58 ロスクード防衛戦――彼女にとっての一騎当千――
「
私・
直後、その驚きを倍加させるように向こう――人間側の防衛ラインであるロスクードの高壁の方で轟音が響いた。
思わず振り向いて――こちらの警戒は緩めずに――みると、その先では見覚えのある爆炎が巻き起こっていた。
間違いない、あれはクラスメートの寺虎くんの【ファイヤーバーンノヴァ】だ。
いや、というか以前よりさらに威力が上がってるような――うわぁ操騎士達を一気に吹っ飛ばしてるんですけど。
以前止むを得ず戦った時は喰らわないように腕を跳ね上げたりしてたけど――あの威力を見ると、良く出来たなぁ&直撃せずに済んでよかったなぁと思う私です。
なんせ――
「――っ! おいおいおい、なんだよあれは」
その威力を目の当たりにしたダグドさんでさえ顔を引きつらせていたからね、うん。
魔王軍でも上位の存在であり、自身も炎の魔術を得意とする彼さえも驚かせる辺り、ホントに凄まじい火力なんだなと分かる。
でも、多分寺虎くんだけじゃファイヤーバーンノヴァを撃ち続けるのも一苦労なはずだ。
きっと一緒にいるであろう、麻邑さん、翼くん、永近くん、様臣くんの援護の賜物なんだろうね。
そう考える事で、改めて『
かつて意見の相違で離れてしまって、戦ってしまった事もある皆。
その皆が、理由や思う所はあるだろうけど、今いっしょに戦ってくれている――その事にただただ胸が熱くなる。
「嬉しそうな顔をしてるところ申し訳ないですけど――戦ってるのが他でもない彼らである事を忘れずに」
「それは確かにな。
思ったより余裕があると言った手前でなんだが、アイツらの集中力が持つかどうかは不安だ」
そんな私に、
うーむ、それは確かにそうかも。
前回戦った時その辺りを突いて勝った事もあって、寺虎くん達が短期型なのは申し訳ないけど否定できない。
「そういう事なら、確かに早めに決着をつけた方がいいね」
「ああ。その為にも――」
そう言うと、正代さんは私の左肩に手を置いた。
直後、彼女の影が私の失われた左手の断面に伸びてきて――新しい『左手』を構成した。
「おおー! すごい! 自由に動くよー! ありがと正代さんっ!」
少し鋭角的なデザインの『左手』は元々の私の腕のように馴染み、思うように動かす事が出来た。
左手が無かったら正直大変かもと思っていたのですごく助かります。
「あくまでとりあえずだ。
あと、その手からは魔力は流せないから」
「分かった、気を付けるよ」
「おいおい、随分余裕だな」
左手の確認をしつつ改めて身構えた私、そして私達に対してダグドさんが言った。
正代さんに影で両断された翼の再生が終わったので、再びフワリと飛翔しながら。
「確かにあっちには驚かされたが――たかだか数人の助太刀が来た程度なのによぉ」
「あなたにとってはそうでしょうけど――私にとっては、千人力ですからね」
正直、少し前まで不安でいっぱいになっていた。
どうなろうとも最後まで戦い抜くつもりだったけど、勝てる目算は限りなくゼロに近付いていたから。
だけど、みんなが助太刀に来てくれた事で、私の中の弱気は自分でも驚くくらいに少なくなった。
それは――私が知っているからだ。
戦ったからこそ、よく分かっているからだ。
『
「ふふ。
そうまで言われたからには、ご期待に応えないとな――澪」
「……結果的にそうなるだけですよ、静。
しかし、まぁ――その為の舞台が整っている以上、吝かではありませんけどね……!」
阿久夜さんはそう言うと、高々と持っていた杖を掲げた。
その先端に嵌め込まれた赤い宝玉が光を放った瞬間、周囲の地面がめくれ上がりながら次々と魔物が起き上がっていく。
レッサーデーモンを始めとするデーモン系統が複数種、レイラルドでもよく見かけたスライムやゴブリン達、それからキメラやガーゴイル、バジリスク――多種多様な魔物達の死体が生きているかのように動き出し、ダグドさんへと殺到していった。
これこそ阿久夜さんの『贈り物』――自身の魅力と魔力を持って堕ちた者を操る力……【
「ちっ! テメェ、死霊術士か?!」
「いいえ。
わたくしは……自身の才能を持って他者を動かし、世界を動かす――インフルエンサー、その端くれです」
その言葉と、阿久夜さんの表情に私は微かな違和感を覚えた。
以前の阿久夜さんはもっと自信満々に自分自身を誇り、笑って魔物達を操っていたはず。
だけど今の阿久夜さんに笑顔はない――真剣な表情で、杖を振るって……魔物達に指示を送っていた。
「この地で起こった激しい戦いの残滓、使わせていただきます」
「よく分からねぇが、面倒な奴ってのは分かったよ――!」
怒涛の勢いで押し寄せる魔物の群れを、圧倒的な身体能力と全身から吹き上がる炎の魔力で撃ち倒していくダグドさん。
彼は、その攻防の中の僅かな隙をついて急速飛行、阿久夜さんへと接近する――だけど。
「面倒なのは澪だけじゃないぞ――!」
そうする事を読んでいたのか、こうなる事まで織り込み済みだったのか。
正代さんが自身の手を下から上へと振り上げた。
直後、魔物が蠢く地面――そこに紛れ込ませるように大きく展開していた自身の影から、数十の長く細い錐を生成。
その全てがダグドさんを狙って射出されていく――!
