123 みんなが手を取り合う為の、大激戦⑮

「くぅっ!! おい、大丈夫かよ!」

「……なんとかな」


 グーマ配下の戦闘部隊の一員と、魔族の青年が言葉を交わす。


 人族と魔族の混成部隊と『蒼白そうびゃく騎士きし』達の戦いが続く中。

 一糸乱れぬ戦いをさせては不利になるという判断だろう、指示によりこの辺り一帯は乱戦へともつれ込んでいた。


 その指示を出したのは、異世界人の少年だったわけだが……正直、当初は納得出来ない部分もあった。

 魔族達は魔王直々に従うように指示が出た事で、グーマの配下の面々はグーマや紫苑の話を聞いて、それなりに納得して指示に従う事にしたのだが――いざ実際に戦いが始まれば『納得出来なかった』部分はすぐに小さくなっていった。


 実際、少年――つばさ望一ぼういちの指示は流れを見極めた、納得のいくものだったからだ。

 少年の指示を魔術で伝える役割を担った少女・麻邑あさむら実羽みうの伝令も分かりやすく、また彼女自身の魔術によるフォローも上手く、状況は決して悪くなかった。


 だが、如何せん敵の質が予想以上に高かった。

 体捌きや魔循兵装の使い方は杓子定規で読み易いものの、そもそもの力や速度などの基礎的な力や魔循兵装の厄介さ、さらに数で上回られている事もあり、徐々に状況は一進一退から厳しいものになりつつあった。


 望一の『戦局を読む力』も全体的なものとしては悪くなかったが、個々人の状況とは噛み合わなかった点もあり、混合部隊は徐々に押し込まれ、押し切られる流れに傾きつつあった。


