62 ロスクード防衛戦――衝突する二つの槍――

『当たり前の事を言うが――魔法や魔術は魔力で構成されてる』


 かつてはじめくんと共にスカード師匠から教わった事が、私・八重垣やえがき紫苑しおんの脳裏を過ぎる。

 

『本当はもう少し複雑なんだが――ざっくり言うと、氷や炎なんかの属性は、魔力を持って自然や自分の魂から後付けしてるもんだ。

 まぁ先に炎やらを準備しておいてそれを魔力で強化したりする場合もあるが』

『つまり何が言いたいんだ? 要点からちゃんと解説してくれ師匠――ハァ』

『使えねぇなみたいな溜息を吐くなよ、おい。

 ――要は、とんでもない現象が魔術や魔法によって引き起こされた時の対処法について、だ。

 火炎、爆発、氷結、凍結――魔術や魔法で引き起こされた現象は、強力になればなるほど当然その被害は拡大する。

 例えば凄まじい火炎魔術に対して、紫苑お前ならどうすればいいと思う?』

『え? 氷とか水の魔法とか魔術で対抗すればいいんじゃないんですか?』

『それは正解であり正解じゃない。

 確かにそれで相手の魔術を打ち消す事も出来はするが――紫苑、お前自身だったらどうするんだ?

 お前の氷や水の魔術でなんとかできると思うか?』

『それは――難しいですね』


 私は得意属性がないし、魔術の理解も一くんほどじゃない。

 ゆえに私の氷や水の魔術だと、そういう魔術への対抗手段がない、という事になるのだろうか。


『じゃあ、そこで諦めるのか?』

『いえ――せめて私の魔力を何かしらの形で全力で叩き付けてみたり――は駄目でしょうか』

『へ?』


 戸惑う私に、師匠は満足そうに笑いながら言葉を続けた。


『さっきも言ったとおり、魔術や魔法の根幹は魔力だ。

 発生している炎や氷は魔力があればこそ成立している――であるなら、単純に練り上げた魔力をぶつけて、相手の魔術を構成する魔力を砕く事で引き起こす現象共々無効化すればいい。

 その場合、完全に砕くまでは余波が避けられないが……被害はまぁまぁ抑えられるはずだ』

『なんというか、果てしなく脳筋な思考で頭が痛くなるんだが』

『脳筋?』

『あ、脳まで筋肉というか、力技というか、そういう単語です』

『なるほどな――まぁそう思うのも分かる。 

 ただ、あくまで有効な対抗手段がなかった場合の話だよ。

 相反する属性や相手の弱点となる魔術なんかで威力を減退出来れば一番いいが、お前さん達も知ってのとおり魔の属性には得意不得意があるからな。

 魔術に限らずだが、万全の対抗手段なんかいつも準備できるわけじゃない。

 その中で最善の手段を模索して実行するのが冒険者らしい冒険者だって事を忘れずにな』

『はい――!』

『まぁ了解した。

 ――ただ、俺的には例外がないかどうかが気になるんだが』

『お前さんらしいな――確かに、呪術の類なんかは……』


 その後も、スカード師匠からの講義は続いたけど――正直私は理解半分以下でございました。

 ただ、その時教えられた要点だけは忘れずにいようと決意していた。




 そして、その要点を活かす時が今まさに訪れていた。


 


「国さえ溶かす一撃、受けてみやがれ――!!」


 形成した巨大な閃光の槍を手にしたダグドさんは、そのまま私に向かう――途中で急遽進行方向を転換した。

 曲芸飛行の急上昇のような軌道で一度超高度に飛翔――そこから一回転して急降下、凄まじい速度で炸裂目標である私へと再度接近……巨槍を振り上げた。


「ヴァレドリオン、力を貸して――!」


 対する私は【ステータス】を有効活用してダグドさんの攻撃対象が私である事を改めて確認――攻撃範囲が私を起点に広がっている――迎撃がしやすくて助かると安堵。

 

 被害を最小限にするためにも私の全てを叩き付けるしかない、と全身の魔力をフル稼働・フル循環。

 どの道これに失敗したら全部吹き飛んでしまうのなら出し惜しみは出来ない。

 文字どおりの全身全霊を振り絞り、ヴァレドリオンに注ぎ込む。

 すると、右腕の各部から魔力光が溢れ、それと共に握った槍の先端――魔力で形成された光刃がより強く大きくなっていった。


 と同時に、私は武術的な意味でも最高になる様に、全身の力の流れを意識する。

 右腕を引き絞り、強く踏み込み、蓄えた全てを右腕に集中――


累炎輝煌閃刃ウェア・レイ・ローアーラ・リット・レードォォォォォッ――!!!」

 

