第2話 ドラゴン退治も、地道な努力とチームワークで
① 最初に挑むはゴブリン退治
目の前に迫るのは、自分よりも一回りも二回りも小さな緑色の人型の魔物、ゴブリンだ。
遠目から何度も見ていたが、こうして改めて対峙するとまた実感が違う。
だけど――。
(それでも――!)
戦う少し前、ゴブリン達ははしゃいでいた。
どこからか奪ってきたと思しき、彼らのものではない人の衣服や武器、宝石などを玩具にして。
そして、その中には明らかな肉片が混じっていて。
(怖がっていられない――!!)
冒険者となるという事は、魔物と戦う機会も数多く訪れる。
魔物と戦う事について想定は十分にしていたが、それでも実際の所全く悩まない、なんて事はなく。
もしかしたら戦うべきでない、友好的な存在もいるかもしれない、という考えもそれなりにあった。
勿論、その上で戦う覚悟をしていたが、消化しきれてない部分もあった。
元の世界では、人の社会を脅かす虫や獣は害獣・害虫として処理されていた。
そんなニュースを見る度に、そうしなければ人が傷つき、死ぬ状況と、それでも駆除する事への是非を考えていたからだ。
だけど、そんな事を現在私達を鍛えてくれているベテラン冒険者・スカード師匠に話すと。
『もしも友好的な魔物が多いんなら、冒険者の仕事に魔物退治が半分以上を占めやしないさ。
それに心配するな――そんな認識は現場を見れば変わる』
実際、師匠の言葉どおりだった。
街の近く――街道から少し離れた辺りでは、魔物が食い散らかしたと思しき人の――一部分を何度も見かける事になり、今もまた、林の奥の広まった所で『戦利品』を持ち寄って遊ぶゴブリンたちがいた。
それらを積み重ねる事で、私の中の躊躇いめいたものは限りなく薄まった。
そしてそれは、この先、友好的な魔物が現れた時にこそ考えるべき事で、今は魔物はただ倒すべき存在として意識する他ないと腹を括った。
それはきっと人間の都合で、傲慢なんだろうなとは思う。
だけど、それも含めて大自然や星全体で見れば傲慢なんだろうな。
だからせめて、私は、
――生き返れるからとかそういう事以前に、本当に殺される事を意識した上で。
「―――ふ、ぅっ!」
その決意の下に、私はゴブリンの大振りな攻撃を、しっかり見て躱した上で、小ぶりな槍を突き立てた。
手には間違いなく肉を刺し貫く感触がある。
そう、命を奪う感覚だ――私は今、確かに相手を殺した。
元の世界で虫を殺したぐらい感覚でいればいい、共に戦っている
実際、それが精神的には一番正しいのだと思う。
だけど、分かっているけれど、私は可能な限り、この感触を、意識を忘れないでいたいと思う。
そう思いながら、致命傷なのにさらに襲い掛かろうとするゴブリンへと更に槍を押し込んで――勢いよく引き抜いた。
――謝りそうになって、それを堪える。
異世界に来た事で若干上がっている身体能力――視力で、倒れていくゴブリンが確実に力を失った事を確認しながら、私は次のゴブリンへと挑む。
仲間を殺された怒りからか、あるいは自分へ向けられた武器への昂りゆえか、ゴブリンが咆哮する。
その迫真の叫びに、少し身が竦む。
だけど――師匠との鍛錬の経験が、私に冷静さを思い出させる。
それに――私は、ほんの少し
実は、師匠との鍛錬、そしてその後の回復の中で、気付かない内に大量のマナを取り込んでいた私はレベル2になっていたのだ。
そうなって、不安を感じていた
だから私はその自信を勇気に変えて、一歩分だけ、ゴブリンが跳躍してきた分を埋める程度に距離を詰めて、顔面へと槍を突き入れる。
当然吹き上がる血飛沫に、ぐ、と吐き気めいた感覚が浮上するも、堪えて、そのままゴブリンを地面に叩きつけた。
僅かに身体を動かす様子があったので、師匠の教えどおり、確実に止めを刺すべく心臓を突く。
が、一撃は微妙にずれてしまい、ほんの少し焦りながらもう一度突き直して、絶命を確認した。
(あと一人――!)
最初の一人は堅砂くんが魔術の奇襲で倒していたので、残りはもう一人だと、確認していた方向へと足を向けて踏み出していく。
――が、そうしようとした先のゴブリンの全身が一瞬で凍り付き、粉々に砕けた。
「これで、最後だ」
飄々とそう告げたのは、ゴブリンへと氷の魔術を放った堅砂くん。
構えていた魔力を増強させる杖を、コン、と地面に軽く突き立てて、周囲を確認する。
それを見て、私はステータスを慌てて表示・確認――うん、もう敵はいない。
表示されているのは、私と堅砂くんと、少し離れた所にいる師匠だけなのだ。
ステータスの範囲外の敵もいるのかもしれないが、ステータスの感知範囲は結構広く、それでも拾い切れない程の距離からの攻撃は基本的にはないだろう。
――漫画やアニメだとそれさえも越えた超長射程の敵もいたりで、そういう警戒も怠るべきではないのだろうが、多分、今は大丈夫だろう。
「――怪我はないか?」
「うん、ないよ。堅砂くんは?」
「前衛の君が無事だったんだから、当然俺もだ。
ちょっと考えればわかるだろうに」
一言多い気もするが、まぁ堅砂くんらしい。
むしろ安堵する要素で、私は苦笑を零した。
――あれだけ動き、動揺しながらも息らしい息を乱していなかった事に気付いて、少し驚きながら。
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