㊷ いざ決戦――けれど最初は穏やかで?
「では、レートヴァ教聖導師長ラルエル、これより依頼達成の見届け人となります」
様々な準備を終えて、確認作業を終えての昼下がり。
結界領域に入ってからのラルの言葉に、私達は表情を引き締めた。
「よろしくお願いします、ラルエル様。じゃあ、行くぞ」
クラスを代表して
前回は曇天だったが今日は良く晴れ渡っていたので、皆の足取りはしっかりとしていた。
今回失敗するとほぼ後がない事で気合が入っている、というのもあるのかもしれない。
日数的には一応後三日残っている。
だけど、それはあくまで念の為、かつ今使わせてもらっている寮を引き払う時間を踏まえての予備日に過ぎない。
私達としては今日で全てをスッキリと終わらせるつもりだった。
それもあって、今回は前回依頼を達成しようとした時よりも参加人数が多い。
いつもなら寮で待っている人達も今回に限っては領域の外までやってきていた。
何人かは準備期間中に魔術などを覚えた事もあり、いざという時のサポートや終わった後怪我などをしていたら回復をしてくれる算段になっていた。
それに――切り札も有難い事に控えてもらっている。
ちなみに、レーラちゃんも酒高さんと一緒に結界の外で待ってくれている――応援の言葉ももらったし、気合もさらに入ろうというものだ。
「――ご機嫌だな、君は」
そんな私・
少し呆れ気味の表情に、私は小さく笑顔を返して見せた。
表情が
……ここ暫くそういう素振りを見せると「俺に対してはわざわざそんな事気にしなくていい。というか鬱陶しい」とこと細かに指摘を受けておりました、はい。
事情があって
一週間前の出来事で、
少し前までのどこか私に気を遣う形から、ざっくばらんになったというか。
口調だけ見れば一周回ってただのクラスメートの頃に戻ったような気がするんだけど――。
「だってレーラちゃんから応援しっかともらったから――見たでしょ? すごくかわいかったよね?」
「――まぁ、否定はしないがな」
なんというか、所々柔らかさを感じる所があって、やっぱり仲良くなれたんだなぁと嬉しくなる。
『なんだそのよりニヤケたニヤケ顔は』
直後彼の所持する『贈り物』――【
『いや、その、こういう会話が普通に出来て、
『臆面もなくそういう事を言うようになったよな、君は』
『ここ暫く、そういうの遠慮しなくていいってたくさん怒ってくれたから、うん』
でも実際には臆面もなくって程でもなくて、私もまだまだ恐る恐るです。
ただ、以前よりずっと気を緩めて話せるようになったのは間違いないので、ありがたいし嬉しいのです。
『そもそも俺と仲良くなれて嬉しいのか?』
『勿論。自慢じゃないけど友達少ないから』
『――。ホントに自慢にならないからもう少し増やせ』
『ど、努力します。……ありがとう、
『……何が?』
『土壇場の緊張を緩めようとしてくれて』
『――まぁ念の為だ。
今日きっちりかたをつける為には、君には万全の態勢でいてほしいからな』
『うん、お陰様で私は万全だから。
『人に言うからには自分も万全に決まってるだろ』
『よかった――がんばろうね』
『結果、きっちり残すぞ』
『「――うん」』
その言葉に、私は現実の声と共に大きく頷いた。
「どうかした?」
そのタイミングで、突然に声を掛けられたので私は思わずちょっとビクッとしてしまった。
声の主は、少し前を歩く
私は驚いてしまった申し訳なさと気恥ずかしさから苦笑しつつ答えた。
「いや、その、気合を入れ直してただけだから。ごめん」
「謝る事じゃないって。唐突に話しかけてこっちこそごめん。
ほら、その、八重垣さんは前回の事があるからさ――大丈夫かなって」
私は前回ここでドラゴンゾンビ――赤竜さんの身体に食べられて死んでしまった。
なので、人が良い守尋くんが心配するのも納得であった。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから、うん」
「そっか、それならいいんだ。
でも、その、いざって時はちゃんと俺が八重垣さんを――あいたっ!」
言葉の最中、守尋くんの頭を杖が叩いた。
振るったのは、守尋くんのすぐ近くを歩いていた伊馬さんだった。
