129 みんなが手を取り合う為の、大激戦㉑

「なるほどな」


 私・八重垣やえがき紫苑しおんが空中に展開した、魔力で構成されたブロックを、地上から数十メートルの空高くから見下ろして彼――ダグドさんは感心した様子で呟いた。


 私と彼は今、それぞれの立場ゆえに敵対していた。

 私は、今日この日行われようとしていた和解調印式を守って人族と魔族の和解を進めていく為に。

 彼は、その事で利用された怒りや私が知らない様々な想いの積み重ねから調印式を破壊する為に。


 敵対したいわけじゃない――でも、今は戦う他ない。決着をつけるしかない。

 そんな思いで彼を見上げると、彼もまた私を見下ろして言葉を続けた。


「テメェが空中で駆け回るための足場を、俺様が自由に飛び回れない為の障害物としての意味も込めて無数に生成する――

 実に理に適った考えだ――だがな」


 言いながらダグドさんは、大剣の魔循兵装を持っていない左手で――


火炎弾連・撒レイ・タイ・リッド・ピード・スーカッ!!」


 舞うように飛び回りながら、ブロックを破壊する為なのか、構築した火炎魔術を辺り一面にばら撒いていく。


 ダグドさんは私の武器生成魔法と同様に、炎の魔力を魔術言語の詠唱なしで――魔法で放つ事が出来る。


 だけど、その威力は圧倒的な破壊力、というほどじゃない。

 肉体に炎熱を纏わせた時ほどの攻撃力ではないのは、ダグドさんの気質というか資質による所なんだろう。

 事実【ステータス】で見た所、ダグドさんの魔力資質の値は遠距離より近距離が高い。


 なので、魔炎を威力のある放出の形――遠距離攻撃で使用するには、魔術の形にして、魔術言語で攻撃力を高める必要がある……という事なんだと思う。


 ともあれ、そうして高めた威力の魔炎弾は、明確な狙いを付けていないのかブロックのみならず地面にも炸裂して大きな爆風を撒き散らしている。

 いや、これは――


「こんなもん、全部ぶっ壊せば何の意味もないだろうが!」


 ブロックに当たって私の足場を破壊するもよし、地上や空中での私の移動を阻害するもよし、私自身に当たってもよし。

 ある程度何かに当たるようには意識をしているんだろうけど、あえて狙いをつけ過ぎない事――視線や体勢を大きく動かさない事で、彼の動きを予測し難くしているんだろう。


 それこそ、実に理に適った攻撃だ――だけど。


「――はぁぁっ!!」

「っ!?」


 辺り一面に展開される爆発、爆炎の中を潜り抜けて大きく跳躍――ジャンプ力で届かない分は途中のブロックを足場にして飛び移りながら補って――上空へと到達した私はダグドさんへと斬りかかっていく事に成功していた。

 強力な攻撃――爆発のお陰で、ギリギリまで動きを隠す事が出来たのでありがたい限りです、はい。


 【ステータス】によって、私は魔術による攻撃範囲のみならず、威力の濃淡を視覚的に把握出来る。

 提示されたダメージ最小のルートを通った結果、私は殆ど無傷でダグドさんに肉薄する事が出来たのだ。


「ちぃっ!!」


 そうしてどうにか追い縋った、空中で放った一撃はかろうじて回避されてしまうけど――


「……逃がしませんっ!」

「くそがぁぁっ!!」


 高速飛行が停止したその隙を狙って超速生成した魔力の光槍の、上空からの連続射出がダグドさんに炸裂していく。


 私の魔力槍はダグドさんが着込んでいる『蒼白そうびゃく騎士きし』さん達と類似した――強固な鎧を破壊できない。

 私個人の出力限界まで凝縮・形成した魔力武器であれば破壊可能かもしれないけれど、流石にそれほどの威力を持つものは瞬時の形成が難しい。


 だけど、破壊は出来なくても衝撃を与える事は出来る。

 それが積み重なれば吹き飛ばす事も出来るし、ダメージも与えられる事は騎士さん達との戦いで証明されている。


「ぐあぁっ!?」


 それを証明するように、連続射出が積み重ねた衝撃に耐え切れずダグドさんは弾き飛ばされ落下していく――けど、即座に翼を展開、勢いを殺し、体勢を整えようとする。

 凄い対応力だ……でも、まだ攻撃を終わらせるつもりはない――!!


「さっき全部壊せばいいとおっしゃってましたけど――その時はまた作り直すだけの事です!」

 

 斬撃を繰り出した後、落下途中だった私は、新たに足場ブロックを空中に生成、そこにしゃがみ込む形で着地する。

 その体勢のまま、全長1メートルに満たないその足場の縁を左手で掴んだ直後、魔力操作で足場の上下を逆転――ひっくり返した。


 当然私もひっくり返るけど、


 地面を頭上に据えた私は、手を離すと共にブロックを足場に思いきり跳躍――落下速度も加える事で、落下していくダグドさんを追いかける。

 それと同時に高速生成を行い、再び辺り一面にブロックとを幾つも……さっき壊された分よりも多く形成し、それと並行してダグドさんが落下する先に――地上から十数メートルほどの高さだ――大きめのブロック1つを作り上げる。


「なっ!?」


 吹き飛ばされた勢いを殺しきれていないダグドさんは当然そこに激突――ブロックに皹を入れながら……動きが停まる。

 予想外の事に戸惑っている事も含めた隙を見逃す道理はない――!


「必殺――! 穿孔一貫せんこういっかん……!!」


 私は落下中の勢いを殺さないように体勢を整え、瞬時にヴァレドリオンに魔力を循環――必殺の突きを解き放った。

 溜めの時間が少し短かったので魔力の収束が8割くらいだけど、この隙を見逃すよりはずっといいと判断して。

 だけど――


「ハッ――んな半端な技で俺様を倒せるかよぉっ!!」


 咆哮と共にダグドさんは右手に持っていた魔循兵装の光刃に魔力を上乗せし、収束が甘かった側面部分を薙ぎ払った。

 私の収束のアンバランスさゆえか、彼が込めた気迫魔力の強さゆえか。

 ダグドさんの一撃は自身の刃をも破壊しながらも、ヴァレドリオンの光刃を粉々に砕いてみせた。


 ――でも、


「今ので倒せるとは思っていません――」

「……なにぃっ!?」


 私は光刃を粉砕された瞬間、ブロックを再度生成していた時に作り、待機させていた数本の魔力槍を射出――ダグドさんに叩き付けた。

 当たったのは鎧の胸元――もっとも頑丈な部位なので破壊は当然出来ない。


「がはっ!?」


 でも、与えた衝撃で新しい隙を作るのには十分だ――!

 背中のブロックを砕き、再度地上へと落下していくダグドさん――そこへ目掛けて、頭から落ちていく私は両足裏にごくごく小さな魔力槍を生成。

 その魔力槍を足裏に密着させた状態で射出――直後炸裂させて加速する。


「ちぃぃ!!」


 この短時間での魔循兵装の光刃の再生成は、私と同様出来なかったのだろう――ダグドさんは牽制の為に空いた左手で炎弾をばら撒いた。

 でも、正確な狙いを付ける余裕はなかったんだろう――そのお陰で殆ど当たる事はなく。


「これから倒させていただきますっ――!!」


 空中で身を翻し上下を逆転させた私は、魔力を込めた全力の……加速十二分の踵落としを振り落とした。

 牽制に放った炎弾を吹き散らしながらのその一撃は、私達の地面への到着と時をほぼ同じくしてダグドさんへと炸裂……周囲に衝撃を響かせた――!!

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