くフードを被っていらっしゃって、その素顔は僅かにしか窺えない。

 相変わらずの圧倒的な存在感についつい息を呑んじゃうなぁ。

 ただ、こういう場ではその存在感を抑えてくれるので、数秒と立たずに私達は安堵の息を零す事となる。


『この度はわざわざの御足労感謝する、異世界人の諸君。

 取って食う訳じゃないから、安心して気を緩めてほしい。

 もう少ししたら、フェークやお菓子もこちらに運んでくる予定なので、それをつまみながら気軽に聴いて、気軽に言葉を交わしてくれ』

「……そんな気軽さで問題ないのですか?」


 これまで黙して言葉を発しなかったはじめくんが問い掛ける。

 基本年上相手でも特に言葉遣いを気にしないはじめくんだけど、魔王様相手だからなのか初手から敬語だった。

 そんなはじめくんに、魔王様は微かに笑みを含んだ調子で答えた。


『こういう場において重要なのは、内面的な真剣さ……正しく向き合っているかどうかだ。

 表面的に気難しく重々しく話し合ったからと言って、内容が充実する訳ではないからな。

 むしろして語り合った方が意見は出やすいだろう』

「だよなぁ――さすが魔王様、そういう所尊敬してますぜ、マジで」 


 そう言って寺虎くんは、うんうん、と満足そうに頷いていた。

 寺虎くんなりに丁寧さを交えている辺り、敬意はしっかりあるんだろうなぁ――あ、レイラルドの皆が若干顔を引きつらせてる。

 あー……私達、何度かここで話したりした面々は、寺虎くんの態度や魔王様もその辺り気にしてないの知ってるけど、知らないとそうなるよね、うん。


『ふむ、理解いただけたようで何よりだ。

 では早速気軽に今回君達を呼んだ理由について話すとしよう』


 私がフォローを入れるべきかどうなのか考えている内に、魔王様は『気軽に』話をはじめていった。

 うーむ、流石魔王様だと私もしみじみ思いますね、ええ。


『そうだな、どこから話せばいいか……ふむ、単刀直入がいいか。

 まず、私としては君達にやってほしい事があるんだ。

 君達異世界人にはこれから――世界各地で眠り潜んでいる守護神獣に接触を図ってほしいと考えている。

 その際、状況によっては……彼らを倒してもらう必要があるんだが』

「ええぇっ!?」


 そうして暢気に考えていたので、いきなり提示されたとんでもない内容に私は思わず声を上げてしまったのであった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る