第16話息子として受け継ぐ者として……

思い出した、数分前までの記憶を何故あの白いなにも無い空間にいたこともあの寂れたボロボロの刀がなんだったのかも。そして……。


 誰かが呼んでいる声が聞こえてゆっくりと瞼を開く、そこにいたのは不安そうに自分の様子を伺っている泣きそうな見知った顔があった。


 「昌月!?」


「おわっ!?」

自分が意識が戻った事が分かると志帆はいきなり抱きついて自分の肩に顔をうずめていた。すぐに肩を震わせながら暫く泣いていた。


 「すまない志帆、心配を掛けたな。」


何も言わず彼女は小さくうなづくだけだった。よほど不安だったのだろう、あの気の強い志帆がここまでになるほど心配させてしまったことに昌月は少しだけ自分が嫌になりそうになる。


 元々二人でいる事が多かった事もあるのだが志帆は少し寂しがりな所がある。そんな彼女の性格を忘れていた。しかもこんな状況は初めて本人もパニックに陥っていたのだろう。


 「よし、大丈夫だな。まったく頼むぜ、もう少し信用してくれてもよかったのに…。」


「だって、息もしていなかったし……このまま死んじゃうんじゃ…な、ズズッ、いかと。」


鼻をすすりながら彼女は見つめてくる。その目はすがる様にこちらを見上げていた。


 「(落ち着いているようだが、流石に不安だなこのまま離れてしまうのは……けど。)」


彼女には悪いが自分にはやるべき事がある、その事はわかってくれるだろうと身勝手ながら考えしまうのだ。我ながら卑怯だと自分でも思う。


 ゆっくりと起き上がり、抱きついてきた彼女を優しくどけてもらい立ち上がる。


 「どこに行くの?」


完璧にしおらしくなっている志帆は甘えにも怯えにともとれる震えた口を動かす。


 「やらなければならない事ができてしまったんだよ。これは自分がやらなければなら無い事でな誰にも任せられない。」


「うん」


彼女は短くうなづいた。自分でも大人げ無いと思ってしまう、さっきの発言はいつも通りならそんな事は言わない人だったが今回ので色々と限界が超えてしまったのらであろう。まるで言い聞かせる様に自分の意見を押し通してしまう。だがそうでもしないとズルズルとここで足を止めているわけにはいかないのだ。


 「必ず戻ってくるから。待ってくれよな相棒。」


それだけ告げて、自分は振り向かず走っていた。

奴の場所は刀が教えてくれるそこに向かえば良いだけだから彼女との約束を果たす為にも自分は負けられないのだ。



 ガギィン!!と何回目かの金属音が響きわたる、根室と忠幸の二人による足止めはもう限界に近かった。

 

 根室は片手を失う重傷のまま戦い続けていたが既に気力だけで動いてる感じであり忠幸の援護がなければ既に死んでいた。

 対して忠幸は根室を関心させるほどの活躍ぶりである。目立った外傷は殆ど無くあるとすれば数カ所の打撲程度で済んでいるのだが、それでも蓄積したダメージが効いているらしく数発受けてしまえば倒れてしまうだろう。


 対して相手はまったくの無傷忠幸等の攻撃はことごとく回避されてしまう始末、もはや話にもならない状況であった。


 「ここまで持ち堪えたのは予想外ではあるがそれも無理そうだな。普通はこの鎧や刀を持っている奴には同じく継承者ではなければ互角闘えない…そんな事もお前たちは忘れてしまったというのか。」


呆れ顔で老弦は持っていた刀を構え根室の方に走り出す、というより突進に近かった。

 

 「っ!根室さん!?」


一瞬の事で反応が遅れた忠幸はすぐに助けに向かおうとしたが間に合わなかった。


 老弦は突進と同時にシンプルな突きを根室の腹に目がけて放つ。


 ギリギリ反応できた根室は身体を大きく左に避けると同時に刀を無理矢理割り込ませて弾く、少しだけ肉が抉れたが致命傷を回避できたその筈だった。


 弾いた数秒後根室は数十メートル逆側に飛ばされてしまっていた。


 「えっ?」


何が起きたか分からず間の抜けた声を上げる忠幸はすぐに気を保ち吹き飛ばされた根室の方に視線を移す。


 どうやら近くの壁に叩きつけられてしまっていたらしい、そう言うしかなかったあまりの速さにどこに飛ばされたか、わからなかった。忠幸でも判断できたのは大量の土煙が上がっていた為であろう。


