57 ロスクード防衛戦――敗北の先で得た力――
魔王軍に操られる操騎士の群れ――いや大軍勢を前にして。
「『
「おー★」
「うん!」
「――ああ」
「……結局、その名前変わらないのな」
一際高く強く声を上げた彼――
こうして、彼ら……党団『
「よっし、麻邑! まずどこ撃ちゃあいい?」
「真正面なら魔族の人はいないから、遠慮なく薙ぎ払っちゃって★
一応もう一度言っとくけど、魔族の人にはなるべく当てないようにね?
あたしが防壁は張るけど、万が一もあるんだから」
「へいへい、わーったって」
「……
「お、おう。気を付ける」
「それでおけ★」
一瞬、珍しく怒りを込めた視線を向けた実羽に圧され、狩晴は少し顔を引き攣らせた。
しかしそれも一瞬、良くも悪くもシンプル思考の狩晴は今為すべき事へと思考をシフトさせた。
為すべき事、すなわち――目の前の敵を吹っ飛ばして、彼らに借りを返す事へと。
「いっくぜぇぇ! ファイヤーバーンノヴァァァァァッ!!」
叫びと共に前に突き出した狩晴の両手から炎が吹き荒れた。
彼の『贈り物』――【ファイヤーバーンノヴァ】。
魔力を媒介に凄まじい炎を放出する、まさに必殺技というべき力。
圧倒的なまでの、津波の様な高熱・超火力の嵐は――操騎士の大軍勢、その一角をいとも容易く消し飛ばした。
それを目の当たりにした望一は少し呆れ気味に呟いた。
「相変わらず馬鹿みたいな火力してんな……。
この威力を無駄にするのは勿体ない――ってことで実羽ちゃん、魔族の人達はどの辺りにいるんだ?」
「さっきまで皆して強力な防壁を左右から展開してたから、今は端っこに固まってるかな」
「オーケーオーケー……なら、多少延焼させても問題ないよな」
言いながら、望一はパチィンッ!と指を鳴らした。
それ自体には意味はない――ただ彼の気分を持ち上げる為のスイッチだった。
そうしながら彼は『視た』……風の流れを。
「寺虎! 右上にちょっとだけ持ち上げて、そこで1秒、それから左側に移動だ」
「了解っと!」
狩晴は望一の指示に従い、炎を放出したままの手を動かした。
直後――風が吹いた。
その風に乗って、狩晴が放つ炎はより大きく広がって、操騎士を呑み込んでいった。
――これこそが、翼望一の『贈り物』……【
その力は――風の流れを読んで、自分に有利な状況を引き寄せ、そこに乗る、というものだ。
風、というのは物理的な風の事だけではない。
様々な物事の状況の変化、流行、場の雰囲気――世界に存在する、ありとあらゆる流れこそ、この能力における風なのである。
自分がどの立ち位置にいるべきなのか、賭け事の結果、今やってみせたような炎をより昂らせる動きの見極めなどなど、この能力が規定する風は多岐に渡る。
『うーん、凄過ぎてどんな使い方出来るのか想像出来ないなぁ』
彼のステータスを見た
実際、望一自身どれほどの事が出来るのか、未だもって把握できていない。
『
その中で、流れに乗る為に必要なら自身の身体能力も覚醒する事なども分かってはいるが、完全に理解しているとは言い難い。
だが、正直それが望一的には面白かった。
この未知の世界で巡っていく状況の中、探り探り自分の力を見出すのはスリリングで――結構楽しくて、嫌いではなかったのだ。
かと言って、狩晴達に振り回されるのが好きだったわけではない。
勿論自殺願望的な無茶をしたいわけでもない。
なので【
だが、それも今思えば悪くはないと思っている。
その紆余曲折があればこそ、気になっている女子の一人である、紫苑を助ける事が出来たのだから。
(ふふふ、全部事が終わったら、静ちゃんや澪ちゃん、実羽ちゃん、それから紫苑ちゃんから憧れの目で見てもらえるかもな、うん)
そんな妄想に酔いしれていた望一だったが――ふと、こちらへ漂ってくる悪い流れを感じ取る。
直感的に何が起こるのか理解した望一は慌ててダッシュに移行すると共に、仲間達に呼び掛けた。
