128 みんなが手を取り合う為の、大激戦⑳
かつてロスクード高壁で戦った、魔王軍3将軍の1人ダグドさんとの再戦。
ダグドさんは魔族全体でも間違いなく5本の指に入る強さという事は、今回に向けての作戦会議の中で魔王様からお話を聞いている。
前回はルヴェリさんの
そんなダグドさんに、少なくとも今は私一人挑まなくちゃならない事、不安がないと言えば嘘になるというか不安しかないというか。
ただ、私も以前戦った時の私より少しは強くなっているんですよ、ええ。
「行くよ――ヴァレドリオン!」
その意志を込めるように魔力をいつもより多めにヴァレドリオンに回す。
「まずは、挨拶代わりだ!
ダグドさんは駆けながら、武器を持たない方の手で炎弾の連続斉射魔術を解き放った。
一つ一つが生半可じゃない威力なので、幾つかをまともに喰らえばこれだけで戦いが終わってしまだろう――喰らうつもりはないですけどね……!
「ハァァッ!」
威力はともかく弾速は圧倒的というほどじゃない。
鍛錬の中、
経験させてくれていた
そのまま、勢いを殺さないまま駆け抜けて、一気に距離を詰めたダグドさんへとヴァレドリオンの光刃を振り下ろした。
――多分さっきまで戦っていた『
しかし、ダグドさんは自身が持つ魔循兵装の赤い光刃でいとも容易くその一撃を受け止めた。
「前ん時は魔術以外は殆ど殴る蹴るで俺は戦ってたが……武具が使えないなんざ言ってないぜ?」
「確かに、聞いてないですね――!」
「そういうこった!」
牙を見せて笑いながらヴァレドリオンを払いのけたダグドさんは、一気呵成の勢いで私に斬りかかってきた。
「っ! うぐっ! っとぉぉ!」
その、いきなり決着をつけるとばかりの凄まじい勢いに私は圧されていく。
剣撃のみならず、隙を見て魔術による炎弾も時折放ってくるのも合わさって、私は後手後手状態へと追い込まれていった。
というか、剣の鋭さが想像以上だ……!
一見パワーで押し切ろうとしているように遠目からは見えるかもしれないけど、実際に相対していると丁寧かつ的確に死角や隙から斬り込んでいるのが怖い位によく分かる。
スカード師匠との立ち合いの鍛錬で、同系統の攻撃に慣れていなかったら、多分あっという間に首を斬り落とされてますね、ええ――怖いなぁ。
「はっ! 思った以上に立ち合いできるじゃねぇか!!」
「私を鍛えてくれた師匠のお陰ですよ……! ――っく!」
ダグドさんの魔循兵装は大剣サイズなので、普通なら振りの大きさで動きを予測できるんだけど――ダグドさんの洗練された剣技はそれを容易に許してくれない。
流石にある程度の力を込めた一撃には一瞬の間が生まれるのでかろうじて防御や回避が出来ているけど、その後の私の硬直や動きのブレさえもしっかり狙ってくるので、文字どおり息つく暇もない。
更にそこへ炎弾を織り交ぜてくるんだけど、その速度が斬撃程速くないので、どうにも調子を狂わされてしまう。
野球で打者となった際、緩急自在の球をピッチャーに投げられた時のように、対応に迷いが生じるのです。
そんな暴風さながらの攻撃の渦に、私は徐々に対応が遅れていく。
最初は追い付いていた防御や回避も遅れ気味になっていき、頬や二の腕、太腿……各部を浅く切り裂かれていった。
炎弾は優先して躱しているから当たっていないけど、攻防が続けばその限りじゃないだろう。
「その師匠とやらとも戦ってみてぇもんだなぁ――だが、まず……!」
「くっ!」
その攻防の果てに、私はヴァレドリオンを大きく跳ね上げられる。
「テメェを殺す――!!」
絶好の隙を突いて、ダグドさんが振るう光刃が私の首を刈り取ろうと迅速で迫る。
先程の攻防ではかろうじてヴァレドリオンを落としてはいなかったけど……迎撃には間に合わない。
――そう、ヴァレドリオンでの迎撃は。
「っ!!?」
次の瞬間、ダグドさんは私へと振るおうとしていた剣閃の軌道を急速変更する。
その先は――私の周囲に突然現れた、魔力で構成された数十の光の槍。
ダグドさんは、生成と同時に自分へと連続斉射された光槍群を急ぎ迎撃する。
その全てを捌ききってしまうのは、ただただ凄くて、心からの敬意を抱く……でも、そこに生まれた隙を見逃す訳にはいかない――!
