125 みんなが手を取り合う為の、大激戦⑰

 私・八重垣紫苑は、今回の戦いに向けてヴァレドリオンを使った『命を奪わずに済む技』の鍛錬を進めていた。


 だけどそれは冒険者としての立場から考えればただの思い上がりではないか、という考えが浮上し、それと同時に『私は人族と魔族の和解を目指すグーマお父様の養女でもあるし、それを考慮すると殺さずに済む技は必要になる』という思いも頭に過ぎり、私は幾つもの立場考え方の中で悩む事となってしまった。


八重垣やえっちは真面目だねぇ。でも考え過ぎじゃね?」


 そんな悩みに捉われた私が、悩むあまりにその事についてついつい呟くと、その日の鍛錬に付き合ってくれていた麻邑あさむら実羽みうさんが素敵な助言してくれた。


「いざとなれば殺す――それ含めて覚悟決まってるんでしょ?

 なら、誰にどう言われたとしても、その上での生かすも殺すも八重垣やえっち次第じゃん。

 その後の事にも責任背負うつもり満々なら、殺したくない相手は殺さない、それでいいじゃん☆

 ほら、あのダグドを――ダグっちを庇った時みたいにさ」


 ポンポンと背中を叩かれつつ笑顔でそう告げられた事で、私の中の胸につかえていたものはきっと取れたのだと思う。


 矛盾はたくさんあるんだと思う。

 指摘されたらまた悩んでしまうかもしれない――いや、これもまた『強くなる事』についてと同様に悩み続ける事柄なんだろう。

 

 だけど、それでも今の私は『命を奪わずに済む技』が必要だと、これまでの積み重ねで判断した。

 ならひとまずその技をしっかと身に付けて、必要な時に必要なだけ使えばいい――覚悟が決まっているのなら麻邑さんの言うとおり『きっと、それだけの事』なんだ。


「真面目な人は、全部ちゃんと悩まなきゃいけないって思っちゃうんだろうけどさ。

 迷悟一如――考え過ぎは良くないって、うん」


 迷悟一如……なんでも、最終的に辿り着くところはひとつで、それゆえに迷いや悟りに囚われる必要はない、そういう意味らしい。

 麻邑あさむらさんが教えてくれた言葉は、実に的を得たものだと思う。


 異世界人であり、冒険者であり、グーマお父様の養女でもある私だけど、結局の所、私は私――八重垣紫苑だ。


 そして、私の辿り着きたい場所は、憧れは――ただ一つ。ずっとずっと変わっていない。

 どの立場の私だとしても、きっとそれは変わらない、変えられないものだ。


 だから――。




 だから、今はただ、全力を持って為すべき事へと手足を動かすだけだよね、うん。


 そうして意識を現実に戻した私は、ヴァレドリオンを決意と共に握り締め直す。

 そんな私を『蒼白そうびゃく騎士きし』さん達が一斉に取り囲む。

 円を形成した包囲網の中、最前列の人達が私への距離を一気に詰めるべく地面を蹴った――申し訳ないけど、そう簡単にはいかせない。 


「ランス!」


 私の叫びに――意志に応えて、待機させていた魔力の槍数十本を地面へと落下させる。

 何本かは騎士さん数人に当たったものの、今回の魔力配分では騎士さん達の頑丈な鎧を貫く事は出来なかったようだ。


 だけど、当たった際の魔力の炸裂、それによる衝撃は避けられない。

 直後、魔力によつ爆発が起こり、騎士さん達数人は衝撃で地面に倒れていく。


 うん、予想どおり。

 今回の戦いに参加するみんなでの事前の話し合いで語られた検証のとおりだった。




 『蒼白そうびゃく騎士きし』さん達の鎧は相当に硬く、生半可な魔術や攻撃を無効化するという厄介なものらしい。

 それをどうにかしなければそもそも戦いにならないという事で、突破の為の各人の意見が話し合いの場で飛び交った。


 そんな話し合いが進んだ先、鎧の防御力を越えてダメージを与える為の攻撃手段案としては、


 1・金属である以上通じる可能性が高い雷撃系の魔術 

 2・鎧と鎧の継ぎ目、隙間を狙う攻撃

 3・鎧の中身にダメージを与えるような、衝撃力が高い攻撃

 4・防御力を無視できる高い威力の攻撃


 などが提示される事となった。


 この内、幾つかは実際に通じた例が確認されているとの事で、その手段を持ち得るかどうかの有無が今回の作戦に当たってのグループ分けの基準になった。

 ……ちなみに、その中において澪ちゃんは特殊例だったりする――まぁ襲ってくる騎士さん達自身を操って対抗するなんて澪ちゃん以外には出来ないからね。

  



