④陰キャも時には意見を言わねばな時もあるのです
「あの、いいかな」
そこで、私・
すると
「――ああ、八重垣、だったな。なんだ?」
うう、やっぱり薄ぼんやりとしか覚えられてない――まぁ私は目立つタイプじゃない、というか陰か陽かで言えば間違いなく陰側だから仕方ないけど。
それでも半年以上一緒にクラスにいるんだけどなぁとしょんぼりしつつ、私は提案した。
「私は、ここで待機する人たちのグループを作りたいんだけど、いいかな?」
「待機? どういう事だ?」
「堅砂くんも言ってたけど、ここは異世界で、将来的にはともかく、少なくとも今現在の私達の身寄りは私達だけでしょう?
なのに、助け合えない状況になったら困るんじゃないかな。
例えば皆が冒険に行ったと仮定して、いざという時その人達がの助けを必要とした時、連絡先はどうするの?
皆が皆冒険してたり居所も分からない状況だと連絡を取るのも一苦労じゃないかなぁ」
「あ、そりゃあそうだな……」
私の意見に
説明下手じゃないかなと思っていたので、意味が伝わってとりあえず安堵しつつ、私は言葉を重ねた。
「冒険者協会って相互互助組織があるってラルエル様言ってたけど、そこだけを当てにするのも難しい時があるかもだし。
あと、帰る手段を探すにしても冒険して探す人、本とか書類で探す人で分けた方がいい気もするから、文献で探す人の拠点も必要になると思うし。
だから、ある程度の人数は、待機――ううん、皆が帰る場所を作って守る役割の人がいるんじゃないかって、思ったんだけど、どうかな」
「おいおい、冒険して命懸ける奴もいるのにビビって引き篭もってて……」
「――勿論、そうして守る側の人も色々役割や仕事、しなくちゃいけない事があると思う」
横から混ぜっ返そうとする寺虎くんの意見は申し訳ないけど遮らせてもらう。
ファンタジーな世界での召喚、というと戦わなくちゃいけないイメージがあるが――全員がそうできるはずもない。
実際、クラスの中には運動が得意ではない人だっているのだ。気質的に向かない人もいるだろう。
そんな中で、戦わないのが臆病、そういう印象が生まれてズルズル引きずるようになったらクラスメート同士の軋轢の理由になる。
趣味で幾つか読んだ事がある、クラスごとトラブルに巻き込まれるタイプの物語では、そこから全体が瓦解する事も少なくないのだ。
そうなったらもう悲惨の一言だろう。正直想像するだけで怖い。めちゃくちゃに怖い。
逆にちゃんとクラスが一丸になっている場合は、クラス全体の生存率がグッと上がるだろう。
物語だとしても、現実だとしても。
――あんまり自己主張するのは好きじゃないけど、今回は言っておかないとマズい気がするので、若干緊張しつつ、私は意見を述べた。
「帰る場所として家とかを買うなり借りるにしてもお金が必要になるから働かないとだし。
そういう場所を維持する為の行動を引き篭もってる、なんていうのは間違いじゃないかな。
――まぁあくまで今の所は全部仮定の話だけどね。冒険の話もそうだけど」
「うん、すごく納得だな。寺虎もそう思うだろ?」
「――むぅ」
どうにか納得してもらえたようでホッとする。
そこでチラリと、堅砂くんに視線を送ると彼も納得してくれたようで頷いた。
「確かに、拠点は必要だな。
最終的に皆がどうするかどうなるかまでは現時点では分からないが、それまで互いに助け合う事も、その為の場所も必要だ。
じゃあ、ひとまずは冒険組と拠点組に別れて、それぞれどうするか話し合って決めていくという事にするか。
元の世界への帰還について調べるのも、さっき八重垣が言ったように、冒険の中で探す係と、文献を調べる係で分けた上で、定期的に情報を持ち寄るという形で考えておこう。
――現状全てが絵に描いた餅だが、とりあえずそういう方向で考えていくという事で異論はないか?」
「いいと思う」
「いいんじゃねーの? 俺は冒険できればいいし」
堅砂くんの確認的な問いかけに、守尋くん、寺虎くんをはじめ、クラスの皆はそれぞれに了解の返答を返した。
問題はここから最終的にはどうなるかだが、ここからは手探りで進んでいくしかないだろう。
ここは、私達にとって何処までも果てしなく未知の世界なのだろうから。
――だからホント、みんな仲良くしてほしいなぁ、うん。喧嘩してる場合じゃないよね、実際。
「その上で最終的には、ここで面倒を見てもらえる猶予期間の終わりまでに各自が身の振り方を考えていく事になる。
そうなった時、本当に何もできない、何もする気がない奴は見捨てられても仕方がないからな。
――ちゃんと考えておいた方がいいぞ」
最後の最後できっちりと釘を刺す堅砂くん――いや、うん、ごもっともなんですが、何もせっかく話がまとまった今言わなくてもいいのに。
ほら、さっき悩んでた人達が更に悩んでる―――元の世界どおりに和気藹々とはもういかないのかなぁ……。
そう思ってなんとなく堅砂くんに視線を送ると、彼はプイと視線を逸らした……ううぅ、前途は多難だ。
そうして意見がまとまるかを待っていたかのタイミングで、聖導師長ラルエル様の使いの人が、移動用の馬車の到着を知らせてくれた。
私達が当座暮らす事になる街へ進む馬車、その荷台で揺られながら、私はこれからどうなっていくのかの不安と、ほんの少し何処か落ち着かないながらも何かを期待するような、そんな心地でいた。
そんな思いがこれからずっと続いていく……否、その上で、想像を越えた様々な困難に立ち向かっていく事になっていく事を知らずに。
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