「――! 永近、様臣、来るぞー!! 俺は怖いから下がるっ!」
「あ、うん」
「……了解した」
そうして二人が返事した直後だった。
「んげっ!?」
まだまだ余力はあったが、改めて方向を定めて炎を撃とうと一旦放出を停止した狩晴が思わず声を上げる。
その瞬間を狙っていた、小柄な――ゴブリンほどの大きさである操騎士10体程が狩晴へと詰め寄ってきたのである。
炎に注力していた狩晴は迎撃の余裕がない――かに見えた。
「っとぉっ!?」
瞬間、狩晴は一番接近していた騎士を迎撃、腰に差していた剣を抜いてかろうじて向こうの剣を受け止めた。
だがそうして迎撃できたのはただ一体、他の騎士達が一気に距離を詰めて襲い掛かり、あわや絶対絶命――――だったのだが。
「迎撃早いね、
狩晴を襲っていた操騎士の全ては、一瞬でバラバラになり――鎧の継ぎ目を狙った斬撃だった――地面に転がった。
それを為し、狩晴に声を掛けたのは――
彼の所持する『贈り物』――超高速で行動できる【疾風の如く】によるものだった。
嬉しそうに笑う彼に、狩晴もまた自慢げに笑い返した。
「おうよ、八重垣にはこれがちゃんと出来なくてボコられたからな。
俺はちゃんと反省する男――おぉぉぉ!?」
返事の最中狩晴が思わず叫んだのは、巨人の操騎士の一体が自分達のいる辺りに向けて大ジャンプしてきたからだった。
このままでは、ほぼ全員が一緒くたに踏みつぶされて終わる所なのだが、そうはならなかった。
「麻邑!
「りょ★」
離れた所で各種魔術の調整を行っていた実羽が、リクエストに応えて強化魔術を発動させる。
その魔術の恩恵を受けた様臣昴は男達を庇うように前に出て――落下してくる巨人の足を受け止めてみせた。
この荒業は、ただ強化魔術を受けただけでは叶わない。
基本的には、巨人の巨体を受け止める力が付与された所で、人間の身体では圧倒的重量に耐え切れないからだ。
だが彼――昴に関しては例外である。
彼が所持する『贈り物』――圧倒的な防御力を付与する【堅城鉄壁】と強力な強化魔術を掛け合わせれば、巨人騎士の凄まじい重量を弾き飛ばす事も可能となる。
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
それを証するように巨人を受け止めた昴は、力を振り絞る為の咆哮と共に巨人を逆に投げ返して見せた。
結果、こちらに押し寄せようとしていた操騎士達の一部が巨人操騎士により潰され――その足を思わず止めていた。
「よーし、流石昴! 将もナイスだったぜー!」
「――当然だ」
「ありがと、
「ふっ! この流れを読んだ俺ってば流石だぜ」
「へいへい、じゃあ、その調子で次に攻撃する所を教えろってんだ――って、訊いてる暇ねぇ!
ファイヤーバーンノヴァッ!」
「ちょ、こっちに撃つなぁぁぁっ!?」
そうして彼らは大騒ぎしながらも、恐るべき魔王軍の大軍に対して優位に戦闘を進めていた。
――そんな攻防の隙間で、実羽が小さく息を吐きつつ笑みを浮かべた。
(……なんだかんだ流石ね、みんな。
もう少しちゃんとしてくれると助かるんだけど――まぁ言わないでおこうかな)
現状派手に迎撃している『
魔力が、ではない。
彼らの集中力が、だ。
これまでの彼らは基本的に『贈り物』に頼った短時間戦闘ばかりだった。
八重垣紫苑と堅砂一のコンビにその点を突かれて敗北してから、彼らなりに思う所があったのか改善している部分もあるが――それでも長時間の戦いはまだまだ不慣れだ。
(
ここから少し離れた操騎士達の向こう側で、魔王軍3将軍が一人ダグドと戦っているだろうクラスメート達の勝利を。
そうして割と本気で願いながら、実羽は男子3人の補助用の魔術を静かに唱え始めるのであった――――。
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