「ちぃっ!!」
さっき自分の翼を容易く両断された事もあって、ダグドさんは影の攻撃を強く危険視していたようだ。
一つ一つを丁寧に回避、どうしても避けきれないものを自身の両手に発生させた魔力刃で破壊していく。
当然その間も魔物達の攻撃は続いており、ダグドさんは防戦一方となっていく。
――申し訳ないけれど、その隙を見逃がすつもりはない……!
「セイッヤァァァァァッ!!」
「っ!?」
生成した魔力ブロックで上空に駆け上がっていた私は、狙いを済ませて落下、ありったけの強化を施した拳に魔力を纏わせてダグドさんを殴り付けた。
回避出来ないダグドさんは手に精製した魔力刃で迎撃するけれど――ここに至るまでのやりとりで消耗していた刃は、私の渾身の拳を受け切れず砕き割れていく。
「ちぃぃっ!!」
魔力刃を砕いた私の拳をまともに受けるのは危険と判断したダグドさんは咄嗟に翼で自身を覆って防御体勢を取った。
私は、勢いを殺さずそのまま拳を翼に叩き付けると同時に――
「駄目押しですっ!!」
周囲に浮遊させたままだった十数本の魔力槍も射出する。
それらは、防御に集中したダグドさんの翼を貫くには至らない――だけど拳と合わさった衝撃で、ダグドさんを吹き飛ばし、破壊を刻みながら地面に叩きつけた――!
しかし流石はダグドさん、その最中で魔力を全開にして強引に体勢を立て直した、けど――――。
「テメェら――!」
上げた顔には僅かながらも怒気が垣間見えていて、先程までの余裕が失われていた。
ダグドさんが言っていた、私達に足りないもの――数と力と覚悟。
その内二つを『
最後の覚悟は――ダグドさん的には『
だけど、他ならぬ助けに来てくれた二人が『殺さずに倒す』事を盛り込んでくれている以上、私が諦める訳にはいかない。
だから改めて『殺さずに決着をつける』ための覚悟を私は決めた。
ただ――――。
「――シオン!!」
そんな決意の中で、ある一つに悩んでいる私に――少し離れた所でしゃがみ込み回復魔術を掛けてもらっていたサレスさんが声を掛けてきた。
真剣な彼女の表情から何かあると感じ取った私は、心苦しく思いつつも阿久夜さんと正代さんに「ごめん、ちょっとだけお願い!」と手を合わせる。
二人がそんな突然の無茶ぶりに頷いてくれたのを――阿久夜さんには少し睨まれて申し訳なさが倍増したけど――確認して、私は急ぎ彼女の下へと駆け寄った。
「サレスさん、どうかしたの?」
万が一襲い掛かられても私達を守らんと構えるナイエタさん、回復魔術と警戒を続けるルヴェリさんに感謝しつつ、私もしゃがみ込んで問い掛ける。
すると、サレスさんは真剣な表情のままで私を見据えて言った。
「……このままでは決定力が不足してる、そうじゃないかしら?」
「――!」
それは私が先程考えていた事そのものだった。
状況としてはかなり好転してきているが、ダグドさんを倒し得る最後の一手が欠けているような、そんな気が私はしていたのだ。
「うん、そうだけど――正直何も思いつかなくて」
「大丈夫よ、思いつく必要はない……貴女はもう、すでにそれを手にしているはずだから」
「え?」
訳が分からず困惑する私に、サレスさんは力強く告げた――。
「ここに呼べばいいの――貴女の魔循兵装を……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます