㊼ いざ決戦――決して相容れないのであれば
「じゃあ、私が話してた途中だったから、私が代表して言わせてもらうね」
私・
「寺虎くん、阿久夜さん、私達は貴方達の要求には応えられない」
「――そうかよ」
「予想出来た事ですね。
一応訊いておきますが、理由は何ですか? まさか人殺しになったクラスメートなんかもう敵だとでも?」
「そういう理由じゃないよ。
私達だって冒険者だから、戦ったりの中で相手を殺してしまう事があるのは重々承知してる。
だから、それを理由に寺虎くん達を責める資格はないと私もそうだし、皆も思ってる。
でもね。
冒険者だからこそ、冒険者じゃない所で人を無用に傷つけるのは違うんじゃないかな」
「――!」
その言葉には思う所があったのか、
「冒険者として人を傷つけたり殺したりする事は避けられない。
それはきっと覚悟しなくちゃいけない事だと私は思う。
だけどだからって人を傷つけたり殺したりに慣れる必要なんかない。
ましてそれを強要するのは違うと思う。冒険者と関係ない所なら尚更に」
スカード師匠の言葉が思い起こされる。
人を殺す事について、師匠は慣れずともいいと言ってくれた事を。
レベル255に至るほどの冒険を繰り広げてきた師匠の経験は、きっと私達の想像を絶するものだろう。
人を殺す事の是非や自他が生き残る事についても、私達の及びもつかない程に考えを巡らせてきたのではないだろうか。
そんな師匠でさえ、慣れなくてもいいと言ってくれた事……それは慣れるような事ではない、慣れちゃいけない事だと伝えてくださっていたのではないだろうか、と今改めて私は気付かされていた。
そんな師匠への敬意を抱きながら、それと共に私は寺虎くん達を見据えた。
その視線を嗤いながら、寺虎くんが口を開く。
「ハッ、覚悟と慣れになんの違いがあるってんだよ。
結局同じ事やってんなら、批判する権利なんか――」
「馬鹿か、お前」
権利なんかない、そう言おうとしたのだろう寺虎くんの言葉を遮って、切って捨てたのは、私の……相棒である、
私の横に立ったまま、一くんは不機嫌さを隠さない表情で言葉を続けた。
「元の世界に帰ったら国語辞典を引け。
慣れと覚悟は全く違う言葉だと頭が悪いお前でも辞書が読める程度の知能があるならすぐに分かる。
そして批判する権利ならあるに決まってるだろうが。
冒険者としてじゃないお前らの今日の行動は――ただの暴力行為で、犯罪だ。
それを間違ってるという事に、なんの権利が必要なんだ?」
「そうだよ……単純にやっちゃいけない事があるってそれだけの事だろうが」
そう言いながら一歩前に進み出たのは
「寺虎お前、自分が筋も通せない、我が儘を通すだけのただのダサい奴になってるって分からないのかよ?」
「それが分かってないってんだよ、守尋。
俺は今まさにその筋を、俺の俺らしさを通そうとしてるってのによ。
てめぇらが屁理屈でそれを邪魔してるだけだっての。
だから、今から俺がお前らを叩きのめして筋を通す――それだけのこった」
「――そんな考えだから、私達は受け入れられないんだよ、寺虎くん」
誰かの考えを否定するのは好きじゃない。
嫌われるのが嫌だからでもあるけど、それ以上に、価値観は人それぞれだからというのが理由としては大きい。
皆それぞれの人生を生きていて、それぞれに培った考え方があって、それを元に言葉を発して、行動している。
それを頭ごなしに否定するのは、きっと正しい事じゃない。
否定されたら傷つくし反発したくなるのは当たり前だと思う。
だけど――だとしても、それを理由にして放置しちゃいけない事がある。
そして、理由があれば人を傷つけていいなんて、私には到底思えない。
「ああ?」
だから凄んだ表情で私を睨み付ける寺虎くんの視線を、私は揺れる事なく確かに受け止めて、真っ直ぐに見つめ返した。