「そこは俺達が、でしょうが。
前回紫苑や堅砂くんに殿を任せちゃって責任感じてるのは巧だけじゃないんだから。
ねぇ?」
「うん、そうだよ」
「勿論だ。今度は俺達が良い所見せないとな」
伊馬さんの言葉に、守尋くん達冒険組の面々が力強く頷く。
みんな私と堅砂くんに向けて、親指を立てて笑いかけてくれた。
――その中で、伊馬さんが守尋くんに若干細めた視線を向けていたので、少し怖かったです。
一週前の出来事以来、伊馬さんは時折私達に気を回して、2人での買い物を頼んだり、食堂で隣り合うようにしてくれていた。
どうやら『私達が付き合っている』という嘘を疑わずにいてくれているようで、心苦しいながらも安堵しております。
それにそのお陰で一くんと話す時間が増えて編み出せた技もあるので、そういう意味でもありがたかった。
閑話休題。
ともあれ、そうして皆に突っ込まれた守尋くんは「いや、そうなんだけどさぁ」と頭を掻いていた。
「――まぁ、いいか。行動あるのみだよな。
それにしても……今回全然魔物出ないな」
「確かにそうね」
「本来魔物なんか出るはずがなかったから当然だな。
ラルさんの話からすれば、この結界領域は浄化が殆ど完了してる状態だったわけだから」
「そのとおりですね」
「現在こそ私やファージ様が考えていた状況――この清められた土地を渡す事で全てを終わらせる……そのつもりでした。
そうならなかったのはなんらかの因縁なのか運命なのか――あるいは貴方達に課せられた試練なのか。
もしかしたら、今日それが分かるかもしれませんね」
「試練なんかない方がいいんですがね、俺達は。
しかし勿体ないな……神域結晶球を回収したら、ここの結界は消えるんでしょう?」
「ええ、そうなります。神域結晶球は結界の要となっておりますので。
この地を起点に展開しているとはいえ、要が失われれば当然結界も機能しなくなります」
「そのまま機能してくれていたら余計な手間も……」
そうしてラルと
私の『贈り物』――【ステータス】に『ドラゴンゾンビ』の表示が浮かび上がったのは。
「皆、気をつけて! あの竜が近くにいる――!!」
「ああ、そのようだ。前方にいる」
すると、林の向こう――距離があるので姿は小さく見えているが、開けた場所に佇んでいると思しき巨大な竜の姿が確認できた。
だけど。
「動く気配、ないな。攻撃範囲はどうなってる?」
「うん、今の所この辺りは攻撃の対象になってない……でも前回の事を考えたら、もう射程内に入ってるはずなのに。
攻撃の意思がない……?」
「そんな事はないだろう。君のステータスに表示されているわけだしな」
私のステータスで感知できるのは、基本的に生きている存在だ。
そうでないならばこちらに攻撃を向ける・向けうる能力を持った存在――
つまり、死んでいる上で私のステータスに表示されているという事は少なくとも敵対存在であるという事で、すなわち――。
「八重垣さん、
そう、それらを操る能力を持つ、現在私達と敵対している
そんな疑問を込めた守尋くんの言葉に、私は首を横に振った。
「ううん、今の所近くにいないみたい。能力だけ使って放置してるって事かな」
「うーむ、こっちの邪魔をしたい割には中途半端な気がするなぁ」
そうして一時警戒しつつも足を止めて、遠くから様子を窺っている中。
「――ふむ。大体の腹は読めたな」
「マジでか? 流石堅砂だな」
「判断材料が少ないから確信ではないが、ほぼ決まりだろう。
連中の企み……と言えるほど高尚なものじゃないがそいつを潰す為には――悪いが、あのドラゴンは守尋達冒険組だけでなんとかしてくれ。
多少援護はするが、俺達拠点組は力を温存しときたい」
「ええ、マジか……まぁ、いいけどさ」
そう言うと、守尋くんは不敵な笑みと共に一歩前に進み出た。
「前回の借りを熨斗付けて返すにはちょうど良い機会だ。
行けるよな、みんな」
その呼びかけに、守尋くん達冒険組は各々の言葉と共に、笑みを浮かべて彼の側に並び立っていく。
「これからこの世界を冒険しまくるつもりの俺達冒険組の力、しっかと見せてやるぜ――!!」
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