122 みんなが手を取り合う為の、大激戦⑭

 つばさ望一ぼういちは、女の子にモテたいと思っている。

 楽しい事が大好きなので基本は男女問わず気さくに――ただし男の扱いは若干雑である――仲良くしたいと考えているが、それとは別に女の子にちやほやしてもらえたら嬉しいなぁと常日頃から思っている。


 そこに何かしら理由があるかというと、明確な理由は存在しない。


 ただ、彼的に思う、若干ふわっとしている理由を強いてあげるなら、女性が持っている、男には持ち得ない華やかさになんとなく敬意を抱いている、というのが1つ。

 もう1つにして主目的なのが、思春期の少年・青年らしい、ごく普通――というには少し欲求がストレート過ぎだが、それでも常識的な範疇とギリギリ言えるだろう、異性への憧れ、その2つが理由と言えた。


 そんな彼なので、これまで女子と付き合おうとした事は幾度もあった。

 だが、基本的に気さく・気軽な付き合いが災いして、最終的には逆に軽い形でお断りされていた。


 ちなみに理由としては「友達ならいいけど、ずっと付き合うにはテンションが高い」、「全体的に軽過ぎる気がする」、「すぐ他の子に目移りしがちになりそう」などである。


 他の問題点なら改善を考える所なのだが、望一としては否定しようのない、かつ本人があまり変えようと思っていない所なので、納得して受け入れるしかなかった。

  

「……そんなに誰かと付き合いたいんなら、自分を変える努力をしたらどうだ?」


 異世界召喚される以前に、クラスメートの一見不良っぽい女子・正代ただしろしずかに呆れ顔でそう言われた事があった。

 ちなみに、フラれてガックリ落ち込んだ所を目撃された時である。

 ――おそらく、落ち込む様子を見かねて声を掛けてくれたのだろうと、望一は考えている。


 さておき、そんな静の言葉だったが――望一は首を横に振った。

 我が儘なのかもしれない……だけど、もし女子と付き合う事が出来るのなら、こういう自分も受け入れてくれる人であってほしいからだ。

 

「確かに我が儘だ。

 ――でも、まぁ……気持ちは分からないでもないし、お前自身が良いなら、好きにすればいいさ」


 静がそう言って苦笑いしつつ肯定してくれた事もあって、望一はスタンスを変えなかった。

 クラスの賑やかし的存在として楽しく過ごしながら、女の子へのモテを目指す在り方を――今日も変わらず続けている。


 そんな望一ではあるが――未だデートのお誘いを一度も行っていない女子がクラスには3人いた。 

 

 1人は八重垣やえがき紫苑しおん

 話しかけにくい訳ではなく、紫苑本人も望一を嫌っている様子もないので折を見て、と考えているが……中々出来ていない。

 なんというか、美人過ぎて逆に誘い辛い&若干反応が読めなくて怖いゆえである。


 1人は正代静。

 彼女とは肯定の言葉を貰って以降それなりに会話を交わしていて、望一的に仲は悪くないとは思っている。

 だけど、基本的な言動の荒っぽさへの怖さもあったり、今の関係が楽しい事もあって一時保留状態であった。


 最後の1人は、麻邑あさむら実羽みう

 クラスの誰とも気さくに話しかけ、皆で楽しくあろうというスタンスが近く、話というか波長は結構合っている。

 なのだが――なまじ似ている部分がある望一は、それゆえに時折『決してそれだけではない』部分を感じ取り、デートに誘えないでいた。


 なんというか、底知れないのだ。 

 召喚される以前、絡んできた他のクラスの乱暴な男子を軽くあしらっていた所を望一は目撃した事があったのだが、その時の様子や異世界に来てからの行動が、一見自分と同じく軽そうな言動が多いように見えて、全体的に知的で冷静なのである。