「ハァァァァッ!!」
「ちぃっ!」
私は体勢を整えた上で、思いきり力を込めたヴァレドリオンを一閃――するも、まともに喰らうのは避けたいのか、ダグドさんに大きく飛び下がられて回避されてしまった。
「ハァッ……ハァッ……」
でも、それはありがたいささやかな小休止だ。
その隙に、私は乱れに乱れた息を整えさせてもらう――勿論攻撃再開は十二分に警戒しておりますが。
そして――それと同時にどうやら上手く出来そうである事に安堵する。
「テメェ……なんだ、今の生成速度は――?!」
ダグドさんもある程度乱れた息を整えておきたいのか、あるいは純粋な疑問なのか、驚いた様子で声を上げた。
……不意打ちのつもりはなかったんだけど、ちょっと後ろめたい気持ちもあって私は答える。
「今の私に出来る、最速での生成です。
これまでは実戦に盛り込んでいくのが少し不安で躊躇っていたんですけど――貴方相手には、そうも言っていられないので」
最速生成の鍛錬についてはスカード師匠からの修行を受け始めた頃から日々行っていた。
そのかいあって、今の私は1秒に満たない時間で、それなりの魔力を込めた武器やブロックの複数同時生成が可能になっている。
ただ、生成工程は一瞬で出来ても、生成そのものには意識を多少傾ける必要があるので、一瞬一瞬命がけの攻防ばかりの戦場で、果たして十全使えるものなのかと不安な面もあった。
ゆえに、これまではある程度可能性を感じながらも、実戦での接近戦に織り交ぜての最速生成は避けていたのだ。
だけど……それを承知で今回は使わなくちゃいけないような気がしていた――前回とは違い、1人で戦う状況をどうにか埋め合わせるために。
だから、いざという時生成できるよう意識はしつつ攻防を重ね――今さっき咄嗟に使用してみて、どうにかできるんじゃないかと思えてきた。
いや、違う――そんな弱気じゃ駄目だ。どうにかしてみるしかないんだ。
ダグドさんの全力を、あれだけの感情の迸りを受け止める為に必要な私の全力――それはきっと、これまでの私を越えるような力を振るわなくちゃ適わないから。
だけど、今は――あえて言ってみよう。
弱気が駄目だといった所で、私の性格上強気に行く事は中々出来ないけれど。
相変わらず自分の事はそんなに好きじゃないし自信もまだまだないけれど――それでも、この異世界で私が……私達が重ねてきた時間は確かなものなんだから。
そう思った瞬間――ふと、かつて学園で交わしたサレスさんの言葉が脳裏を過ぎった。
『だけど貴女ならもしかしたらやってのけるんじゃないか――』
うん――だから、今こそやってみよう。
「ダグドさん」
「あん?」
「……改めてでなんですが――
かつて、スカード師匠に提示されていた私の――八重垣紫苑にとっての戦闘の理想形。
最初は出来る気がまるでしなかったそれを今こそ形にしてみよう。
それが本当に出来たなら――私はきっと、ダグドさんに勝てる……と思うから。
そんな意図が表情から伝わったのか、ダグドさんは不敵な笑みで私に応えた。
「はっ、さっきも言ったろうが。やってみりゃあいい。
どっちにしろ、テメェは死ぬんだからな――!」
再びダグドさんが地面を蹴る。
しかし、今度は私に向けて、じゃない。
空へと浮上、飛行する為の跳躍だ。
ここからは、ダグドさんにとって手慣れた――空中からの攻撃を織り交ぜた、三次元的戦闘が展開される、という事なんだろう。
私の展開する魔力槍も、空中戦を織り交ぜれば当て難くなり捌きやすくなる……そういう判断なんだと思う。
でも――そうそう思いどおりにはいかせまんとも、ええ。
「死ぬつもりはないですよ――そして、負けるつもりもありません」
そんな思いを込めて、私は魔力で形成されたブロックを視界のありったけに展開していった――。
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