㉞ 偉い方から直々の説明は緊張します
「えぇぇっ!? まさか本当にそうだとは――?!」
私・
赤竜王――この辺り一帯を守護する魔物を超越した存在、守護神獣の一体。
そんなとんでもない存在と自分の夢の中で対峙する事になろうとは。
「その、えと、この度はこのような所にお越しくださりありがとうございます……?
エグ――赤竜王様」
咄嗟にお名前が思い出せず、失礼になりそうだったので称号的な方で呼ばせていただきました。
すみません、名前覚えるの苦手なんです。
そんな私の内心を知ってか知らずか――多分お見通しな気がする――赤竜王様は重々しく威厳のある声で言った。
『エグザでいい。あるいは――いや、これは本来の形に戻った時にしよう。
さて、状況を説明してほしいとの事だったな』
「あ、はい。可能な限りで構いませんので」
『そうだな、現段階では全てを明らかにする事は出来ぬ。
我の状況もあるが、今回の事について縁がある者達もそれぞれ思う所があるだろう。
それを我が勝手に話すわけにもいくまい――基本人間は好きではないが、あの者達には通すべき筋があるゆえな』
「あの者達――?」
「主だった面々は全員汝が知っている者だ。
おそらくいずれはあれら自らが語るつもりなのだろう。
ゆえに、我は簡略化した上で可能な事だけ語る事としよう。
――そもそもの始まりは遥か昔だが、汝らに明確に関係する箇所まで絞れば、ほんの瞬きほどの……いや汝らにとっては違うか。
人の時間で言えば――十数年前。
汝らから二代、三代ほど遡った異世界人達の召喚が行われた頃になるか―――』
その頃、赤竜王――エグザ様は、守護の役割を粛々と果たし続けていた。
守護、すなわち魔族による一方的な侵略やそれに伴う魔物達の過剰な繁殖や他種族への殺戮を、時にその存在のみで、時に力を振るって食い止めていたという。
この時は魔族による影響が大であったがゆえに、魔に従うものを排する流れになっていたが、もしも人間が同様の行動を魔族に対して行っていれば、その時は人間を排するのだという。
「つまり、エグザ様は種族同士の調和を保っておられたんですね?」
『そういう事だ。
もし互いが過剰に争っていなければ、極稀に現れる突出した……異質な存在を叩くだけでいいのだが――生憎、ここ数百年はそうもいかなかった。
種族同士の争いが力を振るう者を入れ替えながら繰り返されており、我はその愚かな繰り返しを停止させ、可能な限り均衡を保つべく動いていた。
だが、長い時間の果てに我も身体を大きく消耗してしまった。
使える力は本来の十分の一以下となる体たらく……これではとても守護などできぬ。
そこで我は一度転生し、新たな肉体へと移る事を決意した。
そうなれば暫く我は再生に時間を割かねばならず、何も出来なくなる――ゆえにレートヴァ教の当時の聖導師長に神託を送り、我の復活まで暫し人間のみで魔族に抗い、可能なら和解するように、と伝えたのだが――そこで我は人間に裏切られたのだ』
「え――?! それは、一体……?!!」
『我が転生する事は信頼出来る限られた人間のみにしか伝えていなかった。
にもかかわらず、そうして転生した時を狙われたのだ……異世界人と所属不明の人間達、そして魔族達にな』
また異世界人がやらかしてる――!?
私達よりも前に来た異世界人達の素行が悪かったらしい事は聴いていたが、ここでもおかしな行動を取っていたと知って、私は頭を抱えたくなった。
直接的には私達とは関係ないのかもしれないが、だからといって素知らぬ顔が出来るはずもない。
正直、ここで謝罪したい気持ちであったが、今は話の腰を折りそうなのであえて黙っていた。
『我の新たな転生先は、我の遠い子孫たる若き赤竜であった。
そうだな、汝には転生というよりも憑依、あるいは融合といった方が分かり易いやもしれぬ』
「えと、つまり、元々いたドラゴンさんの中にエグザ様が入り込むのが、赤竜王としての転生という事なんですか?」
『本来は違う。
新たなる肉体を構築した上で熟成させ、そこに我の魂が入り込むのが正しい手順だ。
だがその手順での転生にはそれなりの――百年ほどの時間が掛かる。
当時は悠長に百年単位掛かる完全な転生をするわけにはいかず、緊急手段としてそういう形を取ったのだ。
我が子孫にも了解を得た上でな』
エグザ様曰く、この世界の『ドラゴン』は様々な種類が存在しているが、それらの殆どが魔物としてのドラゴンなのだという。
自身の子孫たる
だが、それは裏を返せば――宿っている魂が神に類するものであれば魔物ではないという事になる。
『子孫の魂に我が魂魄を融合、肉体の神的素養を活性化し、我の魂から情報を再現すれば――数年足らずで我らは赤竜王としてのほぼ完全なる転生を果たせるはずだったのだ。
だが、転生した直後の我々は殆どただの赤竜でしかなく、高位の術式であれば通じてしまう状態であった。
それを知っていて奴らは転生直後の我々を支配する為の術式を仕掛けてきたのだ』
「なんて事を――」
神獣、神に限りなく近い存在だという赤竜王様に対しての蛮行――聴いているだけで恐ろしく、失礼極まりない行動にこちらまで恥ずかしくなってくる。
目の前にいる存在の神々しさが伝わってくるからこそ尚の事だ。
そもそも神かどうか以前に、意志ある存在を自分達の思うままに操り、支配しようなんて考えを抱くなんて、と私は強い憤りを感じた。
――私達のクラスメートにそういう『贈り物』を持っている人がいるので、なんともいたたまれない気持ちになるのだが。
ただ、彼らが躍起になるのも理屈としてだけなら理解できる。
神に近しい存在を操れるようになるかもしれないのだ。
恐ろしい考えで、同意は全然できないけれど――届かないと思っていたものに手が届く時、人は伸ばさずにはいられないのかもしれない。
「あの、そこに待ち受けていた人達は協力関係にあったんですか?」
『示し合わせていたのは間違いない。
だが、協力し合っていたかというと、違っていたのだろう。
各陣営それぞれに我を支配し操る為の術式を持ち寄っていたが、毛色は各陣営で全く異なっていた。
おそらく我を動けなくするまでは協力し、その後は早い者勝ち、という下らぬ競争を行っていたのだろう……愚か者どもめ』
当時の事を思い返してか、怒りの感情を僅かに発するエグザ様。
それだけでその近くに立つ私は魂ごと震える有様であった。
正直めちゃ怖いです。
そうして恐れ戦く私に気付いてか、エグザ様は長い首を引くような動き――頭を下げているように見えなくもない――の後、口調を和らげてくれた。
『すまぬな。我の魂も随分劣化してしまったようだ。
この程度の事で感情を露にするなど――守護神獣として恥ずべき事だ。
ともあれ、連中は我々を支配しようとし、我々はそれに全力で抗った。
異なる効果の術式の同時発動や我々が完全に融合できていなかった事、様々な要因が重なった結果――我々は汚染されてしまったのだ……』
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