 風に吹かれてフラフラしている望一じぶんとは違い、実は地に足を付けている――しっかりしているというか。


 ただ、そういう所を望一なりに尊敬している部分もあり、感じている底知れなさを『それはそれ、これはこれ』としてでもお近づきになりたいとも思っていた――。






「そっか――うんうん、がんばってんね。

 じゃあ、この戦いが終わったらつばっちへのご褒美に、デートしたげよっか」


 『蒼白そうびゃく騎士きし』達との戦いの最中。 

 そんな風に思っていた実羽から突然に投げかけられたのが労いの言葉とデートの誘いだったのだ。

 厳しい状況の中、気になる女子からそんな言葉を掛けられて――気合が入らない、なんて事があるだろうか。そんな男子がいるだろうか。


 ――否。断じてない。絶対にない。男子的にありえない。


 さらに言えば、望一的にデートは『誘う側』であり『誘われる側』ではなかった。

 そんな自分が誘われた――その事に、望一は一瞬にしてテンションとやる気が最高潮となっていった。


「あ、でもそれは正代ただっちに悪いかも――って、え?」


 なので、その後の実羽の呟きは望一には届かなかったようだ。

 自分の方を見た望一の熱気溢れる視線に、実羽は思わず「おぉぅ」と声を漏らした。

 そんな美羽の驚きに気付く事なく、望一は告げた――若干目を血走らせながら。


「実羽ちゃん、その言葉、マジで受け取っていい?」

「えーと、その……」


 問われた実羽は思考をフル回転させた。

 何分、今もまだ戦闘は続いているのだ。

 それを抜きにしても望一を落ち込ませるのは望まないし、テンションを下げて状況悪化を招くのもよろしくない。


 思考時間は熟考した上で1秒。

 そうして出した結論を実羽はサムズアップと共に口にした。

 

約束するよ。

 この戦いを無事に切り抜けたら、デートの約束をこぎつけるよ、うん、絶対☆」

 

 ――冷静に考えれば、当人同士のデートの約束にしては若干おかしな言葉だったのだが……望一は熱意迸るあまり気付かなかった。


 ただ、なんにせよ――


「――」

つばっち?」

「うおぉぉぉぉ! ありがとぉぉ!!!」

「あ、うん、喜んでもらえたのならよかったよ」


 それによって、望一の気合とテンションは最高潮を越えた。


 そして――その事が、誰にとっても思いもよらない状況を招き寄せる事となった。


(そうと決まった以上、全力のその先まで捻り出さないとな――!)


 これまでも全力の望一であったが実羽により起爆されて、彼は魂を燃え上がらせていた。 

 その際脳裏に浮かんでいたのは――屍赤竜リボーン・レッドドラゴンへ執念の攻撃を繰り出した紫苑の姿だった。

 

 誰がどう見ても限界だった紫苑が、さらにそれを越えて立ち向かう姿は――正直、ただただかっこよくて印象深かったのである。


(紫苑ちゃんみたいに、ってのは無理かもだけど――あやからせてもらう……!!)


 そうして望一が決意と覚悟を持って全力を出そうとした、その時だった。

 望一の眼が碧色に輝き、そこから全身に――碧色の光が薄く、しかし確かに零れ溢れたのは。


「え――この輝きは……!?」


 支援のための魔術を使いつつ、横から望一を見守っていた実羽が思わず声を上げる。


 しかし、望一はそれにすら気付いていない。

 今の彼はただ、眼前で繰り広げられている戦いを無事に終わらせる為の風の向きを読み取ろうと必死だったからだ。


(風、風の動きを、流れを読む――読んで、伝える――いや、それだと間に合わない――)


 実羽とデートする為には、この場を可能な限り平和に終わらせなくちゃならない。

 誰かが悲しんでいる時に楽しみたくはないし、そもそも悲しい事は誰だって嫌なはずだ。

 だから、可能な限り誰も悲しませず、自分だけでなく皆がスッキリとした気持ちでこの場を乗り越えるために――

    

(なら、――……!!)


 望一がそうして瞬間――彼から零れ出ていた光が風のように渦巻き、辺り一帯へと解き放たれた。


 それそのものはなんの力も発生させなかった。

 風を起こすわけでもなく、光が敵を攻撃したわけでもない。


 ただ戦場を駆け抜けたそれらは、望一達側の人族や魔族1人1人へと糸のように絡み付き吸い込まれるように消えていった。


 そうなった次の瞬間から、一進一退の攻防だったその辺り一帯の戦いは大きく動き出す事となる――!

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