127 みんなが手を取り合う為の、大激戦⑲
「ダグドさんっ!?」
私・
私達――人族と魔族と私達異世界人達の混成部隊は今、人族と魔族の一時和解調印式を妨害するべく現れた『
元々調印式は、一応表向きには行方不明になった私達の捜索――それには協力体制が必要だから、というのが行われるきっかけなので今現れて戦っているのは複雑というか不安というか申し訳ないというか。
それについてはこの戦いを切り抜けられたら、後で改めて考えよう、うん。
さておき。
目の前で現れた人もまた私同様に捜索される予定の対象だったりする。
魔王軍3将軍の1人であるダグドさん。
彼は少し前のロスクード高壁での行動を咎められ、魔族の領土にて捕えられていたのだけど――いつの間にか何者かに誘拐されていたとの事だ。
幾重に脱獄対策が施された牢に捕われていたにもかかわらず煙のように消え、消息を絶っていたのだという。
魔族側はこれを現在戦っている『
魔術・魔法対策完備の特殊牢からの脱出は人族も魔族も至難の技――それゆえに未知の存在たる『
そういう流れがあって、ダグドさんは私同様に共同捜索の対象になっていたのだけど――今の状況を考えるに、騎士達による誘拐、というのは間違いなかったんだろうと改めて理解する。
私は何度か空間転移の魔術による移動を経験しているけれど、今行われたものはそれらとは違うもののように感じられた。
ダグドさんが現れた空間の穴の形状――私達は丸っぽく、今さっき展開されたものは四角かった――もそうだけど、どういうわけか魔力の流れを感知出来なかったから、というのが大きい。
そしてなによりダグドさんが現れたタイミングだ。
私が『
この状況で、ダグドさんと彼らが無関係だとするには無理があり過ぎるよね、うん。
――彼らの味方、という事だろうか。
「俺様の名前、忘れてなかったようで安心したぜ」
私が握るヴァレドリオンと彼の持つ魔循兵装――騎士さん達が持っているのとは少し違う形状だ――の光刃の衝突が火花を散らす中、彼は変わらず獰猛な笑みを浮かべていた。
私の【ステータス】によると前回の戦いの傷は癒えているようで体力も魔力もほぼ満タンだ。
ただ気になるのは、騎士さん達と同系統の鎧――カラーリングは以前戦った時の鎧に近いけど――を着込んでいる事と、彼の角や翼が焼け爛れて半ば形を失ったままである事だ。
あと、それと関係しているかは分からないけど、ステータスが以前より若干下がっているような……?
いや、というか――。
「だ、ダグドさんみたいな人、そうそう忘れられないですよ――いえ、それより……どうして――っ!?」
言葉を続けようとした瞬間、ダグドさんは魔循兵装の大剣を振るい、私を大きく弾き飛ばした。
私は後方周囲にひとまず騎士さん達がいない事を確認してどうにか着地、ダグドさんに向けてヴァレドリオンを握り直す。
そんな私へと、ダグドさんの近くに残っていた、まだ倒されていなかった騎士さん達が駆け出す。
ダグドさんはスルーしている辺りやっぱり彼らは味方同士なんだろうな……そう思いつつ迎撃しようとした、その時だった。
「悪いが邪魔だぜ」
他ならぬダグドさんがその騎士さん達の眼前に光刃を振り下ろした。
それにより、振り下ろした先の地面が大きく抉れ、巨大な斬撃痕をそこに刻み込んだ。
かろうじて足を止め、直撃は回避した騎士さん達にダグドさんは告げた。
「死にたくなきゃぁ、他の所の手伝いしてろ」
思考していたのか、その言葉に暫し動きを止めていた騎士さん達は、その場の数人と視線を交わし合い――兜で顔は見えなかったけど、そういう動きだった――やがてこの場から離れていった。
『……何をしてるんですか、貴方は』
そんなダグドさんに声を上げたのは、大結界の壁面近くに立つ――数人の騎士を自身の周辺に待機させているフィフスさんだった。
何処か感情を――多分怒りだろう――押し殺しつつ、彼は言葉を続ける。
『人形共と連携して、その玩具をさっさと回収する――それが貴方に下した命令のはずです』
「ハッ……追い詰められなきゃ杓子定規なのは人形とやらと変わらねぇな、テメェも。
そんなんじゃ出世できねぇぜ?」
その言葉に何か思う所があったのか、握った魔循兵装の柄を強く握りしめるフィフスさん。
それに気付いているのかいないのか、ダグドさんはどこ吹く風な口調で言った。
「安心しろよ、この女は――俺様がきっちり殺した後でテメェにくれてやる。
そここそがテメェの出した命令の要点だろ?
