㊹ いざ決戦――これで決着……なんて事はないよね
「これで、決める―――!!」
氷壁を駆け上がった
だが、ドラゴンゾンビもただやられるつもりはないと、跳躍した守尋くん目掛けて、溜めは少ないが一人を攻撃するには十二分の黒い炎の
飛行の魔法や魔術を持たない守尋くんに回避の手段はない――ただし、それは彼が独りであればの話だ。
「守尋くん、使って!!」
直前、私は魔力による光の迂回路を守尋くんの近くで精製する。
空中でブロックや道路を使う事での変則軌道・移動はこれまで何度かやっているし、練習も重ねていた。
なのでドラゴンブレスが放たれるよりも僅かにだけれど先に形成する事が出来たのだ。
それに気付いた守尋くんは自身が持つ剣を軽く振るい、その威力の余波でその光の道に見事飛び乗った。
「サンキュー八重垣さん――!!」
空中に浮かび上がる光の道を駆け抜けて、守尋くんはドラゴンブレスの回避に成功。
一方ドラゴンゾンビはブレスをほぼ二連続で放った事でこれ以上ない隙を生んでしまっていた。
それでも反射的に腕を振るい、魔力の道を破壊、守尋くんを叩き落そうとするも――
「当たるかっ!!」
砕かれたのは私が精製した魔力の道だけ。
直前に再度跳躍した守尋くんは、今度こそと大上段に剣を構え――!
「行くぞ――! 必殺!
魔力を青い光と化して迸らせた巨大な刃を渾身の力で振り下ろした……!!
その巨体ゆえか、あるいは既に朽ちかけているが故か、それを回避する事は出来ず。
ドラゴンゾンビの身体は青い光刃に袈裟懸けに両断され――斬られた半身をスライドさせながら、仰向けに地面へと倒れていった。
それにより地響きが鳴り渡るが――私達は油断せず状況を見守った。
その数秒後、私の『贈り物』――【ステータス】の敵対存在表示からドラゴンゾンビの名前が消失する。
「……皆! ドラゴンの名前が――消えたよ」
それに間違いがない事を確認した上で私が告げる。
すなわちそれは――無事にドラゴンゾンビが敵対存在ではなく元の死体に戻った事を意味するものであり、私達の勝利証明の言葉であった。
直後、皆による歓声が沸き上がり、響き渡った。
言葉はそれぞれ違うけれど、口にしているのが喜びの感情である事はみんな同じだった。
(――赤竜さん、これで完全に救われたのかな。そうだといいな)
残された身体を操られていた赤竜さん本人は既にいない。転生して赤竜王・エグザ様と一体化しているという。
だけど、こうなったことで最後の一欠けらが救われた事を私は願ってやまなかった。
……でも。
『私は……まだ』
かつて私とレーラちゃんの身で起こっていた出来事の中で、彼と思しき存在が漏らした言葉が脳裏を過ぎる。
本当にこれですべてが終わったのだろうか――。
「どうした、難しい顔をして」
皆が喜ぶ中、私一人が違うベクトルの表情をしていたのを気に掛けてくれたのだろう。
「うん、その――名前表示は消えてるの。間違いなく。
でもなんとなく、これで本当に終わったのかな、って思えて」
「ドラゴンはこれで終わりだろうが、まだ俺達の問題は終わってないからな。
そこが引っかかってるんじゃないのか?」
「うーん、それもそうなんだけど――なんというかほうれん草とかが歯に引っかかって、手を使わずに舌で取ろうとしても全然取れないようなもどかしい感じがして」
「もどかしさがこれ以上なく伝わる表現だな……だが、とりあえず今はすべきことを優先するぞ。
君の引っかかりについてはその後改めて訊く」
「そうすべきですね。皆様、今回の目的をお忘れなきよう」
そうして私達は、この状況の見届け人であるレートヴァ教・聖導師長たるラルエルの指摘で今回の依頼の肝である、取り込まれていた神域結晶球の回収を思い出し、ドラゴンの身体を調べる事と相成った。
クラス一同で手を合わせてドラゴンの冥福を祈った後、私達はドラゴンの内部と一応周辺に神域結晶球が落ちていないかを調べて回った。
「一応言っておくが、神域結晶球真っ二つにしたとかないだろうな守尋」
