㉘ 頼ってもいいけれど、頼り過ぎはきっと良くないと思う訳で
「――よかった」
私・
私が一度死んでから約半日が経っていた。
死んで、身体が神殿で再構成されて蘇生するまでに大体30分程だったとの事だ。
蘇生までの時間には個人差があり、なんでも死への耐性や精神力が高いものほど蘇生までの時間を短縮できるらしい。
レートヴァ教聖導師長ラルエルこと、ラル――以前私達より少し年上だと本人は語っていたがファージ様との話しぶりから察するに、私の想像より少し……いややめておこう――がそう語っていた。
ちなみに、私の蘇生は相当に早かったらしく、多くの蘇生を見てきたラルが知る中でも5本の指に入るらしい。
『紫苑は、やっぱり強い子ね。あぁぁ、そういうところも素敵っ!』
前半は穏やかに、後半は興奮気味に語って抱き着いてきたラルを思い出す。
死んだ事で心配をかけてしまっていて、改めて話した際は涙を浮かべてくれた事も。
――私なんかにはもったいないなぁと思いながらも、すごく嬉しかった。
しかし私が(精神的に)強いかどうかは正直怪しいというか。
多分、何かそういう抵抗値が高かったとか、陰キャゆえのネガティブ思考が少なからずいい方向に作用したとかそういう偶然だろう。
とは言え、蘇生が早かったのはありがたかった。
ここで時間はあまり無駄に出来ない――なんせやるべき事は山のようにあるのだから。
そうして、神殿での様々な出来事を終えて、外で待っていた
特に守尋くんは尋常じゃない位慌てた様子で、こちらが申し訳なかった。
人が良い彼らの中で特に人が良い彼なので多分
なので心配してくれた事への謝罪と感謝を伝えつつ、自分が望んだ事だから、と気に病まないでほしい旨もどうにか説明した。
――彼の幼馴染の
ともあれ、そうして皆揃った私達は使わせてもらっている寮へと帰った訳なのだが――そこで私は、レーラちゃんが体調を崩していた事を聴いた。
実の所、朝頃から調子が悪かったとの事だったが、今日は大事な日だからとレーラちゃんが伝えないでほしいと懇願していたらしい。
それを面倒を見てくれていた
「そういう君だからこそ黙っていたんだろう。
一応言っておくが、必要以上に謝ったりしないようにな」
「うん、その方がいいよ。
レーラちゃん、貴方の事大好きだから、悲しい顔は逆に悲しませると思うよ」
私の表情から思い詰めていると感じたのか、
つくづく私は周囲に、素敵な縁に恵まれていると感じた。
そのあたたかさを感じながら、
自分もそれを周囲に広げられる一助になれるようにがんばらねばとレーラちゃんの頭を撫でた。
熱はもうないようだし、苦しげな様子もない――ひとまず安心だ。
ずっと看てくれていた酒高さんにただただ感謝である。
出来ればこのまま目が覚めるまで一緒にいたいのだが、皆との話し合いがある。
なので、街を一緒に歩いていた時に購入したぬいぐるみを傍に置いた。
その下に、この世界の文字で『今話し合いをしてるから寂しくなったら来てね』と書いたメモも置いておく。
――レーラちゃんは記憶を喪失こそしているが、読み書きはしっかりできるようで、その辺りの情報も含めてレートヴァ教の方々に家族の捜索を頼んでいるが難航しているようだった。
正直厳しい事は分かっているが、可能なら――どうかどうか見つかってほしいと強く思う。
いなくなるのはきっと寂しいけれど、そんなことよりなにより彼女が家族と幸せに暮らせることが一番なのだから。
そうしてレーラちゃんの無事をギリギリまで確認し、しっかり布団を掛けた上で、私は私達全員が集まる事が出来て、話し合いも出来るスペース――寮内の施設の一つ、食堂へと足を向けた。
「結局依頼は達成できなかったけど――ちょっと状況は好転した、って事でいいのかな」
現在の状況について皆で報告し合った末、守尋くんが呟く。
それに対し、
「何故そうなる」
「あー、その」
「あ、えと、私の事は気にしないで話してくれていいから」
守尋くんがチラリと私の方を見て言葉に詰まる様子から、少し前の事件についてなのだろうと判断。
気持ち悪くならないように気を付けながら笑みを浮かべておく。
それを見て守尋くんは何故か少し顔を赤くしつつ、手を合わせてから会話を再開した。
「その―――八重垣さんの一件で領主の息子はこっちに手出しできなくなったんだろ?
