② ステータスには夢いっぱい?


「むむむ――おおー!!」


 そうしてうんうん唸っていると、パアッっとステータス画面が


 感覚としては自分の脳内で見えていて、同時に実際の視界にも浮かび上がっているように見える。

 だが、手を伸ばしてみるもあっさりと素通りした。

 立体映像なのかとも思うが、自分の近くにいる人が何の反応も示していない事から察するに、おそらく現実には画面は浮かび上がっていない。


 あくまで私だけが見えている、という事に間違いはないようだ。


「それで、ええっと……」


 今浮かび上がっているのは、ステータス表示の選択画面だった。

 

 一番上に私・八重垣紫苑やえがきしおんの名前が記されており、続けてこの場にいるクラスメート達名前が記載されていた。

 どうやら一定範囲内の生物であればステータスを拾えるようだった。

 一応数を数えると、私達のクラスの30人がここに存在していて、ひとまず皆の無事が確認できてホッとする。


 ――いや、ある意味ここにいない=現実世界にいる、で名前がない方がいいのかもしれない……?


 今は深く考えないでおこう、うん。

 皆無事でヨカッター!


「じゃあ、とりあえず……」


 ひとまず基本という事で、自分自身、八重垣紫苑の欄を選択・展開する。


「おおー……!」


 すると、まさにステータス欄と言わんばかりに、私についての様々な事が記された画面が展開された。


 あの謎の声の主が、私の記憶を参考にしたと言っていたとおり、私のイメージするステータス表示そのままである。

 レスポンスもすこぶる良くて、私が注目したいと思った場所がすぐ明滅、詳細を開きたいと考えると小ウィンドウで展開される。

 使いやすくしてくれたという言葉も間違いないようで、素敵な仕事ぶりに感謝の念を送っておく。

 感謝ポイントは、今の所、ここに連れてきた事についての良し悪しが把握できてないので保留しておこう。


(表示されているのは、HP、MP、力、スタミナ、素早さ、賢さ、運の良さ……RPGの基本ね)


 今時のゲームだとSTRとかLUCとかの表示になるのだろうが、そこは分かり易いのが良いと考える私の考えをダイレクトに参考してくれているのだろう。

 大体の数字は一桁から二桁ではあるが、私が遊んだ事のあるRPGの初期値としては低くはない、いやむしろものによっては二桁後半もあるので高いのではないだろうか。


 そう言えば、謎の声は「そこそこの身体能力」と言っていた。

 この世界に来た事で、若干その辺りにバフ能力増強的な何かが掛かっているのかもしれない。


 そして特筆すべきはMP《マジックポイント》。

 他の数字の殆どが二桁止まりに対して、MPはぶっちぎりの三桁後半である。

 私のMPはどうやら814、という事らしい。

 おそらくそれなりに高いのだと思うが、他の人と比較してどうなのかは確認しないと分からない。


 そして気になるのは……レベル表記が存在している事だ。


(レベル1、なのはまぁ納得なんだけど)

   

 レベル数値が存在しているという事は、これをなんらかの方法で上げる事が可能、という認識でいい筈だ。

 しかし現実にレベルアップ、それに伴う各数値の上昇、なんて事が起こりえるのだろうか? 

 そういう事が起こるのなら、私達の世界でもレベルアップとかあってもよさそうなものだが……。


 と、疑問に思うと、レベルという単語が点滅する。

 もしかして、と思って意識を向けると、それ《レベル》についての説明文のウィンドウが展開された。


【レベル。

 生物それぞれの、生物としての枠の高さを示す数値。

 この数値が高ければ高いほどに、生物として強化されているという事である。


 レベルを上げるには、様々な経験、それに伴い摂取されるマナが必要不可欠。

 様々な手段でマナを取り込んでいき、そのマナの貯蔵量が肉体の限界を迎えた瞬間、肉体が貯蔵したマナに耐え得るように身体を作り替える、これがレベルアップである。


 ゆえにマナが少ない世界ではレベルアップそのものが極めて稀である】 


【マナ。

 世界を循環する生命エネルギー。

 生物はみな、様々な活動の際に自身のマナを吐き出すと同時に世界のマナを摂取する。

 その際、生物の身体・精神状態、場所によるマナの厚薄などで摂取量が異なる。

 レベルアップに必要なマナ貯蓄……すなわち経験値は、消耗と摂取の比率などに左右される】


(まさに痒い所に手が届く、って感じでいい……うん、助かる)


 気になった所、調べたい所が即座にステータス欄、ひいては脳内に記されるのはありがたい。


 つまり、私達のいた世界ではマナが薄かったため、レベルアップ自体出来なかった。

 でもこの世界は違う、という事で……おお、なんかワクワクが増してきました。

 自分がレベルアップしたら、どの数値がどう上がって、どんな事が出来るようになるのか、考えるだけでも楽しくなってしまう。


 ……勿論、今は楽しんでばかりもいられない状況なのは重々承知しているけど、現状確認できる事は確認したいし、楽しめる事は楽しんでおきたかった。


 正直、先の見通し全く立たないからなぁ……と、他にも気になる項目があったので幾つか確認する。


 取得している技能一覧、というのもあって、私が私達の世界で学んだあれこれが記載されていたり、思わぬ事柄もあって驚かされた。


 例えば、技能・集中の説明欄には、どうすれば発動できるかの条件が記されていて、勉強などで発揮されていた場面で条件を満たした上で確かに発動していた事を知る事が出来たり、とても興味深い。


 ――あと、まぁこれは他の人に見られないのでいいのだが、私の身体の数値も詳しく記載されていた。


 身長や体重のみならず、スリーサイズなどのデリケートな数字まで……って、これ他の人まで見る事が出来たらプライバシーの侵害になるのではと心配になる。


 もしも表示された時は、その欄はなるべく見ないようにしよう……。

 そう決意しながら、ひとまず簡単な比較だけはしたかったので、他のクラスメートのステータスを見せてもらおうと思った、まさにその時だった。


「異世界からお越しいただいた皆様、申し訳ありませんが静粛に。

 これより、今回の召喚についてのご説明をさせていただきます」


 そんな美しくも威厳に満ちた声が空間に響き渡った。

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