133 みんなが手を取り合う為の、大激戦㉔
「そんな有様だから、貴方は第五党党長止まりなんです。
だと、私は思いますよ――バヴェート・ゴドディフィード」
人族と魔族の和解調印式を邪魔するべく現れた『
『
世界守護騎士団の党員騎士たるアリサによって。
そうして露になったフィフスの素顔は、アリサの言葉どおり。
世界守護騎士団・第五党党長――バヴェート・ゴドディフィード、紛れもなくその人であった。
だが正体を露にされたフィフスは、どうという事はないかのように静かにこう呟いた。
「そうと決まったわけではないでしょう?
他人の空似や先程のロークス陛下の例もあります。
バヴェート・ゴドディフィードを模して作られた偽物の可能性も高いのでは?」
その、まるで他人事かのような発言に、斬撃を入れた後は距離を取っていたアリサは心底呆れ果てたとばかりに溜息を吐いた。
「この期に及んで何をふざけた事を……。
もう、そんな言葉遊びで誤魔化すような状況ではなくなっているというのに――。
貴方は本当に人族も魔族も等しく馬鹿にしているんですね。
そんな事だから、今日に至るまでの一連の流れの中で、貴方は気付くべき事を幾つも見落としていたんです。
例えば――影の中の尾行に気付かなかったり」
「……! なるほど、異世界人の力を借りたと――呆れ果てて失望しますよ。
この世界最強最優たる世界守護騎士団の名が泣きますね」
影を操る異世界人は、ロスクード高壁の戦いで見かけていて、今回も姿を見せている。
確かにあの力を使えば気付かれる事なく尾行する事も可能だろう。
そして、それはアリサと彼女達が繋がっている証拠であり――今日の一連の出来事が、奇行公グーマを始めとする面々による仕組まれた茶番である確信をフィフスは深めた。
連行されようとしていた八重垣紫苑が誘拐という体で行方不明になった、というのもやはり同胞達の自分への妨害ではなく、彼らとここにいる彼女の共謀なのだろう。
今の所明確な証拠こそないが、繋がっている事さえ分かっていれば、人海戦術で何らかの証拠を探すもよし、今日の事を終えた後で自白させてもよし。
全て向こうが仕組んだ茶番であるのが明らかとなれば、同胞達へ対して自分には非はないと最低限の主張はできる。
そうしてフィフスは内心でほくそ笑み――その心地のまま、なおも得意げに言葉を続けていった。
「そもそも、今回の事はあなたの独断ではないですか?
私が件のバヴェート・ゴドディフィードだとして、それを世界各地に情報が行き届いている中で明らかにすれば、世界守護騎士団の信頼は地に堕ちるのは明白。
団長や副団長程度でも気付く事が出来るです。
だというのに、こんな場所でさも自分は賢いんですよと喧伝するように語るとは。
もう一度言いましょう――失望し……」
フィフスは最後までその言葉を口にする事は出来なかった。
ギィンッ!と、鳴り響いた鋭い金属音――納刀の際の剣の柄と鞘の衝突がそれを遮ったからだ。
勿論、それをしたのはアリサに他ならない。
彼女は音が鳴り止んだ直後、剣に向けていた意識と視線を上げて――フィフスを刃さながらの鋭い眼で睨み付けていた。
「失望は、こっちの台詞です」
その、見ているだけで斬られそうな鋭い視線ゆえか、フィフスは口を動かさなかった。
そんな彼を気にする事はなく、アリサは言葉を紡ぎ続けていく。
「世界守護騎士団は、私にとって夢であり、希望です。
幼い事に捨てられて、自身が何者かですら知らなかった私がようやく辿り着いた居場所なんです。
だから私の望みのままに、命を懸けてでも騎士団にとっての為すべき事を為す、それが私の全てです。
きっとこの騎士団に所属する人は皆、そんな――それぞれの事情はあれどそういう思いを抱く人達ばかりだと信じていました。
ですが、貴方は違っていた。
貴方に分かりますか――党長たる、本来敬うべきはずの立場にいる方が、飄々とした顔の裏で相対する人間全てをを見下している事への失望が。
それだけでも許し難いのに、それどころか世界を支配するなんて野望に関わっていたなんて。
今改めて、私の方が先にもう一度言わせていただきます。
貴方には、失望しました」
「……先程の話を聞いていなかったのですか? それとも覚えていなかったのですか?
私がバヴェート・ゴドディフィード本人だという証拠があるわけでもないでしょうに」
この期に及んで詭弁を弄するフィフス、いやバヴェート・ゴドディフィード。
そんな彼に怒りを抱きながら――握り締めた装備に、すぐさま解き放つだろうその感情を注ぎ込みながら、アリサは告げた。
「それこそ、私もまた先程口にした筈です。
この期に及んでそんな言葉遊びは無意味だと。
この場にいる以上、党長本人かそうであるかはどうでもいいこと。
世界の平和を乱すような、よからぬ事を企む輩は叩き切るのみ。
あと、一つだけ言わせていただきます」
「なにかな――?」
「その、いちいち癇に障る物言いは――紛れもなく私がずっと監視していたバヴェート・ゴドディフィード本人です――ゆえに問答は必要ないでしょう」
そう言いながらアリサは腰低く、細身の剣の入ったままの鞘を、左手で握り締めて構えた。
訓練でバヴェートと手合わせしたり、実戦での立ち振る舞いを見て確信している――油断するつもりはないが、バヴェートは自分よりも遅い。
ゆえに、口にしたとおり問答は必要ない――次の一撃で決着をつける。
これ以上良からぬ事を考えられないように。
世界守護騎士団の存在を汚されないために。
そんな決意を込めて、アリサは地面を蹴り――瞬きの間に、いや、それよりもずっと早く、バヴェートとの距離を詰めた。
どういう事なのか、諦めでもしているのか……信じられない事に――バヴェートは構えらしい構えさえ取っていなかった。
なにやら小さく息を吸っているが……口の中に何か仕込んでいるにせよ、それよりも早く終わらせればいい事だ。
そうして眼前に到着したアリサが抜剣しようとした、まさにその時だった――
「コード・HUKIJTKF7453827473」
――バヴェートが一息と共にそれを呟いたのは。
「え?」
思わず、少し間が抜けた声がアリサの口から零れる。
それほど信じられない――まったく理解が出来ない事が起こっていたからだ。
気が付くと――アリサは地面に倒れ伏していた。
柄を、鞘を握った体勢のままで、剣を抜く事さえできないままに。
魔法? 魔術? いや、何かが発動する気配すらなかった。
なのに、身体がまるで動かない――
「――――いやぁ、実に愉快ですね。
自分の事を何も知らない愚か者が、無様を晒す瞬間というのは」
そうして、アリサが混乱と動揺に満ち満ちた中で響き、頭上から降って来たのは他でもない。
明らかに
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