132 みんなが手を取り合う為の、大激戦㉓
「なるほどなぁ」
戦いの中、激突の直後距離を置いた瞬間にダグドさんは少し前と同じ言葉を呟いた――少し離れた所で明らかになった……世界に中継されているその事実を眺めながら。
すなわち、神々の使いを名乗る軍勢『
「なにが、ですか?」
私・
彼も小休止が欲しかったのか、肩を竦めつつ律義に応えてくれた。
「あのいけ好かない奴が世界守護騎士団の中に潜り込んでた事にだよ。
あそこは人間様と世界を守る為に日々いろんな情報が入って来るんだろ?
世界情勢を知っておきたい、あの胡散臭ぇ連中にしてみればうってつけの場所だ」
確かにそうなのだろうと納得は出来る。
これまでの歴史の詳細を知っている訳ではないけど、世界守護騎士団は今まで人と世界を守る為に様々に活動、活躍しているらしい。
人はおろか世界に仇なす魔物を退治したり、国家間の争いに公平な第三者として介入したり。
その活躍があればこそ、人々は彼らを信頼して様々な情報を渡してきたはずだ。
神々と自分達を呼称する方達が何を思っているかは未だ分からないけれど――正直、現状……人族と魔族の和解の妨害に動いている事を考えると、そんな人達に世界の情報、特に表向き明らかになっていないアレコレが伝わっているかもしれない事は、少なくとも喜んで捉えられる事じゃないと思う。
「いや――騎士団そもそもの成り立ちが、連中がそういう目的の為に立ち上げたって線もあるか。
ま、俺様は詳しい事ぁ聞いてないから知らないがね」
「……そういう可能性があるのは、事実でしょうけど」
「お、浮かない顔してんなぁ……人間様の善性が否定されて、いい子ちゃんなテメェは不愉快って所か?」
「別にそんないい子ちゃんじゃないですけど――。
さておき、あまり良い気持ちじゃないのは確かです」
フィフスさん――極稀に姿を現すという、騎士さん達を指揮する人達、その中の一人の正体については、今回の戦いに当たっての話し合いの中、魔王様達から推測として語られていた。
彼が繋がっているのだとしたら、幾つもの事に納得がいくのだという。
例えばロクシィード王城で起こっていたロークス陛下の拉致。
それに当たって、王城内の陛下達の動向が監視されていたらしいのだけど、それをどうやって知る事が出来たのか。
王城内は外敵からの魔術的な仕掛けは通用しないようにできているらしいのに、その辺りをどう掻い潜ったのか。
なんでも神々の使いとやらは、機械的なものを使用するとの事なので監視カメラのような機構を使っていた可能性が高いらしい。
では、そもそもそれはいつどうやって仕組まれたのだろうか。
機械的な空間転移であれば魔術の仕組みは無視出来るにせよ、そうやって王城内に侵入した時に誰かに見つかっては元も子もない。
つまり、そもそもそうして侵入する以前に王城内の動向を探る仕組みを構築しておかなければならない、という事だ。
だが――それをクリアする為に『世界守護騎士団』という肩書が使われていたのだとすれば、どうだろうか。
世界守護騎士団の任務として王城内に入り、謁見し――そういう状況で隙を見て、その手の仕組みを設置出来ていたのなら、今回の事に説明がつくだろう。
実際、バヴェートさんはこの地に赴任するにあたって、王城で謁見した事があり、その機会に城内の見学を希望していたらしい事も分かっている。
その時に、今回使っているような使い魔的なドローンを放っていた可能性は極めて高いんじゃないだろうか。
事実、事前に調べてもらった所、王城内では幾つかの見た事もない機構の『何か』が発見されたらしい。
詳しい事はまだ分かっていないけど、それがカメラもしくは空間転移の為の座標位置のマーカーその他、何かしらの役割を果たしている可能性は低くないだろう。
勿論それがバヴェートさんに、世界守護騎士団に繋がっているとは言えなかったんだけど――ああして素顔が明らかになった以上、現状限りなく彼が、そして世界守護騎士団の一部がそういう暗躍をしていた可能性は、おそらくかなり高いだろう。
彼個人だけスパイ行為を働いていた可能性もない事はないだろうけど……騎士団全体がそうじゃないと断言出来ないのが現状だ。
だけど――。
