59 いざ決戦――赤竜、再び
「……ふ、ふふふふふふふふ!!! ―――見つけましたよ……!! 本当の、ドラゴン!!!」
「え……?」
私・
阿久夜は突然笑い出したかと思うと俯き加減だった顔を上げた。
その顔には――凄絶としか言いようのない笑みが浮かんでいた。
「わたくしの全身全霊を懸けて――――来なさい、いえ、来い! ドラゴン!!」
そう叫んだ直後、何かが――見えない何かが阿久夜さんから解き放たれた。
それは私達この世界出身でない人間だけが感知できるものだったようで、私達は何とも言えない感覚に同時に顔を顰めていたが、ターグさんをはじめとする
いや、そんな事よりもドラゴンはもう倒したはずだ――私でだけでなく誰もがそう思っていたのだ。
この瞬間までは。
「うわ、な、んだって……んだっ!? ちょ、だれか抑えるの手伝ってくれー!?」
いきなりそう叫んだのは結界の中にいた
彼は何かを懸命に抑え込もうとしていたのだが、一体何をって……!
「――神域結晶球!?」
思わず声に出して叫ぶ。
ドラゴンを倒した後、その内部から回収していた結界領域の要にして国宝級に重要な物。
それがまるで意思を持っているかのように赤黒い光を放ちながら飛び立とうとしている……ようだった。
夜汰くんはそれをなんとか抑えようとしていたけれど……。
「うわぁっ!?」
想像以上の力だったのか、手伝って抑え込もうしていた周囲の人さえ弾き飛ばして、結界の外へと飛び出した。
直後、神域結晶球が星のように、太陽のように強い光を一瞬放つ。
「なんだ――?! 一体何が起こってる……?」
光が収まっていく中、珍しく困惑を露にする
「分かるはず、ないじゃないですか――このわたくしの怒りも衝動も、唯一無二のわたくしだけのモノなんですから――!!」
その叫びめいた言葉と共に、少し離れた所から大きな音が響いた。
そちらに何があったのか、阿久夜さんの言葉もあって私にはすぐに思い浮かんだ。
「まさか、ドラゴンの遺体……!?」
その想像が正しかった事はすぐに分かった。
何故なら音のした方向からドラゴンの身体――その肉片が繋ぎ合わさりながらこちらへと飛翔してきたからだ。
そしてその行先は……空に浮かんだままの神域結晶球。
神域結晶球は赤黒い光を放っていたが、その中で更に鼓動するように赤い光が瞬いていた。
それが瞬く度に肉片が次々と繋ぎ合わさっていく……少しずつ元の姿に、ドラゴンの形に戻ろうとしていた。
そして、いつしかその中心には心臓であるかのように神域結晶球が脈打ちながら据えられていた。
「ど、どうなってんだよ!? あのドラゴンはさっき倒したはずじゃ――!」
大きく動揺しながらの守尋くんのもっともな疑問……それについて私は、これまでの様々な情報を組み合わせる事で答を見つける事に成功していた。
「……うん、多分一人分は倒した――でも、もう一人があのドラゴンの中にいたんだよ……!!」
「そういう、ことか……!」
私のその言葉だけで堅砂くんは全てを理解したようだった。
「あれは、まだ倒してないもう一人……!!」
そう。
あのドラゴンは、元々赤竜王・エグザ様の転生先だった都合で、赤竜さんとエグザ様の二人がいた。
阿久夜さんの【
「つまりさっき倒したのはそのどちらかだけで、もう一人を阿久夜さんが改めて操ろうしてるってことか……!」
レーラちゃんの事は内緒にしていたけど、二人の存在については皆に話していたので守尋くんも状況をすぐさま理解したようだ。
「じゃあなんで神域結晶球まで動いてるのよ……?!」
結界を維持したままの
それに答えたのは、結界の中でずっと状況を見守っていたレートヴァ教・聖導師長ラルエルことラルだった。
「おそらく阿久夜様の『贈り物』で操ろうとしているもう一人と、神域結晶球が強く結びついていたからです」
再生していくドラゴンを見据えるラルの表情は酷く苦しげであり鋭くもあり――怒りと悲しみが入り混じっていた。
「この結界領域を維持する為の赤竜王様の転生体と神域結晶球の結びつきが、よもやこのような形で悪用されるとは――!」
「というかずるくない?! 融合してたんなら一人分でしょ?!」
伊馬さんの怒りの籠った叫びはごもっともだ。
だけど、そうなっていない事情を私は知っている。
「その時はまだ融合が完全じゃなかった……だから二人分なんだよ……ズルいとは私もすごく思うけど」
それでも本来ならば『贈り物』の発動はしなかったんじゃないだろうか。
こうなっているのは、おそらく阿久夜さんの強く深い呼びかけ――想像を絶するほどに強かったそれが起きるはずのないものを起こしてしまったのだと私は考えていた。
先程の阿久夜さんの鬼気迫る様子は、そうなっても不思議ではない――納得出来るだけの気迫があったからだ。
「――というか、ズルいのはそれだけじゃないみたい……!」
「ああ、身体が全く動かない――おそらく先程の強い光の所為だろう」
おそらく
さっきから私は全力でドラゴンの再生の妨害か阿久夜さんの拘束かを行おうとしているんだけど、まるで動けなかった。
どういう訳か、いつぞやのゴブリン戦で使用した魔力による強引な身体駆動もままならない。
「【ステータス】ではどうなってる?」
「反転結界による一時的な麻痺効果って表示されてる……! そして解除まで後30秒……!!」
「なるほど――アイツの復活までの時間って訳か」
一くんの言葉に、皆が頭上で復元していくドラゴンへと視線を送った。
口惜しい事だが、今の私達にはそれしか出来る事がなかった。
「ふふふふ――! いい顔ですよ、貴方達!!
さっきまでの調子は何処へ行ったんですか? あはははは!」
そんな私達を嘲笑う阿久夜さん――そのテンションは、先程までの追い詰められていた状況からの反動なのだろうか?
それにしても表情や感情が強過ぎるような気がして――なんというか、見ていて心配になる。
「阿久夜さん、えーと、その……なんと言ったらいいか……だ、大丈夫なの……?!」
「――この期に及んで何を頓珍漢な事を……! 貴方がすべきなのは自分達の心配でしょうに――!!」
そんな言葉と共に凄い怖い表情で睨まれる私。
でも、それだけ鬼気迫る様子がどこか辛そうにも見えてしまうのだ。
……そう、あの夜の、私を殺しかけた赤竜さんのように。
もしかしたら『贈り物』を掛けた影響で、阿久夜さんもドラゴン側の影響を受けている……?
その疑問を声に出そうとした瞬間だった――麻痺効果が解除されたのは。
「
すぐさま
私や守尋くん、
放った魔術は呆気なく、何の効果も生み出す事なく砕け散った。
そして動き出そうとした私達は、目の前の威容に、威厳に、圧倒的存在感に足を踏み出せなかった。
そこには、最早腐ってすらいない、完全な形の
「――」
喉がひりつくような、乾くような、悲鳴すら上げられない感覚。
それが全身を覆っているかのようだった。
私の視界に展開された
私が知る最高レベルの存在、スカード師匠すら大きく上回る、規格外の存在だった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます