63 ロスクード防衛戦――歩んできた過去からの力――
「
私・
私は拮抗状態を打ち破るべく奥の手を繰り出した。
私の必殺技・
その派生技である廻は――光刃をドリルへと変形、対象を砕き穿つ……私の憧れ・正義の味方達を参考にした技だ。
本当は、変形に加えて、大地を踏み締め柄を後方から押し出す事で威力向上するんだけど――今回はヴァレドリオンが形状変化した事で体勢的に難しくなってるのでできなかったり。
でも、その分ヴァレドリオンが後方へと魔力排出しており、それに加えてドリル刃を回転させる度に発生する余剰魔力の流れが推進を後押ししているので、その分は埋められている――いやむしろ威力的には向上しているのかもしれない。
その結果、ヴァレドリオンの先端――白光の刃はダグドさんの閃光の槍を少しずつ穿っていく――!
「ちぃぃっ!!!」
ちょっとずつだけど押されていく事に気付いてかダグドさんが悔しそうな声を上げる。
私の【ステータス】で見させてもらったんだけど――単純な魔力と
でも、単純な数値で勝ち負けは測れない。
実際ヴァレドリオンでのダグドさんの光槍の破壊は思うように進んでいない。
それはおそらくヴァレドリオンに満ちている私の魔力が何の属性も帯びていない――得意属性がなく、対するダグドさんは自身の得意とする炎属性で魔術を構成している事によるんだろう。
属性の相性とかが皆無なんで、単純な力押しで魔力を削るしかないのです、ええ。
だから今私が持っているもので全力を振るうだけだよね、うん。
魔力とかが上回っててもこうなんだから、油断せずに可能ならこのまま押し切る――!!
「はぁぁぁぁ!!」
叫ぶ事で更に押し込んでいく為の気合を入れつつ、私はヴァレドリオンへの力をより強めていく――!
それに応えてくれているのか、ヴァレドリオンが魔力放出を高める。
結果よりドリル刃は更に回転を増し、ダグドさんへと進む為の魔力排出が強くなった。
そうする事で、ヴァレドリオンは少しずつ、でも確実にダグドさんの魔術を穿って破壊していった。
油断するつもりはない――でも、このままなら行ける……!
私がそう思ったまさにその時だった。
「――やっぱり、このままじゃ駄目かよ」
何処か苦笑するようなダグドさんの声が聞こえてきたのは。
思わず火花の向こうのダグドさんへと視線を向けると――彼もまたこちらを睨み付けていた。
「如何にも全身全霊って感じだな、テメェ――だが逆に言えば、それを上回ればこっちの勝ちだ。
だから――こっちも奥の手を切らせてもらうぜ……!!」
そう言い放った瞬間、ダグドさんの翼や角が燃えるように赤く輝いたかと思うと炎上を始めた。
「追加術式――!
そしてそれに合わせてダグドさんの持つ、魔術による閃光の槍の威力が、硬さが――大幅にパワーアップした。
「なっ!?」
さらにそれにより全体の4分の1を削り取りつつあった槍が再生――ヴァレドリオンがいとも簡単に押し返されていく。
【ステータス】で見る事が可能なヴァレドリオンの光刃、その耐久値が見る見るうちに削られていった。
(一体、何が――?)
原因を探るべく【ステータス】でダグドさんの項目を探る――そこで私は記述を発見した。
存在燃焼……赤く明滅するその表記はつい先程までは存在しなかった記述だった。
その説明欄には――魔族という存在である事を削る代わりに爆発的な力を得る、と書かれていた。
その意味する所は、今の私には分からない。
レベルアップ以降は久しく見なかった閲覧制限が掛けられていたからだ。
だけど、これだけは分かる。
ダグドさんは――――。
「全てを懸けようってテメェの心意気、嫌いじゃねえぜ……だから俺様もそれに乗らせてもらう――!」
そう、全身全霊だった。
私もそうあろうとするように――いや、私以上に、だ。
今の私よりももっと大きく重いものをダグドさんは燃焼して、エネルギーに変えている……!
「さぁ。根比べと行こうかぁぁぁ!!」
「ぐ、ぅぅぅっ!?」
懸命に力を振り絞るも、ダグドさんからの圧倒的な奔流に圧されていく、いや、耐えられなくなっていく。
それを抑え込むための全身の力も、過度な強化が祟って限界に近い。
刃の回転も強引に減速させられていき、更にその先端に皹が入っていく――
最初から全身全霊の私には、もうこれ以上は絞り出せないのだろうか。
もう私が使えるものは、何一つないんだろうか。
このまま、私は――また。
『……雑念とはくだらない』
瞬間……私の脳裏に、世界守護騎士団の一員たるアリサに負けた時の記憶が蘇った。
あの時、全力を出してもなお負けて悔しかった気持ちが駆け巡る。
そして、今回負けて死ぬ事は――あの時と比較ならない、たくさんの……あまりにもたくさんのものを失う事に繋がっている。
この戦場に共に立つ、友達から託してもらった期待を、気持ちを裏切ってしまう事になる。
ルナルガに飛ばされて以降ずっと心配をしてもらっているであろう、レイラルドにいるみんなを更に心配させてしまうかもしれない。
そう、今の私は――あの時よりもずっと負けられないんだ。
「どうやら根比べは俺の――!」
「――――負けない」
だからもう、迷わない。
あの時のように不安に駆られて気持ちを乱してしまえば、私はまた負けてしまうから。
今抱くべき気持ちはただ一つ――負けない事。
その為に私の全てを尽くす。
全身全霊で足りないなら、もっともっと――――私の持ち得る全てを。
今の私で足りないというのなら、過去も、未来も――ありったけを……!!
『そう――貴女には、もう一つがある』
瞬間……私の脳裏、いや――私の魂に、何かの声が届いた。
だけど、今の私はそれに構っていられなかった。
もう一つがあるというのなら、ありがたくそれを使わせてもらうだけ――!!
「私は――もう二度と――負けたりなんか、しない……!!」
そうだ。
私は、もう負けられない。
『もう二度と、あんな光景を目の当たりにはしない――!』
その為に、ただ只管に一意専心。
気持ちを、力を、意志を眼前に……ただ前へ前へと叩き付けるだけ――その想いを叫びにした、その時だった。
私の奥底から――奥底から繋がっている何かから、何かが怒涛の勢いで溢れ出した。
まるでマグマのように。
そうして溢れかえった何かは――私を通してヴァレドリオンから放出されて、膨大な魔力という形となった。
その証なのか……ヴァレドリオンから放たれていた白い魔力光が、薄紫色へと染め上げられていく――!
「なっ!?」
「うぅぅ……わあぁぁぁぁぁぁっ!!」
自分の中から洪水さながらに解き放たれたものに後押しされて、私は咆哮する。
それと共に更なる魔力を放出したヴァレドリオンは、ダグドさんの閃光の槍を押し返していく。
直後、これまでよりも更に大きな力の余波が零れ、最早火花を越え雷火と化した光が熱と共に荒れ狂い始めた。
でも、それだけじゃあ駄目だ――そう思考して、私は魔力刃へと新たに注いだ魔力で刃の強度・魔力密度を底上げし、それを振るう為に壊れかけの身体を再度の強化魔法で強引に補強した。
これはきっと、私一人の鍛錬、経験だったら出来なかった事だ。
かつてヴァレドリオンでクラスみんなの魔力を集めて刃を精製し、振るった経験があればこそ出来た事だ。
これまでみんなと一緒に歩いてきたからこそ、たくさんの経験を積んだからこそ――私は今ここにいる。
そうでなかったら、私はきっと、ここに辿り着く事も出来ずに死んでいたと思う。
だから私は……ありったけの感謝と共に、最後の力を込める為の一歩を大きく強く踏み込みながら叫んだ……鋭さを付与させる、彼から学んだ魔術言語を。
「
その一歩分の力と穿つ為の鋭さが重なって雷火の先、その最先端へと到達した瞬間、私には見えた。
ヴァレドリオンの光刃がダグドさんの閃光の槍を粉砕する、その光景を間違いなく捉えていた――――。
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