⑥私達が異世界に呼ばれた理由



「なるほど――貴方は神からの贈り物を、ステータス――自他の能力の可視化にしたんですね」


 簡単な自己紹介をした私・八重垣紫苑やえがきしおんに、私達の面倒を見てくださっているレートヴァ教の聖導師長・ラルエル様は、可能なら私が謎の声から力について教えてほしいと告げてきた。


 私的には教えた所でデメリットは存在しないし、ラルエル様達には恩がある。

 それにこちらの世界の人間的に危険なもの、能力を把握しておきたい気持ちも当然だろう。

 なので、私は殆ど躊躇いなく能力について彼女に説明していた。


 ――それと、やはりあの声の主は神様、という事でいいらしい。

 レートヴァ教が神様の名前から名付けられているのなら、あの声はレートヴァ様、という認識で良いのだろうか。

 ファンタジックな世界は複数の神様が信仰されていて、それにより加護や能力が違うという事もあるので、全く違う可能性もあるのでなんとも言えないが。


「以前召喚された人達の一部には、ステータスは見えないのか、みたいな事を尋ねてきた方が結構多かったのですが、それそのものを贈り物に選ぶ人はいませんでした」

「折角の贈り物ですからね。

 やっぱりすごい能力とか武器とかが欲しい人が多いんだと思います。

 ――ぁ、あの、こちらからも質問よろしいでしょうか」

「遠慮なくどうぞ」


 ちょっと躊躇っていたが、少しでも情報が欲しいので、陰キャ特有の消極方向思考をグッと堪えて尋ねると、ラルエル様は特に迷う様子もなく了解してくださったのでホッとする。

 

「えーと、私達以前の、私達の世界から召喚された人達はいたんですよね?

 その人達はどうなったんでしょうか」

「――遠慮なくと言った矢先に申し訳ありません。

 それについては私達は教義的に応える事を禁じられております」

「え? 教義的に……?」

「はい。

 貴方方異世界の住人を呼び寄せるのは神であり、私達は神託を受けてその受け入れを行っているに過ぎません。

 そして神のご意思で呼び寄せた人々の行方、最終的な行先を、私達は語る事を許されていないのです」

「そう、なんですか」


 正直下方向に予想外で少しガッカリしてしまう。

 自分達と同じ状況を経験した人がもし近くにいるのであれば、色々話が、今後どうするべきかの意見が聴けたのだが……。

 だが、ラルエル様の申し訳なさそうな顔を見ていると、それこそそう考える事が申し訳なく思えてくる。


「お力になれず申し訳ありません」

「いえいえ! お気になさらず。もし分かったら嬉しいと思っただけなので」

「――ところで、紫苑様。

 貴方様のお力で、私の能力値を見る事は可能ですか?」

「え? ちょっと待ってください――っと」


 昨日試したとおりに意識すると、問題なくステータス画面が開く。

 使えなくなってないかとネガティブ思考が浮かんでいたが、無事に使えるようで安堵した。


「はい、見る事、出来ると思います」


 名前の選択欄にラルエル様の名前が入っているのでそれは可能だろう。


 ――ちなみに、他に数人の知らない名前も記載されている。

 おそらく万が一に備えて近くに控えているレートヴァ教の人達だと思われる。

 そりゃあ、素性のしれない存在が偉い人と一緒なら警戒するのは当たり前だろう。


「拝見してもよろしいですか?」


 なのでその事にはあえて触れずに、ラルエル様に問い掛ける。

 ラルエル様が小さく首を縦に振るのを確認して、私はラルエル様のステータス欄を広げた。


「その中の、魔力総量を教えていただけますか? 可能なら紫苑様の数値も」  

「――――わかりました」


 魔力総量がどの数値の事なのか一瞬考えると、即座にステータス欄でMPの項目が点滅した。

 本当に便利だなぁと感心する。


「その、ラルエル様のMP、魔力総量は――867です。

 私は814となっています」

「そうですか――やはり異世界の方々は桁外れなのですね」


 そう呟くラルエル様のレベルは――67。

 MP以外の数値に関しては、私は正直足元ぐらいしか及んでいない。

 だが、MPだけはだった。


「一応参考までにお話しますが、こと魔力量に関して言えば、私は世界でも十指に数えられております」

「……何というか、その、申し訳ありません」

「紫苑様が謝る事ではありません。

 逆に改めて納得できました――やはり世界を救える、最低でも維持する為にも貴方方異世界の人々の力は必要不可欠なのですね」


 昨日ラルエル様が語った、私達がこの世界に呼ばれた理由が頭を過ぎる。


 この世界は、様々な理由の絡み合いで全体的にマナが失われつつあるのだという。

 マナは世界を循環する生命エネルギーなのだから、それが失われていくという事は、世界は滅びに向かっているという事に他ならない。


 神と呼ばれる存在が私達を召喚したのは、私達の尋常ではない魔力――マナに変換されやすいエネルギーで、世界に息吹を吹き込む為。

 私達の身体は極めて魔力の変換効率が高く、世界から摂取される量が少なくても莫大な魔力を生成できるらしい。

 勿論、召喚された数十人程度では世界全体を、世界そのものを変える事はままならない……が、その大きく異質な力で風を起こす事は出来る。

 

 風は種を運び、風車を回し、鳥を飛ばし、船を運び――多くのものを動かしていく。


 その為の神の息吹スターターが、私達なのだ。


 ゆえに、私達はその力を大きく振るう事をある程度までは推奨・保証されているのだとラルエル様は語っていた。

 そうでなくても、この世界で生きるだけでも一地域のマナの循環をプラスにできるとの事だった。  

 

 そうして影響を与え、少しずつ世界にマナの恵みを再生させる――その為に私達は呼ばれたのだ。


「やはり、貴方達は選ばれた英雄に相違ないのでしょう」


 だから、ラルエル様がそう呟くのは、頭では理解できた。

 だけど。


「――それは、きっと違うと思います」


 そうではない、と私は強く思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る