それでも、彼の考えを否定する為に。
「今私達が貴方達の思いどおりになったら、次はどうするの?」
「次……?」
「思いどおりにならない誰かが現れたら、今私達にしようとしているように叩きのめそうとするんじゃない?」
「そういうことか。ああ、そりゃ当然そうするさ。俺は平等だからな」
「――うん、それを私達は放っておけないの」
「あん?」
「
お前らは
「俺は別にどうでもいい――と言いたいんだがな。
お前らの馬鹿の所為でこっちの行動に差し障る事態になるのは非常に面倒臭いし困る。
だからお前らの馬鹿な行動を認めるつもりは絶対にない。
その方向が俺達であれ、この世界の人間であれだ」
「右に同じくね」
「同意見だ」
「微妙に違うけど9割同じかな」
「うん、多分同じ考え」
私の言葉の後に、守尋くんが、一くんが、伊馬さんが、津朝くんが、志基くんが、結さんが意見を表明し、その後も皆が「俺も俺も」「私も同じ」などなど同意の言葉を重ねていく。
それを見届けて
「交渉決裂ですね。ならどうするんです? 話し合いで解決するんですか?」
「可能ならそうしたいって奴もいたがな――」
そう言って私に視線を送る一くんに、私は小さく首を横に振った。
事ここに至ってそれが不可能なのは明らかだったからだ。
「こっちを叩きのめすって殴り掛かってくる奴相手に話し合いを続けられるほど、今の俺達に余裕はないし、いい加減お前らの馬鹿っぷりには腹が立ってるんでな」
「ホントそうよ。アンタらの考え聴いて完全にキレたわよ、私」
「ああ、巧や八重垣ほど俺らは優しくないからな」
一くんの意見に全力同意しているのは伊馬さんと津朝くんだった。
ガルルル……と聞こえてきそうな表情で寺虎くん達に拳を構えていた。
――津朝くんはそう言ってくれたけど、今は私も吼えたい気持ちです、はい。
「ふん、結局腕づくなんじゃないですか。わたくし達と同じ穴の狢ですね」
「お前も大概馬鹿だな
「なんですって?」
「最初から腕力思考で物事を押し通す連中の暴力と、それを止める為の暴力を一緒にするとはな。
結局お前も寺虎と大して変わらないって事か」
その発言が余程癇に障ったのか、阿久夜さんはそれまでの笑顔から一転、怒りを露わにして半ば叫んでいた。
「な、な、なんという侮辱っ!!」
「なぁ、一番侮辱されてるの俺じゃね?」
「黙ってなさい、その辺りはこの状況を片付けてから話してあげますから……」
言いながら阿久夜さんは左手の中指と親指を重ねて指を鳴らす構えを取った。
おそらく『贈り物』を使って魔物を操ろうとしているのだろう……ならば、と私も声を上げようとした時だった。
他ならぬ寺虎くんがそんな彼女を制止したのは。
「ちょっと待てって。俺も結構苛々してるんでな。
ここは連中をぐうの音も出ないほどに叩きのめして黙らせてやろうぜ」
「――と言いますと?」
「まずは、俺と将と昴だけであいつらをボコってやるよ。
そうしたら、あいつらも身の程を知ろうってもんだぜ。
それでもガタガタ抜かした時は阿久夜がご自慢の兵隊でボコってやればいい。
どうだ?」
「ふん、あなたが先に暴れたいだけでしょうに。
でもまぁ、いいでしょう。
確かにその方が面白い画を見られそうですし」
「さっきの侮辱の分、礼は言わないでおくぜ。
……てなわけで、勝負しようぜ? そっちは何人でも構わねえからな」
それは寺虎くんの広域の攻撃が可能な『贈り物』あっての提案なのだろう。
彼の表情は自信に満ちていた――のだけど、それは次の瞬間、一くんの言葉で困惑に染まっていった。
「ああ。いいだろう。
ただしこっちは――俺と八重垣紫苑だけで十分だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます