第1話 冒険前も地道に準備
① クラスみんなで異世界召喚
気が付くと、そこは異世界だった。
――という事が一目でわかったわけじゃないけれど、なんとなくそうなんだろうなと感じる、そんな場所だった。
私・
多分神殿とか教会とかそういう神聖な場所なのだろう。
神社とかで感じる厳かな雰囲気があったし、奥の方には女神様的な大きな像もあった。
というのはあくまで推測なので、実際には悪の組織の拠点などという真逆の真実の可能性もあるかもしれない。
まぁさすがにそれは逆張りが過ぎるというものだろうが。
ゆっくり身を起こし、立ち上がりながら周囲を見回す。
動揺はしているし、思う所も様々だが、正直ちょっとしたワクワク感がちょっとだけ勝っていた。
緊急状況だとは重々分かっている。
ただ、会話を交わした何者かの口ぶりだと、私達は生きていなくては困るようだった。
それゆえにおそらく死んだり命の危機にある人はいないだろう、という確信めいたものがあるゆえのワクワクだった。
さておき。
さっきから何人か視界に入っていたが人がいる――見知った人達だ。
「うん、間違いなさそう」
どうやら、全員顔見知り――私が通う学校でのクラスメートのようだった。
これもあくまで推測だが。
クラス全員が異世界に召喚という事は、教室のあった場所、もしくはクラスメートの誰かに異世界との因縁めいたものがあったりするのかもしれない。
だからと言って誰かや場所に責任を押し付けるつもりはない。
そもそも呼びつけた方に責任があるはずし、何も知らない方に責任が発生するはずもない。
時として知らなかったでは済まされない事もあるだろうけど、今回は済ませていいと思う。
「おいおいおい! 一体全体誰のせいだよこれはよぉ!」
だというのに、そんな事を言い出す人がいたので、頭が痛くなった。
いや、うん、君はそう言いそうな気がしてたんだけどね、実際。
少し離れた場所で声を上げたのは、
なんというか色々な意味で自己主張が激しいというか、騒がしいというか。
大柄な身体や大きな声は多少威圧的で、昔のフィクションのガキ大将めいている、そういう人だ。
いつもちょっとした事でよく騒いで、気分次第では周囲を巻き込む人なので、正直予想の範疇だった。
いきなり見知らぬ場所に連れてきてよく騒げるなぁとは思うが。
――進級した頃、私に絡んできてセクハラめいた事言ってきたのはしっかり恨みポイントとして刻んでいる。
そう言った事もあり私の中の彼のイメージはとてもよろしくない。
「これは原因が分かったら、クラス皆でどういう了見か聴かないとなぁ? そうだろ?」
周囲のクラスメイト数人、特に自分の友達(というか取り巻きというべきか)にそう呼び掛ける。
それに肯定的に応える人もいれば、困惑している人もいる。
「――騒がしい。集中できないから静かにしてくれ」
そんな中、見かねた学級委員長より先に声を上げたのは
彼はこの建物を調べていたようで、先程から壁を軽く叩いたり超至近距離で観察したりしていた。
多分、このクラスで一番頭が良いヒトだと思う。
彼のテスト結果や学年順位などを知っているわけではないが、普段の授業での受け答えから頭の良さは十分に感じていた。
ちょっとクールというか、他の人に対してつっけんどんな所もあるけど、多分世間一般でいう所のイケメンなので女子からは人気がある……ようだ。
私は女子の中では微妙に浮いているというか距離があるので、なんとなくそう感じる程度で確信はないけど。
うん、まぁ私みたいにヒーロー好きの女子って多分少ないから――。
さておき、堅砂くんはいつのもように落ち着いた様子で、寺虎くんの方を一顧だにせずに言った。
「原因なんて後から分かるだろ。あの謎の声がこっちで全部説明するって言ってたんだから」
やっぱりというべきか、あの声はクラス皆に話しかけていたようだ。
初めて来た場所でもある程度落ち着いているのは、皆それなりに事情や状況を聞かされているというのが大きいのだろう。
「おぅおぅ頭良い奴は冷静でいいねぇ。かっこつけて調べたりなんかしやがって。そういう所が鼻に――」
「そんな事より、あの声の主からもらった能力なりなんなり確かめたらどうだ?
俺みたいな鼻につくかっこつけに話しかけるよりは建設的だと思うが」
「お、それもそうだな。そうしよう」
おお、流石堅砂くん、自分への意識を見事に逸らしてのけた。
自分の興味に集中しながらもこういう事を冷静にやってのける辺りがやっぱり頭良いなぁと感心させられる。
いざとなれば自分が寺虎くんに声を掛けた方がいいかなぁと思っていたので助かりました。
そうして堅砂くんに内心で感謝しながら借りポイント+1とカウントしておく。
いつか何かでささやかに御礼をしよう。
そしてお陰様で重要な事があった事に気付かされる。
そう、もらった特殊な能力についてだ。
何故この時まで忘れていたのか。迂闊っ。
どんな感じになるのか、自分のステータスはどんな数値なのか、貰った時は楽しみにしていたのに……これも借りポイント1点加算とさせていただこう。
「――ええっと、意識すればいいのかな」
一人呟きながら、脳内でテストしてみる。
イメージはゲームそのままに、コントローラーでメニューを開くような――
「むむむ――おおー!!」
そうしてうんうん唸っていると、パアッっとステータス画面が展開された。
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