120 みんなが手を取り合う為の、大激戦⑫

「行くぜぇ!! ファイヤーバーンノヴァァァァァッ!!!」


 寺虎てらこ狩晴かりはるの叫びと共に彼の『贈り物』――【ファイヤーバーンノヴァ】が解き放たれる。


 党団『永遠なる暁』ジーサの放った雷の魔術により『蒼白そうびゃく騎士きし』達全体の足が止まり――拡散したためダメージは薄いが、一時的に動けなくなっていた――ディーグが一足飛びに下がった瞬間を見逃さない、見事なタイミングの一撃だった。

 突き出した狩晴の掌から発せられた超高熱の炎の嵐は騎士達を呑み込んでいく。


 雷以外の魔術にある程度の耐性を持つ鎧を纏っている騎士達だったが、吹き荒れ続ける凄まじい火力に耐え切れず倒れていく。

 さらにはファイヤーバーンノヴァにより酸素が消耗、それによる酸欠状態でも――鎧に何らかの機能が付加されているのか、ある程度までは耐えていたが――気絶していった。


 中にはそれを耐え凌ぎ、炎から抜け出て狩晴へと攻撃を繰り出そうとした者達もいたが――。


「それは――」

「――させるわけにはいかん」


 それらは、狩晴の友人たる永近ながちかしょう様臣さまおみすばるが、それぞれの『贈り物』による超高速攻撃と肉体硬化で迎撃あるいは妨害に成功。

 さらに――


「うむ、しかと守らねば」

「……手伝ってあげる」


 党団『永遠なる暁』ディーグとマテサによる、将達の攻撃で倒しきれなかったも者、防御に留まった者への追撃がなされた。

 狩晴の攻撃で限界まで追い詰められていた騎士達は、彼らの攻撃であっけなく倒れていく。

 その結果……僅かな攻防の後には、多くの騎士達が倒れ伏す光景が広がる事となった。

 周辺には彼らに攻撃を加えられる騎士達は最早存在していなかった。


「実に見事な一撃であったぞ、カリハル殿。

 それも――」


 辺りを見渡し、騎士達の状態をしゃがみ込んで幾人か確認しつつ、ディーグは言った。


「絶妙な加減で、殺さずに倒しきるとはな」


 そう、騎士達は――恐らく誰一人として死んではいなかった。

 炎の熱や酸欠にたまらず倒れる者こそいたが、明確に焼け死んだものは見当たらなかった。

  

「ま、当然だ」


 若干息を乱し、全身から汗を流しつつも、狩晴は自慢げに笑った。


「ここ暫く魔物退治やらで火加減調整の練習はしてたからな。

 この位朝飯前よ」


 仲間である阿久夜あくやみお正代ただしろしずかが、紫苑の護衛で動いていた間、狩晴達残された面々は何もしていないわけではなかった。

 魔族の影響下にない魔物の討伐や互いに手伝いながらの自主練で、身体と技の鍛錬を重ねていたのである。




『――強くなった理由?

 えと、その、私的にはまだまだ未熟だと――え? じゃあお前に負けた俺は何なんだよって?

 ご、ごめん、そういうつもりじゃなくて、私がまだまだ出来てない事ばかりってだけだから。

 えとその、少しでも強くなったと思ってくれたのなら、それはきっと、スカード師匠やはじめくんのお陰かな。

 誰かから客観的な意見を貰うのって、大事なことだよ、うん。

 それと後は――』




「ま、地道な積み重ねってのも……馬鹿にできねぇってこったな」

 

 狩晴は、レイラルドで牢に囚われていた際の、面会に訪れた紫苑がどこか照れ臭そうに紡いでいた言葉を思い返していた。

 魔族領で生活するようになって以降の鍛錬に、彼女の言葉の影響がないというと――嘘になってしまうだろう。


 若干癪だが、狩晴はそれを認めざるを得なかった。

 ――前回のロスクード高壁での戦い含めて、こうして眼に見える成果が出れば尚更に。


「……オッサン、名前なんつったっけ?」

「ディーグだ」

「ディーグさんよ。

 さっきアンタ、八重垣は俺らが生き残ってくれればいいと思ってる的な事言ってたよな」

「まあ大体の意味合いはそんなところだ」

「実際、そのとおりなんだろうなとは思うぜ……だが、


 そう言うと狩晴は、ふん、と不機嫌そうに――というには少し軽めの息を零した。


「八重垣の奴、俺らを前戦った時のままだと思ってやがる」


 彼女は自分達の事を侮っていないつもりかもしれないが、その尺度がズレている。

 今見るべきは『今の自分達』――それを八重垣紫苑は正確に把握できていない。

 それが狩晴的には若干腹立たしかった。


「ったく……俺らだって成長してるんだっての。

 だから、それをこの戦いで証明してやらねぇとな」


 ゆえに、狩晴は――あの、何かと遠慮がちなクラスメートの我が儘程度なんでもないのだと、見せつけてやりたくなっていた。

 少なくともはそれに対応できるのだ、と。


「うん、そうだね」

「同意だ」


 狩晴の言葉に、将と昴が強く頷いた。

 そんな二人に不敵な笑みを返しつつ、狩晴は言った。


「よし、なら、この調子で他の連中もぶっ飛ばしてやろうぜ」


 そうして、狩晴達はこの戦いで改めて自分達の強さを証明する事を決意したのであった。

 そんな彼らの様子を眺めていたジーサは、あたたかな視線を送りつつシミジミ呟いた。


「若さを感じるね……なんかいいな、うん」

「なに? 私が若くないとでも?」

「誰もそんな事言ってないでしょ?! 僕に向けて剣を向けるのやめてー?!」

「まぁまぁ、落ち着きたまえマテサ殿。

 我々が年上なのは事実ではないか。

 そして、若人達の成長への手助けは年上の役目……その証明、我々も手伝おう」

「俺らの強さの証明には必要ねぇ――と言いたいが、まぁ俺の大活躍と比較すれば、多少の手助けは誤差だよな。

 よろしく頼むぜ、ディーグさんよ」

「うむ、任された」

「……ちょっと生意気じゃない? 年上的には少し躾けた方が良くない?」

「ね、姉さん、抑えて抑えて」 

 

 そうして、彼らは次なる戦いへ挑むべく、意気揚々と歩き出すのであった。





 一方その頃、狩晴達のいた辺りから結界を挟んだ向こう側では――。


「えーと、何故こんな事に……?」


 党団『選ばれし7人ベストセブン』の一人、つばさ望一ぼういちが困惑の中にあった。


 その彼の隣には同じく『選ばれし7人ベストセブン』の麻邑あさむら実羽みうが杖を地面について笑顔で佇んでいて。


 そんな二人の眼前には、人族と魔族の混成部隊が騎士達とは激しい戦いを繰り広げていたのであった――。

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