 さておき。

 今私が取ったのは、魔法で形成した槍の魔力を爆破させる事による、高い衝撃力でのダメージ手段だ。

 鎧は爆破そのもののダメージは防ぐけど、炸裂によって生じた衝撃で鎧の中身――身体や脳そのものを揺らされるのには耐えられなかったのである。


 だけど、それを可能にするのは、あくまで騎士さんに直撃した時のみ。

 地面に炸裂した分は地面を穿ち大きく土煙を上げるも、さらに前進を続ける騎士さん達には埃を被せるだけに留まった。


 そうして倒れた仲間さえも気に留めず前進した騎士さん達は巻き上がった土煙の向こうへと、灰色の光刃を振り下ろした――だけど。


 


「はぁぁっ!!」


 魔力槍が炸裂した段階で、私は目立つヴァレドリオンの魔力刃を一時分解、土煙に紛れて跳躍していたからだ。

 そこから、空中に形成していた魔力塊――ブロックを足場にし、そこからロケットさながらの勢いをイメージ、私を取り囲んだ騎士さん達の最後方へと飛び込んでいった。


 後方にいた騎士さん達も無警戒だったわけじゃないだろう。

 だけど、土煙で私の動向が見えなかった事、後方こちらに来る可能性の低さから対応が一手遅れたようだ。

 

 そして、その一手の遅れこそがこちらにとっては攻撃のチャンスとなる――!


「セイ、ヤァァァァァッ!!」


 先程よりも大きく生成したヴァレドリオンの魔力刃をもって全力全速で辺り一帯を薙ぎ払った。

 それにより、私へと攻撃を繰り出そうとしていた騎士さん達は鎧を破壊されながら味方を巻き込んで吹き飛ばされる。


 この一連の流れで更に生まれた時間の隙間。

 それを十分に活かさせてもらい体勢を整えた私は、再び周囲に魔力刃――のみならずブロックも含めて大展開する。


 これでより自由に駆け回る準備は完了した。

 後は確実な『道』が出来るまで、全力全開で戦うだけだ――!!


「行きます――必っ殺っ!! 穿孔せんこおいっかんッ!!」


 そうして解き放った私の一突きは、幾人もの騎士さん達を白光の軌跡を描きながら一直線に穿ち――

 

「もう一つ――!! 穿孔一貫せんこういっかんかさねっ!!」


 その最中で跳躍・反転、空中に浮かぶブロックの側面を足場にして、空中から再度の一突きを炸裂――騎士さん達を防御ごと吹っ飛ばさせてもらった。


 複数回分の力を最初に溜めておいての連撃――それが穿孔一貫せんこういっかんのバリエーションの一つ・かさね

 力の配分が難しくて、今の私だと二連撃が限界だけど……それでも、効果はあったようでホッとする。


 そして――『命を奪わずに済む技』も変わらず継続されている事にも一安心する。


「――――フゥッ」


 そんな安堵を込めた、排熱さながらの息を吐く……そこを――溜めた力を解き放った隙へと目掛けて、騎士さん達が殺到する。


 穿孔一貫せんこういっかんは私にとっての必殺技だ。

 そして、必殺技……通常よりも大きな力を込めていたゆえに、撃ち終えた後は多少の隙が生まれるのは避けられない。


 かさねはそれを補う為の技でもあるけど、今回は複数攻撃として使用、すでに溜めた力を使った後だ。

 だから当然のように隙が出来て、当然のように騎士さん達はそこを狙ってくる。


 でもだからこそ、、ええ。


 私へと踊りかかろうとした騎士さん達へ、待機させていた魔力槍を解放する。

 射出された光の槍が当たってくれたら御の字だけど、当たらなくてもそれはそれで構わない。


 回避か迎撃か――いずれにせよ、ささやかな時間を稼ぐ事は出来る。

 地面に当たれば先程と同じく目晦ましにもなってくれるしね。


 そうして隙を埋める事に成功した私はバックステップ、距離を取りつつ再び魔力槍を周辺に展開する。

 その動きを見越して追撃してくる騎士さん達を、生み出した魔力槍によって迎撃しつつ、無事距離を取って着地した私は戦場を見据えた。


 それなりに倒せはしたけど、視界内にはまだまだ数十から百を超える騎士さん達がいる。

 自身が倒される事を警戒してか前線に出てこない、彼らの長であるフィフスさんとの戦いに集中するには、彼らをある程度どうにかする他ない。


 実際彼との間には未だに騎士さん達による『壁』が形成されている。

 最低限、なんとかここを突破して進める『道』を作らないとお話にならない。


「――――戦いたくなくなった人は、下がってくれると嬉しいです」


 その言葉と共に、私はヴァレドリオンに再び力を収束……『蒼白そうびゃく騎士きし』達へと解き放つべく、再度地面を蹴ったのだった――。

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