124 みんなが手を取り合う為の、大激戦⑯
「ヴァレドリオン――! 力を貸してね!」
私・
彼らを前に、私は右手に握る魔循兵装に魔力を循環させながら願いを叫んだ。
「
それに応えてヴァレドリオンの刀身から白い刃が形成されていく。
ヴァレドリオンを初めて使った日からもう数か月経ったっけ。
一時は手元から離れていた時もあったけど、その分を埋められるように私なりに試行錯誤を重ねてきた。
まだまだ完全に使いこなしてるとは言えないけれど、刃の収束や魔力の配分は最初よりはずっとうまく出来るようになった。
自惚れるほどじゃないかもだけど、今なら
そして、さらに――!!
「
私の周囲に数十の、魔力で構成された光の槍を形成する。
最初の頃はゴブリンの皮膚を裂く事もままならなかったけど、そこから威力は結構上がってますので。
日々の鍛錬+毎日ちょっと時間が空いた時、こっそりナイフ位にサイズ調整して生成の速度や収束具合を工夫練習したのは無駄じゃない……と言えると思う、うん。
そうして私は私なりに少しずつ強くなってきた。
そうなって余裕が出てくると、あるいは視界が広がると様々な事を考えてしまうのが人間だ。
戦う為の――命を奪う為の技術を向上させる事そのものに、あるいは相手を圧倒する事に悦楽を覚えていないか、とか。
結局
多分鍛錬を続ける限り、そういう悩みはずっと続くんだと思う。
実際、そうだったし。
ただ、どんなに悩みを抱えて続けても――今の私のやるべき事は、目指す方向性は変わらない。
私は、弱い。
私が憧れているような
だけどきっと地道に歩いて、少しずつなら近付く事が出来ると思うから――ううん、きっと近付いていると思うから。
それは過信じゃない、と思う。
クラスのみんなから始まって、いろんな人との交流のお陰で、この世界でのたくさんの出来事を経て……ほんのちょっとだけ、私は自分を――強さではない部分の八重垣紫苑を信じられるようになった。
そう、私は前より少しだけ誰かの力に、誰かの助けになれるようになった――だから、これまでの歩みを信じて、これからも歩んでいこう。
悩みを抱えながらも私はちゃんと歩めるんだ、と自分自身をささやかに、ほんのちょっと強めに信じて。
――そんな決意を込めた一歩と共に、私は戦う為のスイッチを入れた。
「ハァァァァッ!」
それと共により魔力を注いだ事に応えて、ヴァレドリオンの刃が
私は肥大化した刀身で眼の間に殺到する騎士さん達を、彼らが剣を振り下ろすのに先んじて一気に薙ぎ払った。
ヴァレドリオンの一撃を受けた部分の鎧は斬り砕かれ、騎士さん達は大きく吹き飛ばされて地面に転がる。
だけど――その身体には一切の傷は……多分、痣は出来てしまうと思うけど、切り傷などは出来ていない。
よし、今日もちゃんと出来てる――内心で呟いて、私は安堵とともにヴァレドリオンに感謝する。
これこそ今回の戦いに向けて鍛錬してきたヴァレドリオンでの新技なのです。
この発想は、初めて世界守護騎士団の皆さんと出会い、決闘した時にいただいていたものだ。
そこで模擬戦用、そして武器・防具破壊仕様の魔循兵装の存在を知った時から、似たような事をヴァレドリオンで出来ないものかと私は考えていた。
人族と魔族との和解が進む中、敵対する相手でも殺したくない――殺すべきじゃない戦いが生まれていくだろう……その事をロスクード高壁の戦いで改めて思い至ったからでもある。
なので、今日に至るまでの間――誘拐される事で取り戻されてから以降、私は自分の身体や壊れた武器や防具、魔物退治で、ずっと鍛錬を重ねていたのである。
短期間でのこの技の構築は、私だけでは為し得なかった。
私の意思を汲み取ってくれたヴァレドリオン、練習用の武器類を準備してくれた魔族さん達、実践に付き合ってくれた『
当初、私は自分の身体のみを使ってある程度実践を進めようと思っていた。
だけど、その場合不測の――気絶や最悪失敗して死亡――事態が起こると対応出来ないので『
「いやいやいや怖い怖い怖い、自分で実験とか怖いよ紫苑ちゃん」
「マゾなんですか、紫苑は?」
「というか、そんなん魔物退治で試せばいいじゃねーか」
と、みんなはそんな私に若干引きつつ、他の実践案について幾つも提案してくれた。
特に、魔物退治の中で技術を磨く、という発想は私の中で思いきり抜け落ちていたものだった。
これまでだって少なからず魔物退治の中で自分を磨いていたというのに、改まると実験じみて思えて躊躇――何処か建前を気にしていたのかもしれない自分が恥ずかしく、情けなくなった。
時に相手を殺す覚悟を決める……でも、命を奪わずに済むのなら奪わずにいよう――そういう考えを変えるつもりはない。
だけど、私は冒険者でもあったはずだ。
そういう命についての様々な覚悟を、スカード師匠に問われ、鍛えられて、冒険者である事を選んだはずだ。
だというのに――思い上がったつもりはなかったけど視界が広がった事で、私は少し濁っていた……純粋な冒険者から離れてしまっていたのかもしれない。
しかし、そういう事を思えば、今回の大本である『命を奪わずに済む技』というのは、冒険者という職業から考えれば矛盾した、覚悟が足りない、思い上がった技なのかもしれない、とも新たな悩みが発生したりもした。
それと共に、よくよく考えれば私は冒険者というだけじゃなくて
だけど――。
「
思い悩むあまり、鍛錬の日々の中でそんな考えを呟いた時があった。
すると、その日付き合ってくれていた
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