 ダグドさんが巨人さながらの赤い閃光の槍を振り下ろし、私へと解き放つのに合わせて――


「必殺――穿孔一貫せんこういっかん……!!!」


 無駄な大きさは必要ない、と収束・凝縮させた光刃の狙いをダグドさんの槍の先端に合わせ、全力の正拳突きのフォームで振り抜いた――!

 直後、性質は異なるも奇しくも近しい形となった赤と白の魔槍が激突――――文字どおりの火花を散らした。


「受け止めやがった――――!!?」

「……グゥゥゥゥッ!!」


 衝突した私達の一撃は――膠着した。

 その余波が、火花と熱気となって周囲に吹き荒れる。

 私は全身の強化でどうにかそれに耐えつつ、この状況を好転させようと右腕に力を込める。

 ダグドさんも同じく、飛行したまま私に振り下ろした槍を押し切ろうとさらに力を注いでいく。


 そうして重ねられた力により更なる余波が辺りへと撒き散らされていく――このままだと、私達はともかくみんなや凍結中の魔族の人達が危ない……!


「――ルヴェリさん! 可能なら……」


 意識はダグドさん、引いてはヴァレドリオンへと集中したまま私は叫んだ。

 言葉は半端だったけどルヴェリさんは即座に意図を把握してくれたようだ――でも。


「……すみません、魔力の、残りが――」


 ルヴェリさんの魔力はこれまでの戦いの中でほぼ尽きてしまっていたようだ。

 空間転移や防御、私達の支援に回復とたくさん魔術を使ってくれていたのだから納得しかない。

 回復用のポーションも尽きてしまっているのだろう。 


 そんな時だった。


「――サレスお嬢様、よろしいでしょうか」


 ナイエタさんがそんな事を呟いた。

 そう問い掛ける声音は、唯々真剣で――こんな状況でなければ思わず振り向いていただろう。

 そんな問いかけにサレスさんは朗々とした声で答えた。


「許すわ、ナイエタ。

 むしろ命令しようと思っていた所よ――ゆえに躊躇いは無用よ」

「……感謝いたします。そして失礼しますルヴェリさん」

「何――むぅっ?!」

「えっ?!」


 側にいるのだろう阿久夜さんの驚きの声が響く。 

 振り向けないでいる私だけど【ステータス】である程度の状況確認は出来るので――ああ、そ、そういう事かぁ……!


 ステータス上のルヴェリさんのMP魔力値が徐々に回復していく。

 それと同時に、ナイエタさんのMPが同じペースで減じていき――やがて残り1となった。


 【魔力譲渡】――ナイエタさんについてのステータスの項目にそれがある。

 文字どおり自身の魔力値を他者に譲り渡すというものなんだけど、その手段は――はい、その、キスでございます、ええ。


「――も、申し訳ありません、そして……感謝、です……。

 深護界ディー・ガドフ・ルード


 と、とにもかくにも魔力回復と相成ったルヴェリさんにより私とダグドさんを閉じ込める、教室程のサイズの結界が展開された。


「ある程度なら、これで、どうにか、遮断、できる、はずです」

 

 さらに。


「……もう、こちらは大丈夫です――!」


 阿久夜さんの声がこちらへと届く。

 彼女の【かの豊穣神のようにチャーム・ドミネイト】により呼び起こされた魔物達が、みんなをそして魔族さん達を守る盾となるべく駆け寄っていくのが視界の端に映っていた。


「だから――要らぬ心配しないで自分のやるべき事に集中しなさい、八重垣紫苑――!!」

「……!! ありがとう、みんな!」


 これはもう、負ける訳にはいかないね、うん。

 元から負ける訳にはいかないと思っていたけど――その意志がより強く硬くなっていくのを私は感じていた。


 その想いを確かな形にするべく、私は奥の手を切る事にした。

 魔力の激突で激しく火花が散り続ける中、その勢いに負けじと咆哮すると共に発動させる――!


穿孔一貫せんこういっかん――――めぐりぃっ!!!」

  

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