そこから外れなきゃ笑って許すぐらいの寛容さは持った方がいいぜ」
『……行き場のない貴方を拾ってやった恩を忘れたのですか?』
「恩があるからこうして命令を聞いて、今も部下共を殺さなかったんじゃねぇか。
テメェの望みは叶えてやるよ……だから――俺様の邪魔をするな」
最後は圧倒的な威圧感を放ちながら告げるダグドさん。
それを向けられたわけではない私も、正直ビリビリ震えてくる位の気迫がそこには溢れていた。
それを向けられた当人であるフィフスさんは何を感じ、何を思ったのか――それは兜に覆われているため分からない。
ただ、静かに――でもハッキリとした声音でこう答えたのみだった。
『……そこまで吼えたからには、命令は絶対に遂行してもらいます』
「へいへい、承知してるさ大将」
先程までの気配が嘘であるかのように威圧感を霧散させながらそう言ったダグドさんは、改めて私へと向き直る。
「って、わけだ。テメェは確実に殺させてもらう」
「……納得できるまで何度も殺すんじゃなかったんですか?
いえ、その、勿論殺されるつもりはないですけど……一回殺してフィフスさんに渡す、みたいな形でいいんですか、ダグドさんは」
「お、ちゃんと言った事を覚えてくれてんのも嬉しいぜ」
話している物騒な内容とは裏腹に、というべきだろうか……彼は相好を崩していた――憎むべき対象であるはずの私に対して。
「だが、勘違いしてんな。
俺様は有言実行する
だがまぁ、借りがあるからなぁ――順序位は融通してやろうって思ってんのさ。
あっちのテメェへの用事が終わったら改めて納得できるまで殺してやる……いや、やっぱ何回か先に殺させてもらうのがいいか……?」
「そもそも殺されるのは勘弁願いたいんですけど――いえ、そんな事より」
「ああ……『どうして』俺様がこっちに味方してるって疑問か?」
笑みを浮かべたまま、ダグドさんはさっき一度激突した時訊ねようと思っていた事を律義に拾い上げてくれた。
それをありがたく思いながら、私は改めて疑問を口にする。
「そうです――えと、うまく言えないんですけど、あなたは魔族の人たちのことを大事に思う
それなのにそっち側……彼らに味方してるんですか?
彼らは……」
「ああ、こいつらは人族にも魔族にも――この世界にも害しかないクソ野郎どもだろうな。
先んじて言っとくが、別に俺様はこいつらに洗脳されたわけじゃねえ」
「だったらどうして……私を、殺す為、ですか?」
「ああ、そいつはデケェ理由だ」
そう呟いた瞬間――ダグドさんは先程フィフスさんに向けた凄まじい威圧感を私へと解き放った。
……以前ロスクード高壁で感じた時よりも凄みのある気配を叩きつけられ、全身が粟立っていく。
それをどうにか堪えつつ、私はダグドさんの話に耳を傾け続けた――いざとなれば即座に戦闘開始できるよう意識しながら。
「テメェは俺を邪魔した上に虚仮にした――ソイツを許すつもりがねぇのは事実だ。
だが、それだけじゃあねぇ」
「――それだけじゃない……?」
意図が読めず思わず呟くと、ダグドさんは牙を露わにして獰猛かつ狂暴に笑いながら言った。
「俺を虚仮にしたのはテメェだけじゃねぇってことだ。
なぁ――! 聴こえてるんだろうがよぉぉっ!!