だったら次は楽に依頼達成できるだろ」
「確かに息子はそうだろうな。だが寺虎達はそうじゃない」
「は? アイツらはあのクソ息子からの依頼で――って、そうじゃなくても邪魔するって言ってたわね」
そうそう、
多分寺虎くんも同調するだろうし、寺虎くんがそうであれば彼と仲の良い二人も多分賛成する。
であるならば多数決ではこちらへの妨害を希望する側に傾くわけで。
「そういう事だ。
であるなら状況は正直楽観視できない――というか十中八九あいつらは依頼とは関係なく妨害してくるだろう。
だが、次は勝つ」
「おお? 堅砂がそう言うって事は、勝つ算段が立ったって事だよな」
「少なくとも今回前面に出てきた奴らならどうにかできる……そうだな?」
「え、うん、多分――私ができるわけじゃない対策で申し訳ないけど、いくつか浮かんだし――どうにかできると思う。
寺虎くん達は『贈り物』に頼り過ぎてると思うから」
「それを言えば俺達もだなぁ」
「あ、いや、その、そういうわけではなくてでございまして――!?」
守尋くんの言葉に、誤解があったのではと少し慌て気味に声を上げる。
その様子が面白かったのか、皆がクスリと笑みを零す―――皆様の潤滑油になれたなら幸いです……ちょっと恥ずかしいけど。
「ごめんごめん、冗談だよ。
知ってのとおり、俺達はそれだけで戦ってるわけじゃないからな。
八重垣さん達の戦い方見てたし。
戦闘向きじゃない『贈り物』であれだけ戦えるの見たら、頼り過ぎは良くないかもって思えるよ」
「俺達の師匠は鬼のように、というか鬼だ。厳しいどころの騒ぎじゃないんでな。
得意な事だけに頼るような戦いは許さないんだよ」
私達を鍛えてくれているスカード師匠の鍛錬方針は、どんな時、どんな状況でも戦えるスタイルで確実に生還する、というのが主体だ。
だから私はあらゆる体術や武器の習熟を推し進める精進をさせてもらっているし、
最終的には得意分野を封じられても、その際の8割程度は強さを発揮できるように、というのが目標である。
それでいて得意分野もしっかりのばすように、という鍛錬もするので、言うなれば鍛錬のいたちごっこで私達は全体的に強くなっている――と思う。
「実際、そういうのがいいんだろうなぁ。
全部どうにかできる万能の力なんてそうそうないし」
「『贈り物』で全体的に強化されるお前がそれを言うとな――」
守尋くんの【心燃】は云わば全体超強化なので、鍛え方・状況次第では万能の力になるかもしれないからなぁ。
「いやいや、それにしたって全部鍛えなきゃだろうしな。
今度俺もその人紹介してくれないか?」
「そうね、私もすごく鍛えてほしい」
守尋くんと伊馬さんの言葉を皮切りに、皆が俺も私もと手を上げるが――。
「う、うーん、紹介したいようなすべきじゃないような。
師匠の鍛錬は正直相当に厳しいよ……?」
「一応話すだけ話していいんじゃないか? 全体的な強化は悪い事じゃないしな――ふふふ」
うわぁ……
私でもなんとかついていけるから大丈夫……とは言い難いなぁ――どうにかこうにか意地でついていってるだけだし。
でも言葉の内容そのものは間違ってはないから否定も出来ないので、私は何とも言えない表情を浮かべるしかなかった。
その、なんというかごめんなさい。
「ああ、そうだ。その八重垣さん、一つ訊きたい事があったんだ」
「何かな、守尋くん」
「えっと、ちょっと訊き難い事なんだけど――死ぬって、相当辛かった?」
その言葉に、皆の視線が私に集まる。
ああ、そっか、死んだのは私がクラス初だからね。
そりゃあ気になると思う。
なので私は深く考え込んだ上で、私なりの感想を真剣に呟いた。
「私も相当辛いと思ってたんだけど――――その5億倍位辛かったよ、うん」
「そ、そう」
「5億倍はすごいな――」
でも、皆の表情は何とも微妙というか、今一つ伝わらなかったようだ。あれぇ?
「――五億倍は若干頭が悪そうな言語と数字のチョイスだと思うぞ」
「いや、あの、そんな真剣な顔でフォローされると割と凹むんですが、
でも、その、私の表現はともかく、本当にキツかったから、皆なるべく死なないように気をつけてね、うん」
「そりゃそうだな。大いに気をつけるよ。
ところで死後の世界ってどういう感じだったんだ?」
「俺も気になるな――傾向と対策を練りたい所だ」
「それは確かに。知らないと知っているじゃ雲泥の差だからね――八重垣さん教えてくれ」
そうして守尋くん、
陰キャたる私はそんな状況に馴染めるはずもなく、私は言葉を返すのにただただいっぱいいっぱい&一生懸命だった。
――それゆえに、私は気付かなかったのである。
私を冷ややかに眺めていた、いくつかの視線に。
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