㊸ いざ決戦――みんなの力を束ねて


 林を抜けたその先に、そのドラゴン――かつては赤竜王の身体となるはずだった赤竜さんの身体は佇んでいた。

 既に死んでいるはずの彼は私達の同胞であるはずの、今は相対している阿久夜あくやみおさんの支配下にある。


 それゆえに、というべきか。

 彼は私達が明確に接近し攻撃の態勢を整えると、それまでの静かな様子から一転攻撃を開始した。

 

『多分、ラルを巻き込まないように俺達だけを攻撃対象として仕込まれていたんだろう』


 とはじめくんは推測していた。 


 朽ちかけたドラゴン――こう言いたくはないが、ドラゴンゾンビとステータス上には表記されている存在。

 

 その強さは前回の戦いで痛いほどよく理解している。

 それでも、かの赤竜王・エグザ様に夢の中で聞いた話だと、かつてよりも大きく弱体化していたそうだ。

 にもかかわらず、私・八重垣やえがき紫苑しおん堅砂かたすなはじめくんは有効な攻撃を殆ど繰り出せなかった。

 周囲の攻撃も激しく、その余裕がなかったと言えばそうだが、あった所でさほど大きなダメージは与えられなかっただろう。


 それほどにドラゴンの皮膚は硬く、ドラゴンという存在は強いものだ。


 しかし。


「ハァァアアアッ!」


 この世界に召喚されたクラスメート私達の一人、冒険する事でこれからを切り開こうとしていたグループ――通称『冒険組』のリーダー、守尋もりひろたくみくん。

 彼の振るった一撃は、いとも容易くドラゴンの皮膚を切り裂き、振るってきた手の手首から下を切断していた。


 圧倒的な破壊力――それは彼が神と思しき存在から貰った『贈り物』――【心燃しんねん】による力だけではない。


 そもそも彼の攻撃力は凄まじい。

 レベルアップに伴い、魔法による強化から変化した――外術がいじゅつ・闘気法による強化は、単純な数値で言えば私の十倍以上の攻撃力を誇る。

 守尋くんの幼馴染・伊馬廣音いまひろねさんの強化魔術が更にそれを強化しているので、攻撃力が凄いインフレを起こしている。

 

「こっちも行くぜ!!」


 ドラゴンゾンビが守尋くんに気を取られている内に、彼と特に親しい津朝つあさわたるくんの振るう大剣グレートソードが唸りを上げる。

 クラス1の様臣さまおみくんに次いでの大柄な体から繰り出される一撃は腐る事で内面が露になっていたドラゴンゾンビの尻尾の一部を抉り取った。

 

 津朝つあさくんの『贈り物』――【協調シンクロ】は、その力を向けた対象の力に『合わせる』事が出来る。

 すなわち、対象者の力に近しい力を発揮できるようになる。

 今は当然守尋くんを対象としており、その結果津朝つあさくんは私から見れば守尋くんと同等の、とんでもない攻撃力を発揮している。


「僕も続くよっ!!」


 そんな二人に当たらないように極小規模の氷の礫の雨による援護攻撃魔術を仕掛けるのは志基しきやなぎくん。

 穏やかな人柄で守尋くん達の人と人の間をいつも取り持っている、優しい人だ。

 その的確な援護は、強力ではないけれど決して微力ではなく、二人への攻撃の足を確実に鈍らせて、二人へ攻撃を届き難くしていた。

 

「みんなの力、もっと上げるね――!!」


 そして、そんな面々を全体的に底上げする『贈り物』――【善隣友好みんななかよし】を放つのはむすびめぐみさん。

 元々は転入生で、守尋くんに困った所を助けられた事が縁となり彼らとよく一緒にいるようになった女の子。

 初めて話した時はどこか沈んだ様子だった姿が今となっては懐かしい……そんな穏やかな明るさ――それを形にしたような淡い桃色の光が冒険組の皆を包んでいく。


 その強化が守尋くんをさらに強くし、それに伴い津朝つあさくんも強化され、私達の後ろに控えた冒険組の皆がさらに各自の得意分野を強化する事で、全体がより強く強靭なモノへとなっていく。


 そう、これこそが守尋くんを中心とする冒険組の皆の強さ。

 守尋くんを強化する事が全体に連鎖し、さらに強さを高めていく――それがフル稼働すれば、大きなレベル差をものともしない戦いが出来る。


 さらに言えば、私達を鍛えてくれているスカード師匠の助言で各自の課題を乗り越えた事で、それぞれの基礎力も上がっているらしい。

 

 その結果、相当に格上のドラゴンゾンビ――レベルは72である――を圧倒している。


 前回は寺虎くん達が相手だった抵抗感、全体的に疲弊していた事などが重なって本領を発揮できなかったが――

 完全な形で発揮できればこれほどまでに強いとは……仲が良い人達のチームワークってすごいなぁと私はただただ感動していた。


 まさに友情・努力・勝利――あ、勝利はまだだ。

 でも実際、そう言い切っていい位じゃないかと思える連携と攻勢に、私は感動して胸が熱くなっていた。 


 そんな中、そんな私を冷静にさせるかのようなドラゴンのくもぐっていながらも大きく鋭い叫びが響く。


 最早腐りかけの身体からは大した血は流れない――だが、大きなダメージは間違いなく、ドラゴンは息も絶え絶えの様子で怒りのブレスを吐かんと頭を振り、大きく口を開いた。

 ――生憎だけど、その予備動作はしっかり覚えさせてもらっている。


『前線組、下がれ!! ――紫苑、連携防壁!!』

『了解!!』

『呼吸合わせ、3、2,1!』

『ゼロッ!!』


 はじめくんの指示で前線で戦う守尋くんたちが、少し遅めにかつ集まる形で下がっていく。

 当然、ドラゴンのブレスはそこを目掛けて放たれる――


氷結重硬壁リーザ・タイ・ウェア・ハー・ウール!!」


 はじめくんがこの日の為に覚えておいた巨大な氷の障壁魔術が守尋くんたちを守る様に展開される。

 炎属性の攻撃を大幅に減退・防御する強力な魔術――でも、ドラゴンのブレスはこれでも完全には防げない。

 いや、むしろ最終的には破壊された上でこちらはダメージを負うだろう、とはじめくんは語っていた。

 私達のレベル差は、本来はそれほどまでに大きい。

 だから――!!


タイ!!」


 その障壁の両面を私の魔法の光柱……それを網目状に組み合わせた防壁で覆い――


「「ニーク!!!」」


 それらを私とはじめくんの、息を合わせた魔術言語の発動で結合する……!!


 私達二人の合体複合魔法術式――それは遥かに格上のドラゴンのブレスを防ぎ切る事に成功した。

 守尋くん達との連携の余波でほんの少し強化バフが掛かっていたおかげでもある。


 流石にこれは予想外だったのか、ドラゴンの緑色の眼が見開かれる――そこに。


「これで、決める―――!!」


 氷壁を駆け上がった守尋くんが飛び上がる――その手には、強化に強化を重ねた、青い光を放つ剣が握られていた――!!

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