#2 追われて、逃げて
──なんだ、あのニワトリ怪獣は。
でかい、でかすぎる。昔見た恐竜映画を思い出す。ティラノサウルスに追われている気分だ。いや、見た目はニワトリだから、こいつはファンタジー作品にでてくるコカトリスというやつではないか。やはり、ここは異世界ファンタジーの世界なのか。
おれは全力で走り、歩いてきた道をもどっていく。やはり肉体が強化されているのか、人間離れした猛スピードで走ることができる。もしかすると巨大ニワトリと戦って勝てるかも……いやいや、やっぱり無理だ。あのバカでかい口ならば、人を丸のみにするぐらい簡単にできてしまうだろう。
巨大ニワトリはあれだけの巨体にもかかわらず、木に引っかかることなく走ってくる。道の幅と体の幅がちょうど同じくらいになっているからだ。ということは、ここは人工的につくられた道ではなく、巨大ニワトリの通った跡、つまり獣道だったんだ。おれは人を探すどころか、自分からこいつに会いに来てしまったわけだ。
後悔しても仕方がない。今は逃げ切ることだけ考えろ……あれ、ちょっとまてよ。どうしておれはバカ正直にまっすぐ走っているんだ? 道をそれて身を隠せばいいではないか。隠れるための木ならそこらじゅうに売るほど生えている。
どこに隠れようか考えていると、いつの間にかおれが目覚めた場所までもどってきたことに気がついた。あの古代遺跡のなかなら安全だろう。おれが入口に飛び込んで体を伏せると、ニワトリはそのまま走り過ぎていった。
結局は三歩あるけば忘れるニワトリか。走っているうちになにをしていたか忘れてしまったんだろう。図体ばかりでかくても、頭のほうはてんでダメなようだな。おれはあざけり笑った。
さて、こんな薄気味わるい場所に長居はしたくない。壁に手をついて立ちあがろうとしたとき、いきなり建物のなかが明るくなった。天井のライトが点いて照らし出された建物内部は、古代遺跡などではなかった。コンクリートの壁が奥の部屋まで続いている。偶然壁のスイッチを押したらしい。
これはどう見ても古代遺跡ではなく現代的な建築物だ。しかし、外壁はすっかり植物に埋もれていて、何十年も何百年も経過しているようにしか見えない。それなのに内部は無事で、電気が生きている。そして棺の並んだ部屋。
──いったいどういうことだろう。
おれはあの部屋も確認するしかないと判断し、奥へと進んだ。
まっすぐな通路を進んだ先にドーム状の広い部屋があった。壁も床も一面真っ白で近未来的な感じがする。床には例の箱が等間隔にきれいに並んでいる。だがそれは棺ではなくSF映画に出てくるようなカプセルだった。
おそらくコールドスリープ装置だろう。フタが透明になっていてなかが見えるが、どのカプセルにも人は入っていない。もしこれが本当にコールドスリープ装置であるなら、ここは天国でも異世界でもなく、未来の地球ということになる。
おれは自分の身になにが起こったのかを整理してみることにした。
まずは交通事故にあう。これは記憶に残っているから間違いはないと思う。最初はこれで死んだものと思ったが、違ったようだ。命はあるが意識のもどらないおれはコールドスリープ装置に入れられたのだろう。そして長い時間が経ってから目を覚ました、といったところか。施設の機能が生きていたのは幸運だった。
一応筋は通っているような気はするが、まだ謎が残っている。なぜコールドスリープする必要があったのか。おれが眠っているあいだになにが起こったのか。どうしていま目覚めたのか。おれ以外の人間はどこへ行ったのか、あるいは滅びたか。
やはり人を見つけなければならない。真実を知ることもそうだが、ひとりでは生きていけない。ここにはだれもいなかったが、どこかに人が暮らしている建物があるかもしれない。おれはこの場所をあとにした。
外に出ると、あたりはすっかり暗くなっていた。さっきはまだ日が高かったし、それほど長居したわけではないのだが。不思議がるおれの頭のうえに、なにかが落ちてきた。
──なんだ、これは?
手に取ってみると、それはとてつもなく大きな羽だった。いやな予感がしながらも、おれは見あげてみた。
左右に大きくひろげられた白い翼。巨大な目玉はぎょろりとおれをにらみつけている。走り去ったと思っていたニワトリが、律儀におれのことを待ち構えていたのだ。さっきバカにしたのがいけなかったのかな。完全にトサカに来ているご様子だ。
バクッ。おれは頭から丸のみにされた。
──真っ暗でなにも見えない。デジャビュかな。
おれはなにもない空間に浮かんでいた。まるで宇宙空間を漂っているようだ。宇宙に行った経験はないからよくわからないが、無重力というのはきっとこんな感じだろう。
しかしニワトリの腹のなかに宇宙がひろがっているとは驚きだった。これは世紀の大発見だ。ニワトリに生きたまま丸のみにされた人などいなかったはずだから、この衝撃の事実は知られていなかったのだろう。
宇宙にしてはなにか足りないと思って周りを見てみると、星のひとつも輝いていないことがわかった。首をひねるおれの前に、いきなり赤い炎があらわれた。プロミネンスかと思ったが近くに恒星はない。炎は形を変えて文字を作りあげる。
GAME OVER
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