131 みんなが手を取り合う為の、大激戦㉒

「第五党党員騎士、ですか」


 世界守護騎士団の黒と白に彩られた鎧を纏ったアリサは、何とも言えない表情で呟いた。


 人族と魔族の和平調印式に臨んだ面々を守る為に作られた大結界。

 それを破ろうとする者達とそれを守ろうとする者達の間で激戦が続く中、アリサと彼――『蒼白そうびゃく騎士きし』達を束ねるフィフスは対峙していた。


 そんな中、無機質なフィフスの言葉が周囲の戦いの喧騒の最中に響いた。


『どこか不満そうですね』

「――ええ。

 私は、本来スカード副団長の……いえ、やめておきましょう」


 碧色の瞳でフィフスを見据えながらアリサは続けた。


「元々内実を探る為だったとは言え、今の私が第五党党員騎士なのは紛れもない事実。

 そして、為さねばならない事があります。

 その為にここに来たのです、私は」

『ほう、それはなんでしょうか?』

「分かっているのではないですか、フィフスとやら」


 そう告げた後、アリサは先程騎士達を倒した魔循兵装の青い光刃を霧散させた。

 そして、右腰の魔循兵装専用の固定具に戻した後、左腰に装備していた細身の刃を抜き放った。


『騎士団最新装備たる魔循兵装は使わないのですか?』

「魔力で心身に衝撃を与えて気絶させる――相手を生かすには便利な機能です。

 ですが、ゆえに今この時は邪魔です」


 鈍い銀の光沢を放つ剣を構えつつ、彼女は告げる。


「貴方を確実に殺す、今に限っては」

『なるほど――しかし、殺せますかね』


 フィフスはそう答えると、握っていた魔循兵装を彼女同様に専用の固定具――左側の腰部に設置されている――に仕舞い込んだ。

 直後、自身の両手から魔力光の刃を展開させる。


「ふむ――初めて見る機構ですね」

『見た目が近いからと言って人形共と同様の装備だと思ってもらっては困ります。

 私が指揮官たる存在である以上、より高度なものであってしかるべきでしょう』

「見解の相違ですね。

 私はみな同じであった方が士気が高揚するかと思いますが」

『理解に苦しみます――ああ、しかし、それはそれとして貴女には礼を言わねばならないかもしれません』

「――何故ですか?」

『先程まで、理解出来る範疇の外にいる者とばかり話してましたからね。

 理解に苦しむ程度で済んで、幾分心が落ち着いてきました。

 その上で貴女が地面に這いずる姿を見れたなら、きっと完全に平静になる事でしょう』

「……それこそ、私には理解出来ませんね。品性が感じられません」


 そう言うと、アリサはちらりと、今なお激しく続いている八重垣やえがき紫苑しおんとダグドの戦いを一瞥した。


「彼らの方が、余程品性のある――いえ、明らかに誇り高く生きています。

 自称神々の使いなどよりは余程」


 そう告げた次の瞬間、火花が彼女達の間で弾けた。

 刹那、繰り出されたフィフスの光刃をアリサが魔力を纏わせた剣で切り払ったがゆえのものだった。


『前言を撤回します――貴女もどうやら理解の外にいるようです』

「それは結構。

 趣味が合わなくて安心しました」


 アリサの言葉に応えたのは、フィフスが再び地面を蹴る音だった。

 際立った速さゆえか、まるで舌打ちにも聞こえるそれがアリサの耳に届いた瞬間、フィフスの光刃はアリサが立っていた場所を斬り裂いていた――だが。


「想像以上に気が短いですね」


 アリサは文字どおり目にも止まらぬ斬撃を、音もなく躱し、フィフスの背後に立っていた。


「存外、人は仮面を被っている方が本性が出やすいものなのかもしれません。

 、こうも感情を剥き出しにはしないのではないですか?」

『よくもまぁ囀るものです――!』


 そう呟いた後、フィフスは両手による斬撃を繰り出し続けた。

 結界の中から見守る者達の殆どにとって、その速さは視界に映す事すら困難なものであった。


 しかし、そんな斬撃の群れを、アリサは剣で受ける事さえなく全てを回避してのけていた。

 傍目から見ればアリサの方がゆったり動いているように見えるのに、だ。


『――――っ!』

「何故当たらないのか、不思議に思っている様子ですね」

 

 斬撃を繰り出す最中兜の奥から零れ落ちた、苛立っているような息。

 それを聞き取ったアリサは、ゆらゆらと風に舞う木の葉のような回避を見せながら言った。


「あなたは先程、貴方が人形と呼ぶ騎士達とは装備が違うとおっしゃってましたが――速さはともかく、体捌きはよく似ています。

 実に無駄のない理想的な……0か1かの規則正しい動きです。

 その動きを、

 それゆえに――」


 次の瞬間、アリサは斬撃の隙間――フィフスの両腕の中に滑り込んで体当たり――肩から体そのものを叩き付けた。


『――ぐっ!?』

 

 フィフスにはその動きそのものは見えていた。

 見えていた、分かっていたにもかかわらず、対応が思うようにできなかった。

 それでも自身の膂力を持って強引に身体が弾き飛ばされるようにはさせなかったものの――。

  

「先を見切る事など容易く、0と1の間にある動きが硬直する隙もハッキリ見えています。

 ただ圧倒的な速度と力任せで終始するとは――実にガッカリです」


 そうして生まれた隙を見逃すはずもなく――青い魔力光を纏ったアリサによる、地面から空へと昇るかのような剣閃が奔り抜けた。


「そんな有様だから、貴方はなんです」


 直後、フィフスの兜が弾き飛ばされ宙を舞い――真っ二つの状態で地面に転がった。


「だと、私は思いますよ――バヴェート・ゴドディフィード」


 そうして露になったフィフスの素顔は、アリサの言葉どおり。

 世界守護騎士団・第五党党長――バヴェート・ゴドディフィード、その人であった……。

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