119 みんなが手を取り合う為の、大激戦⑪
「あ? 何言ってんだよオッサン」
あと少しで『
騎士達に向けて攻撃の構えを取りつつ、心に何処か引っ掛かるものを感じて躊躇いめいたものが浮かんでいた
彼の事は、ロスクード高壁での戦いの後に開かれた祝勝会で紫苑から紹介されていた。
この地で彼女が一緒に活動していた党団の一人だったはずだ。
そんな彼が語った『気にし過ぎる事はない』という言葉が理解出来ず、狩晴は訊ねた。
明らかに礼儀や敬意に欠けた言葉であったが、横に並んだディーグは顔色一つ変えず、穏やかな表情で言った。
「貴殿は紫苑殿への借りゆえに敵への対処に悩んでいるようだが――貴殿にとっての全力を尽くし、生き残ればいい。
それが一番彼女の意に沿う事だろう」
「どういうこったよ」
普段の――あるいは以前の彼であれば、自分への忠告だろうと上から目線を感じれば遠慮なく噛み付いていただろう。
だが今まさに戦いが始まろうとしていた状況や彼自身の変化もあり……今の彼は、素直に疑問を口にしていた。
それに対し、ディーグは握った剣を改めて構えつつ答える。
――彼本来の武装たる
「祝勝会の場で少し話したと思うが私達……党団『永遠なる暁』は紫苑殿と幾度か行動を共にしていてね。
その際――休憩や移動中の時間に、彼女から仲間達の話を聞く事が何度かあった」
ふと、ディーグは思い出す。
人と話すのが苦手なのが伝わってくる話しぶりの紫苑だったが――同時に、それを承知で打ち解けよう、仲良くしようという努力が垣間見えて好感を覚えた事を。
「勿論貴殿らの事もだ、『
党団名は、君達の世界で『最高の7人』――そういう意味があるそうだな。
そして、その名に見合う強さを持っているという事も聞いている」
「ふん、嫌な奴らで困ってた、みたいにも話してたんじゃないか?」
狩晴の嬉しそうに笑いながらの言葉に、ディーグもまた笑って返した。
「いいや。
むしろ貴殿らの強さについて敬意を抱き、目を輝かせながら話していたよ。
そして……当時捕まっていたという貴殿らの事を心配していた」
「ったく。八重垣らしいな」
かつてレイラルドでは敵対した狩晴達と紫苑達であったが――紫苑は可能な限り戦いを避けようとしていた。
それは自分達にビビッていたからだと当時は思っていたが……そうでない事は、今はもう分かっている。
「こっちはあいつらを殺してでもやりたいようにやろうって感じだったんだぜ?
御人好しにもほどがあらぁ」
「私はそれをただの御人好しだけとは思わないが」
「どういう意味だよ」
「貴殿らにとってのこの異世界で、君達は他には存在しない同郷の、しかも学友なのだろう?
特に大切に思うのはなんら不思議な事じゃないはずだ」
確かに、と納得する狩晴がそこにいた。
自分は他のクラスの面々ほどに、やれ協調だやれ仲良くだ、みたいな意識はない。
仲良く出来ない連中と足並を揃える事はできない――だからこそ、クラスの中核から離脱しているのだ。
そういう立場であり考えではあるが――『同郷のよしみ』を感じる程度の関係性くらいはある……とは思っている。
何せここは異世界――自分達の知り合いは、自分達しかいなかったのだ。少なくとも最初の頃は。
望郷の念こそ薄い狩晴ではあるが、その辺りにまるで何も感じていない訳ではない。
改めて思うに、そういう部分があればこそ『
なんにせよ、他のクラスの連中程ではないにせよ、思う所はある。
それが、あの――御人好しかつ基本温厚な良い子ちゃんである八重垣紫苑なら、自分とは比較にならない位思う所ばかりだろう。
「だからこそ、気にし過ぎる必要はないという話だ。
昨日の紫苑殿がかの騎士達の生殺与奪について意志の統一を図ろうとしなかったのは、貴殿らに余計な負担をかけたくなかったから――という部分が大きいのではないかと私は思っている」
紫苑殿当人にその自覚があるかは分からないが、としつつディーグは続けた。
「だが、それは彼女自身が強者と認めた貴殿らを侮っての事ではない。
力量と良心を信じると共に――ただ単純に、同胞にして仲間たる貴殿らに、余計な指図をして気を散らした結果死んだりしてほしくなかったのだと思う。
例え殺された所で最終的に生き返るのだとしても、苦痛を感じてほしくなかったのだろう。
あるいは、自分のように何処かへと飛ばされてしまう事を危惧したのかもしれない」
そうして彼らが話す中、足音がいよいよ明確に聞こえてきた。
『
「ゆえに、貴殿らはこの戦いで生き残る事のみに注視して、全力を振るえばいい。
それこそが――紫苑殿にとっての、真に意に沿う事だと私は思う」
「って、おい――おっさん……!」
少し慌てて狩晴が『力』を放とうと構え直すも、ディーグはそれを制止、地面を蹴った。
騎士達に向かうディーグが狙うのは、一糸乱れぬ中に浮かび上がった僅かな不協和音。
ディーグ一人が突出したゆえに全員で攻撃を加える事は無駄かつ多少困難――ゆえに、僅かな間を置いて先んじて飛び出した三人の騎士、そここそが狙い所だった。
騎士達は相当の手練れであり、訓練も重ねていたのだろう。
だが実戦そのものには不慣れなのか鋭い動きの中に、ささやかな戸惑いがあった。
かつて騎士であり、集団戦闘にも慣れているディーグにとってその綻びを発見するのは難しい事ではなかった。
「うぉぉぉっ!!」
そこを目掛けて、ディーグの力強くも繊細な一撃が風のように通り抜ける。
直後、魔循兵装を握っていた騎士達の手だけが、鎧の隙間を縫って両断された。
長い年月をかけて磨き抜かれた、熟練の一閃だった。
彼ら『
だが、それが即座に行われないのであれば、いくらでもやり様はあった。
手を断ち切られて瞬間戸惑う彼らの一人を、ディーグは思いきり殴り飛ばす。
その後即座に、反対の手に握ったままの剣を別の騎士の胸元へと突き立てる。
その一撃は彼らの頑健な鎧を貫く程の力こそないが、騎士を突き飛ばすほどの衝撃は備えていた。
「遅いっ!!」
その隙をついて最後の一人が格闘を選択、ディーグへと殴りかかろうとするも、それを見越していたディーグの蹴りの方が早かった。
蹴撃を受けた騎士は、ディーグ達へと辿り着こうとしていた騎士達の全速行進へと突っ込んでいった。
騎士達は精神的には動じなかったようだ――が、物理的な僅かな乱れと遅れがそこには生まれていた。
「
そこを目掛けて、後方で準備を整えていた党団『永遠なる暁』の一人であるジーマの雷の魔術が迫り来る騎士達全体に降り注いだ。
それは、党団の仲間であるからこその阿吽の呼吸による、見事な攻撃連携であった。
思わず狩晴が目を見張ってしまうほどに。
「さぁ今だ! カリハル殿!!」
「……! おう!!」
そんなものを魅せられて、気合が入らない理由はなかった。
そして――ディーグの話を聞いた事で、狩晴的に八重垣紫苑に証明したい事が出来た。
ゆえに、躊躇ってなどいられない。
「行くぜぇ!! ファイヤーバーンノヴァァァァァッ!!!」
そんな思いを乗せた、寺虎狩晴の『贈り物』――【ファイヤーバーンノヴァ】は、超高熱の炎の嵐となって『
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