「でも、私は――世界守護騎士団はそれだけの組織じゃないって、信じたいと思ってます」
そう、決して彼ら全体が『善意を利用する為だけの組織』じゃないはずだ。
内実を探っていたというアリサ、その師匠であるスカード師匠もそうだけど、
ディーグさん達と一緒に行っていた操騎士退治絡みの報告に赴いた際に話した事のある騎士さん達が、そんな組織で納得するとは思えない。
正しくあろうと思っている人達が確かにいるんだと、私は信じたかった。
出来れば信じていると言い切りたい所だけど、正しく理解出来ているかも分からないのに断言するのは失礼なので控えております。
……うう、なんだか少し罪悪感。
「ハッ、それをいい子ちゃんって言うんだよ、世間ではな。
だがな、まだ男も知らねぇだろうテメェには分からねぇかもだが、そういう、それなりに信じようとしたもんには結構裏切られるもんなんだぜ?」
うぐ、男の人を知らないという点については否定できないなぁ。
ダグドさんがからかうように笑って言ったからか、ちょっと大人な付き合いを想像して少し赤面する私です。
……なんか一瞬、何故か
一応伊馬さんの前では彼氏彼女――実はその関係上、彼女との話を聞かれた何人かにもそういう関係だと思われていたり――って事になってるからだろうか。
まぁ、それはともかくとして。
色々な心情を整える為に、咳払い気味に、んんっ、と声を零してから私は言った。
「いえ、確かに、その、私は深くは男の人を知りませんが。
それはそれとして――信じようとしたものこそ、結構そうならない事はなんとなく分かりますよ」
ああ、それは本当に分かる。
誰かや何かの事もそうだけど、自分自身についても……そうなってはくれない事の方が多い。
――でも。
「でも、だからって信じる事を諦めたくはないなって、私は思います」
そうして諦めてしまうのは、信じる事をやめてしまうのは、悲しい事じゃないかと私は思う。
上手く言葉に出来ないんだけれど――他の誰かをただ疑うだけになってしまうのは、自分一人だけになってしまうという事に近くて、なんというか、きっと寂しいから。
一人でも動じない強い人や自分だけの方が気楽って人もいるんだろうし、そういう考えを否定するつもりは全然ないんだけど。
ただ――私は一人でいる事が多かった割に、心が弱い寂しがり屋なので、他の人よりも寂しく悲しく感じがちというか。
そして、もしも他の人も私と同じ、あるいは近い気持ちになってしまったらと思うと……やっぱり、辛くて悲しいから。
裏切られるのは怖い事だ。
でもそう思うからこそ怖いと思う誰かこそを信じたい。
だから――私は信じたいと思ってる。
あえて公然の場でバヴェートさんの正体を明かしたアリサ。
きっと独断ではなく、誰かしらに相談しての事だろうけれど。
それでも、多分世界に――これまで世界守護騎士団が積み重ねてきた信頼そのものに向き合おうとしている事について心細く感じているかもしれない彼女を、今回の決断を知っている人達、これから一緒に向き合おうとしている人達を……信じたい。
私がそうであるように――貴方達の味方だって、きっとたくさんいるはずだからと伝えていく為にも。
「……ただ能天気に信じてるわけじゃなさそうだな」
私の表情や言葉の調子でその事を悟ったのか――その上でダグドさんは笑って言った。
「そういや、テメェは前ん時もそうだったか。
綺麗事をのたまうにせよ、テメェなりの理屈で考えた上での判断ってのは嫌いじゃないぜ。
だが――だからこそあえて、言っておいてやる。
おそらく、テメェはその上で裏切られる事になる」
「……それは一体、どういう意味ですか?」
「ハッ、これ以上はナシだ。
後の楽しみがなくなっちまうからな――じゃあ、休憩十分って所でそろそろ再開と行くか」
正直その話も気になるし、アリサ達の方もそうけれど、それはそれ。
「結構テメェと戦うの楽しいんでなぁ! もっと堪能させてくれよぉ――!!」
「堪能してもらえるかは分かりませんが――先程も言ったとおり、私のありったけ、お見せいたします……!」
ダグドさんの全力を受け止めるべく、私はヴァレドリオンを強く握り締め直すのだった――。
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