⑮ 地道にやっていてもままならない事はあるわけで


「――残念だが。

 何処であろうとも、今の君達に我が領内の土地を欠片ほども委ねる事は出来ない」


 他ならぬ、この辺り一帯を治める領主……コーソムさんのお父様である、ファージ・ローシュ・レイラルド様が、そう断言した。

 

 私達……私・八重垣やえがき紫苑しおん、クラスメートである堅砂かたすなはじめくん、守尋もりひろたくみくん、河久かわひさうしおくん、そしてレートヴァ教・聖導師長たるラルエルことラルがいるのは、現在私達が住んでいる街の中心――レイラルド領を統括するレイラルド城の中にある執務室。

 何故私達がそんな場所にいるのかと言うと、ファージ様に呼び出しを受けたからであった。




 事の起こりそのものは、彼の息子さんの事件なのだが、ここに呼び出される直接の理由はどこか、というと――私達異世界人が、街の外についての手続きを取り始めた所から、なのだろう。




 私達から離れ、ファージ様の息子・コーソムさんと行動を共にしていた寺虎狩晴てらこかりはるくんとの再会、コーソムさんからの提案を蹴った出来事から数日間、私達は希望が見えた自活への準備や資金繰りに各自で動いていた。


 守尋くん達冒険組と、拠点組の中で数少ない戦闘人員である私と堅砂くんは、街の外の魔物退治を冒険者協会で依頼として受け、魔物退治で歩き回りながら、使えそうな土地を捜索していた。


 街から遠過ぎず、水場が近くにあって、見晴らしが良い――魔物の襲撃などがあっても発見しやすい――可能な限りの平地。

 条件に完全合致するものは少なかったが、幾つかの候補地を私達は発見、ひとまず申請するに至っていた。

 ――中には、より良さそうな場所があったが、領主様の命令で封鎖されていて調べられない所もあったり。


 その際、私達は守尋くん達と行動を共にしたり、拠点組の中で戦闘を経験しておきたいという人達を伴ったり、十二分に警戒した上で様々な事も試していた。


 守尋くんの『贈り物』たる【心燃しんねん】の強力さ、伊馬いまさんの回復力の凄まじさをはじめ、冒険を希望した人達の能力を目の当たりにして、私は大いに目を見張った。

 

 単純な攻撃能力で言えば、出て行ってしまった寺虎くん達が勝る部分は確かに多い。

 だけど、総合的に――力を合わせて正しく連携できたなら決して劣りはしない、というか隙はないというか。

 なんというか、守尋くん達冒険組は、RPGロールプレイングゲームの主人公のパーティーみたいだな、と私は感じた。


 一方私はというと、大体の人から私だけ違うジャンルの戦い方みたいと言われました。

 堅砂くんに意見を求めると『汎用性の高さが君の売りだ。深く考え過ぎなくていい』との事です……うん、そう思おう。正直ちょっと切ないけど。


 それはさておき。


 そういう時間の中で、私達は改めて親交を深め、互いを知る事が出来た。


 例えば河久かわひさくんはすごく物事を教える事が上手だった。


 魔術についての理解が一番深いのは堅砂くんに他ならない。

 私達は一連の出来事で圧力をかけられた結果、魔術師協会が運営する図書館の利用が出来なくなっていた。

 堅砂くんはそんな中でも独自に魔術を作り出し、私達に必要な知識や術式を提供してくれた――のだが。


 頭が良過ぎるためか、彼は自分堅砂くん基準だと簡単な事を、それを苦手とする人に向けて教える事が苦手だったようだ。

 あと、少し口が悪い所があるのでムッとされる事も多く、真意が今一つ伝わらなかったり。


『――君や河久かわひさみたいに大人しく聴いてくれれば分かるのにな』


 と堅砂くんは思考通話テレパシートークで溜息を吐いていた。

 私はただ根暗なだけから参考にしちゃいけないと思います。


 一方の河久かわひさくんは、そんな堅砂くんから粘り強く学んだ事を、私達向けにすごく分かり易く解説してくれた。

 難しい所をしっかりと基本から丁寧に導いていく姿は、ただただ頼もしかった。

 元々の世界では個性的な皆に振り回されていて今もそれは変わらないけれど、決してそれだけでない強さが、ここに来てより明確に見えるようになったというか。


 ただ、その反面と言うべきか責任感がすごく強いから、何か起こった後で自分の教え方が悪かったんじゃないか気に病んだりしないか心配だったり。

 そうならないよう、出来る限りフォローしてあげたい所だなぁ……私には難度が高いんだけど。


 閑話休題それはさておき


 そうして私達が魔物退治に挑んでいる中、戦闘に向かない人達もたくさんにがんばってくれていた。

 

 経理担当の網家あみいえ真満ますみさんは、神官さんの付き添いによる案内の中、街の事を大いに学んでいた。

 彼女の『贈り物』である、数字に滅法強くなる【数の暴力】をフル活用しながら街中の店――武器や装備を取り扱う所や雑貨等々幅広く――を行脚した網家さんは、異世界人だからと侮ったり不平等な取引をしようとする店を除外、信用できるお店をピックアップしてくれたのだ。

 

 そうしてピックアップしたお店との交渉でも皆が『贈り物』を使いこなしつつ、真剣に話し合ったお陰で、今後の協力を幾つも取り付ける事が出来た。


 私達は自分達なりに出来る事を組み合わせて状況打開に少しずつ進んでいる――かのように見えていたが、実際には順調とは言えない状況も多々あった。


 土地を確保しても家がなければ、という事で皆が住める屋敷の建築を受けてくれる人を探したが、そちらは領主様からの圧力の影響が思いの他大きく難航していた。


 皆が住む土地を魔物から恒常的に守る魔法や魔術についても、図書館が使えないために、新たな知識を入手できず、習得が厳しかった。

 堅砂くん曰く、魔術についてはまだ学びが不完全で、1から2や3の技術に派生は出来ても、0から1を生み出す事は難しい、との事らしい。


 一応それに代わり得る『贈り物』を所持する人はいるのだけど、それを使いこなす為には越えるべきハードルが幾つもある。

 無理強いは出来ないと現在は保留になっているのだが、そうである以上なにかしらの手段を他に探さなければならないだろう。


 レーラちゃんのこれからについても、レートヴァ教の人達が当たってくださっているが、ご両親や身内・同郷の人の捜索は、レーラちゃん自身の記憶があやふやで探す手がかりが少なく、今後を預けるにせよレートヴァ教の人達が信じられるほどにしっかりしている施設は既に満員の場合が多く、と中々厳しい状況だという。

 

 そうしてクリアできない幾つかの問題に悩む中、私達に突き付けられたのが、土地の利用申請が却下された、という知らせだった――。

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