魔王様ぁ!! それからくそったれのニィーギィッ!!」
結界内にいる魔王軍司令代行ニィーギさん、そしてロクシィードの王城にいる魔王様。
状況を見守り続けている彼らにハッキリと届くようになのか、ダグドさんは空へと吼えたぎった。
「この俺様をクソ下らねぇ和平調印とやらのダシにしやがった事、そもそも最初から仕組んでやがった事、忘れてねぇからなぁ、俺様はよぉぉぉっ!!」
その叫びを見て、改めて察する――あくまで私なりにだが。
元々人間との和平を望まない――むしろ戦争を望んでいたダグドさん。
そんな彼が人間の領域の最前線に配置されていた事は、果たしてどんな意図があったのだろうか。
私には魔王様達の考えは窺い知れないけれど、元々仲間であるダグドさんをして『仕組んでいた』と思える要素は――多分あったんだろう。
それだけならまだしも、その上でさらに今回の和平調印式での口実にされていたのは、ダグドさん的には納得出来るものでは到底なかったはずだ。
『誘拐』された事――彼らへの協力についてはダグドさん自身が望んだ事であったにしても、それはそれ。憤慨しない理由にはならない。
きっと――そういう積み重ねに、ダグドさんは怒りを露わにしているのだ。
気持ちが分かるとは言えないけれど……怒りの方向性に傾くのは、すごく納得出来た。
私も今回そういう部分があったからこそ、尚の事。
「だからこそ、テメェらのくだらねぇ仕組みや計画や、思惑なんざ、俺様が全部ぶっ潰す――!!!
魔族全体のこたぁ、そのツケを払ってからだ……そして、その為に」
空への意志表明の為の視線、その方向を私へと落とした上でダグドさんは再び哂った。
これ以上なく愉しそうに――そして、これ以上なく兇暴に。
「八重垣紫苑――!!
どうにも癪に障るテメェを真っ先に、これ以上なくぶっ殺した上で、邪魔する奴もぶっ殺して、和平に参加した全員ぶっ殺して、この辺り全部まっ平らにしてやる……もう二度とくだらねぇ企みをする気なんざなくなるようになぁ――!!」
空気が――いや、なんというか、マナそのものが震えているかのような咆哮だ。
……元より出来ないと思っていたけど、戦いは避けられないだろう事がこれ以上なく伝わってくる。
正直怖い。怖過ぎる。ちょっと股下が心配になる位に震えそうになる。
――でも。
『だから、もしも自分を見失いそうになった時は思い出せ』
(……そう。いつもと同じ、だ)
かつてスカード師匠から伝えてもらった言葉が脳裏を過ぎる。
そう、戦いは本質的にはいつだって同じ。
命を懸ける事も。怖い事も――いつもと何も変わらない。
その上で、そういうものを噛み殺して――勝つ為に全力を尽くすだけだ。
そうしていつもどおりを取り戻した私は、ダグドさんを精一杯に真っ直ぐ見据えて懸命に声を上げる。
「申し訳ありませんが――そうさせるわけにはいかないんです……ダグドさん――!」
ダグドさんの思う所については、それこそ私も思う所がある。
だけど、ダグドさんの願いを成就させるわけにはいかない――だからせめて、対象が私だけに限られるのなら、私相手で思いっきり吐き出してもらおう。
そんな決意を込めて、私も咆哮を上げる――とまではならないけれど、私なりに強く叫んだ。
ダグドさんの意気に負けないように。それでいて受け止めるように。
「だから、せめて――せめて私の全力で受けて立ちます……!!
貴方が疲れて何も出来なくなるくらいに、全力を使い切ってもらう為に――!」
「ハッ――やってみりゃあいい……そうなる前に、テメェが全力使い切ってくたばって終わりだがなぁ!!」
そうして、私とダグドさんは同時に地面を蹴り……私達にとって、二度目の戦いの幕が切って落とされた――!
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