㊻ いざ決戦――冒険者として
領主様からの依頼である神域結晶球回収が為された後に現れた、今は対立の立場にあるクラスメート達。
彼らは私達の成果を自分達がいたからこそ為し得たとして、私達のこれまで重ねてきた独立へとの準備やその他も総取り――横取りすると主張してきた。
彼らを表向きまとめている寺虎くんは、そうすればクラスみんなで楽しく冒険できるという。
――確かに、そうかもしれない。
ずっと対立を続けるよりは、ここで互いに妥協点を探って、穏やかに解決をすべきなのかもしれない。
だけど。
「あの、いいかな」
思う所があって、私・
すると寺虎くんは、楽しげに笑って言った。
「おう、なんだ八重垣。
俺達の下についた後の対応については応相談だぞ? 俺らに媚びたら相応に……」
「――――悪いけど、こっちの質問を先にさせてもらうね。
まず、コーソムさんはどうやって連れてきたの?
レイラルドの邸宅にいらっしゃったと思うんだけど」
「ああ? そりゃあもちろん丁重に迎えに行ったんだよ、なぁ?」
「……違うでしょう。
彼が、私達を脅迫して強奪するように指示した、でしょ」
「っと、そうだったそうだった」
寺虎くんの言葉を、彼の仲間である
私達が知る限り、コーソムさんは以前の事を反省してファージ様に連れていかれる時から抵抗らしい抵抗もせず、暴れるような真似はせず、静かだったはずだ。
強奪を指示するとは思えないし、そんな手段もなかったはずだ。
そしてこう考えるのは酷だけど、彼らに対して見返りが提示できない今のコーソムさんの指示を彼らが――特にリーダー格の二人が素直に応じるとは思えない。
つまり、阿久夜さんの言葉は『事実とは違うが、自分達の都合の為にそうしておく』以外の何者でもないのだろう。
コーソムさんに視線を送るも、彼は何も語らなかった。
何故否定の声を上げないのかは分からないが、何かしら理由があるのだろう。
だとしても――。
「……強奪って誰かを怪我させたりしたの?」
怒りを噛み殺しながら質問を続けると、私の様子を知ってか知らずか変わらない調子で寺虎くんは答える。
「出来る限り少なくしといていやったぜ? この馬鹿息子もその辺りうるさかったからな。
でも殺しはしてないんだからありがたく思ってほしいよな。
どうせ生き返るんだしさ、お前や依頼でぶっ殺した悪党魔術師とかみたいに」
「っ――」
寺虎くんの発言に私は、いや私達は思わず息を吞んだ。
「寺虎くん達は人を――」
「ああ、何度かぶっ殺してるぞ。でも、依頼なんだからそういうものだろ?
知ってる奴でもないし、悪党なんだからいいじゃねえか。それにさっきも言ったが生き返れるんだしな」
「それにRPGだって道端に現れる雑魚の生き死になんて語られないでしょう?
せめてわたくし達の目を引く
まぁそれを言えば、こちらの何人かはまだそういう存在とは言えないかもですけど。
誰とは言いませんが、盗賊を迷いなく殺すくらい躊躇わないでほしいですね」
「そう言ってやるなよ、慣れたらできるようになるだろうからさ」
「だと良いですね」
……なんとなく。
以前、冒険者協会で再会したから感じていた、彼らの様子の変化、その根本に気付いた気がした。
彼らのタガはとっくの昔に外れてしまっていたのだ。
ゲーム感覚……そう表現したくないが、それに限りなく近いものになっている。
殺した人が実際に生き返れる事を知った結果、取り返しがつくと勘違いしてしまっている。
ただ、そうなるに至った全てが悪いとは言い切れない。いや、言えないと思う。
悪党の魔術師がいて、その行動で苦しんでいる人がいて、その人物を討つ必要があった。
依頼があったというのは、そういう事だ。
それが通った以上、冒険者協会もその認識に間違いがないと判断しているという事でもある。
そして、その魔術師の攻撃で殺されそうになって反撃するのは間違っていないと思う。
殺されそうな状況の中、生き残る為に相手を殺しうる攻撃を返すのは仕方のない状況だろう。
自分が死にそうなのに相手を生かす事を考慮するなんて事は、現実においては無茶な事でしかない。
依頼として、必要があって、相手を殺す――それは、私達もそうしていたかもしれない事で、今後そうする可能性のある状況だ。
冒険者という職業は、そういう誰か何かをを殺す事から切り離せない仕事なのだ。
冒険者になる以上、冒険者である以上、それを知らぬ存ぜぬ出来ないでは通らないと思う。
少なくとも、如何なる理由があれど、私達のように冒険者になった人には詳しい状況も分からずに彼らを責める事は出来ない。
それが分かってるから、皆動揺はしていても責める声は上げられないし、上げちゃいけないと思ってるんだと思う。
――だけど。
「慣れたらできるように――?! お前らいった……八重垣さん――?」
それでも言うべき事があると前に進み出ようとした守尋くんを私は手で制した。
言いたい事はきっと同じなんだと思う。
でもそれは聞くべき事を全部聞いてからがいいんじゃないかと私は思ったのだ。
だから、申し訳なさを堪えながら守尋くんに一度視線を送ってから、改めて私は寺虎くんたちに尋ねた。
「最後にもう一つ訊かせてもらうね……仮に貴方達の要求を私達が拒否したらどうするつもりなの?」
「そんなの決まってるだろ?
要求を呑むしかなくなるように、きっちり上下関係を教え込むだけだ。
勿論圧倒的な力の差を見せつけた上でな」
「……そう。なら――
「ああ、するまでもないと思うが」
「あん?」
寺虎くん達が怪訝な顔をしている内に――一くんの【
一くんの言うとおり、するまでもない事だったかもしれないけれど――ちゃんと意見を交わす事は大切だと思う。
それが出来なかったから寺虎くん達は出て行ったのか、出来たとしても結果は変わらなかったのか。
今となっては分からない――だけど、出来なかった後悔を二度としないために、今は今の最善を尽くしたかった。
私は皆に視線を送ってから大きく頷いて見せて、その上で改めて寺虎くん達に向きなおった。
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