59 ロスクード防衛戦――もう一度、ヴァレドリオンと共に――
「ここに呼べばいいの――貴女の魔循兵装を……!」
サレスさんの言葉をすぐには理解出来ず、私・
だけど答えが出なかったので、思わず疑問をそのまま口にしていた。
「魔循兵装を、ヴァレドリオンを呼ぶ――?」
「ヴァレドリオン――
かの赤竜王を倒す位だからそうだろうと思っていたけど、名前からして、やっぱり貴方の魔循兵装も原型なのね」
「えっと、その、ごめんなさい、どういうことなのかよく分からないんだけど――」
「簡単に説明するわ。
魔循兵装には原型と量産型があるのはご存じ?」
「あ、うん。それは知ってるけど」
ヴァレドリオンが魔循兵装の原型である事は師匠から聞いていた。
そして原型を元に、たくさん作れるように機能を制限したり、仕様を変更させたものが量産型だという事も。
ただ、その原型という代物が根本的にどういうものなのか、までは詳しく知らないままだったんだけど――。
「原型は、魔物が住む洞窟や古い遺跡などから、極稀に発見される、現在でも解明不可の機構を持つ道具類の事を言うの。
魔力を通す事で起動して武器や鎧といった用途に使用できるけど――実際の用途がそれで正しいのかも本当の所は分からないわ。
詳しい事は省いて本題としては、原型は使用者を選び、その使用者が望めば何処にいても馳せ参じる機能がついているの」
「え……?!」
正直それについては初耳だった。
そんな機能があるんなら、もっと色々と使い方があったんじゃないかなぁと思ったりだけど、そこはさておき。
使用者を、選ぶ?
私はヴァレドリオンについて色々試していて、他の人にも使ってもらったりした事があったんだけど。
その時何か不具合が起きたとかそういう様子はなかったし、そもそもそうであるなら、
「初耳、って顔をしてるわね。
魔循兵装について詳細を知るのは、我がジャスティーヴ家のように代々受け継いできたか、魔循兵装の構造について詳しい技師ぐらいだろうから当然と言えば当然だけど。
ともかく、今重要なのはね、シオン。
貴女が使い手であるならば、呼べば魔循兵装は現れるという事よ」
「でも、その、私、ドラゴンさんと戦った時に壊しちゃったし――現に起動しなくなったから修理に出してもらったんだし」
「起動しなくなった――――ふむ、それは多分、再調整の為ね」
「再調整――?」
「原型はね、新たな使い手に受け継いだ段階では初期状態になるのよ。
その最低限の機能しかない状態で、使い手が如何に自分を使うのかを推し量った後、相応しい形に自分を変える――詳しい事は私にもわからないけど、実際私もそうだったからそういうものだと思って」
え? つまり、それが事実なら……ヴァレドリオンは、まだ本来の力を発揮してない状態だった――?
いやいやいや。
なんというか――都合が良い、っていうのとはちょっと違うんだけど、そんな良い感じの話があるのかなぁ?
ヴァレドリオンが原型じゃない、という方がまだ可能性が高いような気もするんだけど。
困惑や疑問もあって言葉を失う私に、サレスさんは言った。
「その魔循兵装――ヴァレドリオンと別れてどの位なの?」
「えと、確か、一か月以上前じゃないかな」
レイラルドの領主たるファージ様に修理を頼んで手渡してからその位は経っているはず。
そう答えると、サレスさんは満足げに頷いて見せた。
「なら、もう準備は整っている筈よ。
私の時は二週間位掛かった事を考えれば十分過ぎる位じゃないかしら。
だから――貴女が呼べば、ヴァレドリオンは現れるわ」
「――ヴァレドリオンが、ここに……?」
正直な所、実感がなかった。
根拠や理屈、状況も相まって、もしもヴァレドリオンが原型であるならば、呼び出せる可能性としては低くはないと思う。
だけど、本当に呼び出せると素直には思えなかった。
そもそも、私が本当に使い手として選ばれているような気があまりしないというか。
ヴァレドリオンは、以前の使用者である黒須所縁さんからの縁が続く、スカード師匠から貰った大切な武具だ。
そんなものを一度壊してしまった事で私は少し躊躇いめいた気持ちを覚えていた。
師匠からいただいた時の、分不相応なんじゃないかという気持ちが少しぶり返し、私がヴァレドリオンを振るっていていいのか、という躊躇いが生まれていたのだ。
だったんだけど――。
『それをただの依存と言ってしまうのは――――私はいささか寂しいと思うよ』
抱いていた事はそれだけではなかったような、と思った私の脳裏に――少し前、一緒に操騎士を倒して回っていた時に交わした、党団『永遠なる暁』のディーグさんの言葉と会話が蘇っていた。
そう、
ヴァレドリオンの存在が『私の全力』に欠かせないんじゃないかと感じていた事もあって、ヴァレドリオンに自分は相応しくないんじゃないかとも思っていた。
だけど――ディーグさんとの会話がそれを吹き飛ばしてくれたんじゃないか。
ヴァレドリオンの力をより引き出せる強さになろうと、決意したんじゃないか。
今の私は、
さらに言えば、一歩一歩だからささやかだけど、あの日ディーグさんと話した時よりも強くなっている――と信じたい。
それに――
『その魔循兵装は大切に所持を続けよ。
それは汝の運命そのものであり、同時に汝らの運命を切り開く為に受け継がれたものなのだから。
そして忘れるな……汝は他の誰でもない、八重垣紫苑なのだという事を』
かつて
今の私はまだ、
そして――何より私自身が振るいたい。
未熟者で頼りなくて、分不相応で、依存しちゃうかもしれないけど――それでも、ヴァレドリオンをもう一度振るいたい。
一緒に戦いたい――さっきサレスさんがヴァレドリードと一緒の姿を見せてくれたように。
私の憧れである
「――。
ありがとう、サレスさん――やってみるよ」
意を決して私は立ち上がった。
正直自信はないんだけれど――それでも、みんなのお陰で、やってのけたい気持ちが満ちていた。
だからイメージする。
日々の鍛錬の中で握り締め続けてきた感触を。
様々な形で振るった時の感覚を。
一緒に戦って、勝ち取った……かけがえのない
今こうしている間にも戦ってくれている『
それでも、もし私自身の要素――共に戦う資格とか理由が足りていないのなら、せめて分不相応かどうかを確かめる為でいい。
その為の、あともう一度だけでも構わない……でも、もしも叶うのなら、これからも一緒に――!
「私と一緒に戦って! ヴァレドリオンッ!!」
心からの願いを込めて咆哮し、私はサレスさんと同じように――右手を天に翳した。
次の瞬間。
何処からともなく溢れ出た金色の光の粒子、その奔流が私を覆いつくしていった――!!
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