「――え?」
「……君まさかそれも考えずにあの技使ったのか」
皆――結構というか相当に生臭かったりグロかったりする事に抵抗のない面々――での何とも言えない表情をしながらの捜索の中、
「いや、その……はっはっは」
「おい、笑って誤魔化す事じゃないぞ」
「確かあれは国宝級の代物だとかいう話だっただろ……ハァ、クラスメートが重罪人か。責任取って守尋が死刑だな」
「い、いやいやいや、か、堅砂……決めつけるのは良くないだろ。
死刑は流石に――流石に――ないですよね?」
不安に駆られた守尋くんは、状況を穏やかな笑顔で見守っているラルに思わず尋ねるも。
「破壊していたら確実に死刑ですね」
「いやぁぁ!? 死刑は嫌だぁぁぁっ!!」
これ以上ない綺麗な微笑みと共に容赦なく答えられ、恐怖にのた打ち回る。
少し前、見事にドラゴンを両断した勇ましい姿は、悲しい事にそこにはない。
そんな守尋くんの姿がただただ気の毒だったので私はラルに言った。
「ラル、その――あんまり過激な冗談は良くないんじゃ……」
「冗談じゃありませんよ? もし破壊していたら当然の流れです」
「ぐあぁぁ!!」
「――大丈夫よ、巧。死ぬときは一緒に死んであげるから」
さらっとちょっと重めの言葉を優しい表情で告げる、守尋くんの幼馴染の
死ぬ前にまず助けた方が良いと思うなぁ、うん。
「――さらば、守尋。せめてお経をあげてやるぞ」
「
「は、薄情が過ぎるぞ、お前ら!」
そんな中、皆のやりとりを眺めていたラルが楽しそうに小さな笑い声を零した。
「ふふ、大丈夫ですよ、巧様。あくまで破壊していたらの話なのですから」
「――神域結晶球はそう簡単に壊れない、って事なの?」
「流石紫苑、察しが早いっ!」
「ああ、うん、その、だ、抱き着いてくれていいから説明してあげて?
守尋くんすごく泣いてるから」
「そうでしたね。ゴホン。
神域結晶球はとても貴重かつ特殊な結晶に神域の力が練り込まれた、この世界でも数少ない神の領域にある物質……神器です。
ゆえに人の手で破壊する事はほぼ不可能。
そしてあの一撃では、決して! 絶対に! どうやっても! 破壊はできないと断言させていただきます。
ですから巧様、どうかお気を落とさず」
「……なんだろう、安心すべき所なんだろうけど、さらっとディスられた気がする――」
「いや、えとその、それだけ硬いってだけだよね、うん。
そういう意図はないよね、ラル?」
「――――」(二コリ)
「……なんで笑顔だけで答えるの?」
そんなやりとりをしつつ、皆で探す事約十分。
「おい、これじゃないかー?」
出席番号が私の次の男子、
内臓を掻き分けていたからか若干ゲッソリしていた彼はバレーボールよりも少し大きめの――とても澄んだ蒼色の結晶を抱えていた。
なんというか一目見ただけでとんでもない――何か凄まじい神々しさを感じる。
皆も同じだったようで『おおお!』と少し色めき出ちつつ私達はほぼ一斉にラルへと確認を願う視線を向けた。
その意図を汲んでくれたと思しき彼女は、ニッコリと微笑み、一度深く頷いてから告げた。
「はい、間違いありません。それこそが間違いなく神域結晶球です」
改めて『おおおーっ!』と皆の喜びの声が上がり、重なった――まさにその時だった。
『……!!
『予想通りって事だな』
私の【ステータス】の項目の、現在確認できる敵味方の一覧には新たな名前が七人――いや、八人表示されている。
「――ハッ。ようやく見つかったか。どいつもこいつも――」
「わたくし達のために、汗水流してくださって―――御礼は言わないけど、ご・く・ろ・う・さ・ま、です」
道の向こうの林の中からゆっくり現れたのは――他でもない。
私達の同胞であるはずの、今は袂を分かっている七人のクラスメート達と、この辺りの領地を管理する領主様の息子――コーソムさんだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます