134 みんなが手を取り合う為の、大激戦㉕
「しかし、どういう事なんだろうな、この人達」
戦いの最中――戦場にて『風』を読み、言葉無き連携を行っていた
彼はすぐ側で魔術による支援を行っている
そう出来ていたのは、この辺りにいる『
戦いで倒れた騎士達には兜が外れたもの、破壊されたものも何人かいたのだが、その顔を見て望一や戦っている人族・魔族の混合部隊は多少なりとも困惑していた。
同じ銀髪、同じ碧色の眼までは分かる……だが、彼らは全員同じ顔立ちの青年だった。
さらに言えば、改めて観察すると体格もみな同じで、極端な身長の高低差もないようだ。
「俺らで助けた王様と入れ替わってたのと同じクローン、なのかね。
でもなぁ……」
クローン。
主にSF系の漫画や小説などで最早馴染みとなっている、遺伝子情報が同一の存在。
馴染みゆえ、科学的な知識はさっぱりな望一でもそういう存在がいる事くらいは分かっている。
ただ、ここは所謂『ファンタジー』な世界なんじゃなかったのだろうか。
魔法や魔術が存在している世界で、科学は自分達の元居た世界程には発展していない世界――という認識を望一はしていた。
していたのだが……どうにも彼ら――神々の使いとやら絡みは、自分達の知る技術と同じ位、いやもしかしたら上なのかもしれない、そんな技術が散見されているような気がする。
世界を構成する要素が渋滞気味というか食い違っているというか……どうにもおかしい事になっている事に、望一は違和感を禁じ得なかった。
「この世界って、なんなんだろうな」
「……。なんだか哲学的な問い掛けしてんね。
存外
「がじ――? どういう意味?」
「賢い人が持ってる深い趣的な☆」
「うーむ、よく分からないけど、俺からは遠い言葉な気がするなぁ」
たまに実羽は、こうして難解な四字熟語を使う。
しかもちゃんと意味を理解して使っているようなので、そういう言葉が頭に中々入ってこない望一としては感心するばかりである。
魔術制御の杖を振るいつつ、そんな望一に笑みを向けながら実羽は言った。
「いやいや、フィーリングで理解してるっぽいし、結構遠くないかもよ、マジ☆
本当に遠いのは……きっと、この場ではアイツくらいなんじゃないかな」
実羽の言う『アイツ』が誰なのか望一にはすぐには分からなかった――多分、この騎士達に指示を送っている、あのフィフスとかいうヤツなのだろうけど。
なんとなく分かった事としては――そう呟いた瞬間の実羽の声音には怒りや苛立ちが微かに込められていた、ぐらいか。
「ま、それはあっちにポイッちゃうけどさ。
多分明確に答えられるの、そんなにいない気すっし。
でも――」
瞬間、何を思ってか空へと視線を向けて、実羽は呟いた。
「あたしらが元の世界に帰れる時には、けっこー分かっちゃうのかもね」
そんな言葉を零した瞬間――望一は、思わず小さく息を呑んでいた。
言葉調子こそいつもどおりなのに、実羽の表情が大人びたものに見えたからだ。
幼稚園くらいの頃の、綽名しか思い出せない友達が映る写真画像を見ているような、何か――遠い何かを懐かしみ寂しく思っているかのような、そういう顔をしているように思えた。
「
「いや、そんな大層な意味じゃなかったんだけどなぁ」
そんな彼女に真面目に返してしまうとなんだかこちらも寂しくなってしまいそうだったので、望一はただ『楽しい形』を若干意識した苦笑を返した。
そんな望一に、実羽はただ『同じ笑み』を返した。
望一がこの時の会話や実羽の表情の意味を、彼なりに理解するのは――少し先の話である。
「自分の事を、何も知らない――?」
困惑の中で呟いたのは、世界守護騎士団党員騎士たるアリサ。
彼女は突如身体が動かなくなり、地面の上に横たわっていた。
そうなった理由はまるで分からない。
だが、それは意図的に引き起こされた状態である事は明らかだった。
彼女を頭上から見下ろして哂う――上司であったはずの男、バヴェート・ゴドディフィード。
他でもない彼がもたらした結果である。
彼が何かしらを呟いた瞬間に今の状態になってしまった事から魔術言語による効果を疑ったものの、その際魔力をまるで感知できなかったので、そうではないのだろうと思い直す。
だが、そうだとすれば一体何なのか――分からずに、アリサは彼の言葉を反芻するように呟いた。
そうした後に、かろうじて動く口で、そんな事は――何も知らない事はないと抗弁するような言葉を続けていく。
「私は――なんらかの理由ではぐれた、貴方がたと同郷の存在。
貴方が操る騎士達と近しい……おそらくは作られた人間――そうではないのですか?」
アリサは、世界守護騎士団副団長でもあるスカードからの指示で動く中、騎士達に遭遇・戦闘する事が数える程度にあった。
その際、彼らが全員同一の顔を持つ、同一の存在である事を知った。
そして、彼らが自分に近しい要素――銀髪に碧色の眼、白い肌を持っている事も。
確かに、バヴェートの言う事の全ては否定できない。
自分自身の出自を詳しくは知らない――それは紛れもなく事実だからだ。
分かる事は、物心がついた時には一人でこの世界にいて――思い出したくもない放浪を経て、世界守護騎士団の一人に預けられるに至った、というだけ。
しかし、薄々は分かっている部分もあった。
この世界では異質な、自分の身体の中――頭に刻まれた戦闘手段。
この世界においては群を抜いた魔力や、その総量。
どこか人工物めいた容姿のカタチ。
それらからなんとなく察していた事が、騎士達との邂逅を経て、より確信に近付いた。
そう、自分はどこか違う
だから、何も知らない事はないのだと、半ば感情的に声を上げていた。
それは上司――世界守護騎士団の党長という、自分はおろか、多くの人々から敬意を持たれるべき立場を持ち、それに相応しい、高潔さや果たすべき責任を持っているべきであるながら、そこから外れている男への反発心が少なからずあった。
しかし、そうして上げた声を――
「ふ、はははははははは――!! やはり、貴女は何も分かっていない――」
バヴェートは文字どおり一笑に付した。
身体の自由を取り戻すべく、自分に出来る範囲で懸命に試行錯誤していたアリサはその笑いに更に困惑を深めた。
そんな彼女を
「いやいや、失礼。
推測でそこまで考えられた点については評価すべきなのでしょうね。
言っている事そのものは大きく間違っていませんし。
ただ――致命的に分かっていない事があるだけで」
「致命的に……?」
アリサは瞬間、背筋が凍るような――何かしらの悪い予感を覚えていた。
このまま彼の言葉を聞き続ける事が、それこそ自分にとって致命的なのではないか――そんな不安が過ぎっていた。
しかし、世界守護騎士団の一員として逃げる事はしたくない……そんな思いもあり、アリサは彼の言葉に耳を傾けた。傾けざるを得なかった。
バヴェートは、そうしてかろうじて動かせる視線で自身を懸命に見上げるアリサへと嘲笑を向けた上で告げた――過酷な、ある側面においての真実を。
「貴女は失敗作なんですよ、アリサ。
本来の製作意図から大きく背き離れ、結果道具にさえなれなかった不良品――それが貴女です」
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