 そんな中、人族と魔族も自然協力し合い、声を掛け合って事態に対処するようになっていた。


 元々今回の作戦に参加した者達は、人族と魔族の和解に理解を示しているものが殆ど。

 友好の障害である『謎の衝動めいた嫌悪感』にも理解、もしくは慣れがある程度あった事から、どうにか衝動を堪え、協力連携出来ていた。


 だが――


「このままじゃ、少し厳しいな」

「確かにな……」

「なんか豊富な魔力を使った大技とかないか?」

「魔族でも魔力の資質には差があるからなぁ――あればよかったんだけどな、大技」

「そっか――こっちもすまんな。そういうのがなくて」

「気にするな、お互い様さ」


 厳しい状況への現実逃避――というより、ささやかな気分転換の為に言葉を交わす混合部隊の面々。

 互いに相性は悪くない気はしていたが、やはり付け焼刃……このままでは敗北するかもしれない――混合部隊の面々がそう思いつつあった、そんな時だった。


「――?!」

「なんだ……!?」


 いきなり戦場を、碧色の光の糸が駆け抜けていくのが彼らの視界に映った。

 その糸は『蒼白そうびゃく騎士きし』を避けていき――最終的に、混合部隊の者達へと向かっていく。


 慌てて迎撃を考えるものの――


『お願い、その光を受け入れて――! それは貴方達の助けとなるものだから……!!』


 伝令役の実羽からの魔術による真剣な声が響いた事で、彼らは動きを止めた。

 その結果、光の糸は彼らに絡み付き、あっという間に彼らの肉体へと解け消えていった。


「なんだ……? ――!!」

「これ、は!?」


 直後、彼らに異変が起こった。

 急に視界が広がったというか、世界が透き通って見えるようになったというか――するべき事が、ハッキリと見えていた。


 そう――。  


 この状態となった混合部隊の全員が理解していた。


 事前に説明されていた望一の『贈り物』――【風見鶏】。

 どういう事かは分からないが、彼が『贈り物』をもって見ている世界が、と。


『みんな……! その声に思いっきり従っちゃって☆』


 その把握を終えた彼らは、実羽からの声が届いたのが合図となって動き出す――風が導くままに。


「……!! 見えるぞ! ハッキリと!」


 そう叫んだのは混合部隊の、魔族と話していたグーマ配下の一人。

 彼は元々結構な腕前の冒険者だったが、一流の域には届かなかった。

 一流の者達なら持っている、彼らの領域に必要な『何か』が足りなかった。

 グーマからの誘いで彼の配下となっている今のまで、彼はそれを持ち得なかった。


 だが、そんな彼にも『見えていた』。

 眼前に迫り来る騎士達の動きの軌道、どうすれば回避して攻撃に――否、それを越えて、先手を取る為の動きがハッキリと。


 に従って彼は剣を振るう――それはこちらへと魔循兵装を振り下ろしてきた騎士の手を弾いた。

 弾かれた騎士の斬撃は隣の騎士へと向かい、攻撃を向けられた騎士は急ぎ防御する……当然の対処だが、それが隙となった。


「うおおおお!」

「はああっ!!」


 そうして生まれた二人の騎士の隙を見逃さず、彼と彼の近くにいた魔族の、鎧の隙間から喉を狙う一撃と雷を纏った魔術剣が騎士達を打ち倒した。 


 それらの動きは信じれないほどに自然で滑らかだった。


 異世界人に操られているから?――否。

 紛れもない自分の意思が、思考が、その上での『一流ではない自分に可能な最適な動き』を示してくれているのだ。 


 若干入り込んだ糸の影響か、感覚が鋭敏になり身体の調子も上がっているが、あくまで多少だ。

 だが、それでも十二分に状況に対応する事は出来た。


 それだけ自分達の心身は澄み渡っている。

 そして、それはここにいる混合部隊全員が同じくであり――そんな

 見えているからこそ、自分達同士の最適な動きも『分かっている』のだ。


 最早付け焼刃どころの騒ぎではない、目の前の騎士達の儀礼めいた一糸乱れぬ動きよりも遥かに上の境地に自分達はいる。


 その事を、この場にいる混合部隊全員が理解したのだろう――状況が、文字どおり一変していった。

 派手な魔術や技によるものではなく、各人の見極めと完全なる連携によって。  


 押し込まれていた状況が完全に逆転、彼らは押し込んでいく側へと移り変わっていた。


「――さっきは厳しいと言ったが……撤回していいか?」

「ああ、大いに撤回してくれ」


 先程語り合った魔族と笑い合い・頷き合い、彼は再び剣を振るう――風の導きのままに。




「ええ――っと、えと、俺自分でも今の状況よく分かってないんだけど、良いんだよね、実羽ちゃん?」


 眼を碧色に輝かせたまま不安げに呟く望一。

 彼には各人の動きが、『眼』によって上空から俯瞰して見えている状況が――それら全ての『風』が確かに把握出来ていた。


 それらの情報を実羽を介さずに直接各人へと送信しているような感覚が、望一にはあった。

 とんでもない情報量のはずなのだが――望一自身はいつもと変わらない。

 いや、むしろいつもよりずっと頭が冴え渡っているような、そんな心地だった。

 だからなのか、戸惑いながらも呼吸するように自然に【風見鶏】が動き続けている。


 上手く行き過ぎてて怖いんだけど、と望一は零す。

 そんな望一の言葉に、実羽は満面の笑みで両手で――片方は杖を持ちつつ――サムズアップした。


「めっっっちゃオッケー過ぎるよ、つばっち!!

 その調子でやっちゃって☆」


 そう告げた瞬間、実羽は杖を振るい――雷撃の魔術を、乱戦を抜け自分達へと迫ろうとしていた騎士達へと落とした。

 彼女にも望一の情報が――風が見えていたからこその、圧倒的な先制攻撃だった。


つばっちの邪魔は、あたしがさせないからさ」


 そうして望一へとウィンクしつつ、不敵に笑いながら彼女は声を上げた。

 自分達の意気をさらに上げる、その為に。


「そして、の邪魔もさせないからね、八重垣やえっち!!」

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