 「根室さん!?大丈夫ですか!」


何度飛ばされても立ち上がっていたはずの人が立ち上がってこないのを見て声を上げてしまう。


 「とりあえずどんな状態か見に……い。」


それ以上口を動かす事は出来なかった、既に行く手を阻む様に老弦が立っていたからだ。


 「無駄だ、もうあの男は動けまい思い切り蹴り飛ばしたからな多分腕は折れている、それにアイツは血を流しすぎてしまっているからな、もう立ち上がれないだろうよ。」


「まさか、ここまで化け物なのは初めて戦ったかも知れねぇな。」


腹を括ることにした忠幸は玉砕覚悟の一撃を加える為に槍をかまえ一気に距離を詰めようとしたその時間に誰かがはいる。


 「ちっ!?何故ここにそれにこの感じまさか選ばれたというのか?」


間に入った奴を見て初めて老弦の顔に焦りの表情を、むける。


 「よく頑張った忠幸、根室さんを連れてにげてくれ」


「あいよ!まったく遅かったからなその代わり負けるなよ!」


忠幸は見た目だけで昌月と判断し直ぐに根室の元へと向かう。


 「逃すと思っているのかこのワシが!?」


すぐに切り返して忠幸の元に向かおうとするがすぐに邪魔が入る。


 「小僧、どうやら選ばれたらしいなだが所詮選ばれただけのやつがこのワシに勝てるつもりでいるのかな?」


「さぁ、そいつはどうかな、ここでアンタは自分に負けることになる。」


不敵な笑みを浮かべる昌月に対して老弦は眉をひそめる。


 「(この男、さっきまでの雰囲気とは違うそれにこの得体の知れない不安はなんだ?)」


 老弦の不安は的中することになる。なぜなら昌月は刀を引き抜く、その刀を見て老弦は冷や汗をかいてしまう程に焦ってしまう。


 昌景が持っていた時に比べてまったく違う刀に生まれ変わっていた。焦げ様な箇所は無く新品の刀と同じぐらいの輝きと美しさを兼ね備えていた。


 「さて、ここからが本番だ老弦……。


短く宣言し彼は勢いよく息を吸う。


 そして………。


 遂に刀の名を呼ぶ。


 「焼け、戒國江。」


その瞬間、ガラスが割れる様な軽い音が鳴ったと同時に昌月のいた場所が炎に包まれいく。


 「チッ、こいつはまずいな。」


危険を感じ、後ろに思い切りバックステップをとるが既に炎が周りを囲んでしまっている。


 「まさか、ここに来て鎧まで呼び寄せるとは太刀花の一族はここまで面倒くさい奴らだとは!!」


彼にしては珍しい罵倒であったが、それは相手には届いておらず次第に炎は薄くなりカーテンの様に昌月を覆っていた。


 昌月は薄い焔を右手出来払う。同時に暖かい程度の熱風が老弦や志帆達に向かうがその焔は人を穏やかにさせる程の暖かさが備わっていた。


 その中から彼は姿を現した。さっきまでとは見た目が変わってしまっている。真紅に染まる鎧を全身に身につけていたのだ。


 「早く、終わらせよう。某もこの状態でいられるのも少ししか無い。」


「たかが鎧をきた程度でこのワシに勝てるとでも思っているのかな?」


刀を構えつつも距離を測っていた。奴はどこまで一瞬でこれるわからない。その為少しでも離れるしか無いのだが。


 「無駄ですよ。」


後ろからそんな声が聞こえた瞬間振り向く事無く地面に叩きふせられてしまう。


 「グッフゥ!?」


唐突の出来事に対応はできなかった、地面に顔がめり込んでしまい鼻が一瞬にしてひしゃげてしまう。

 

 ひしゃげた鼻を気にせずに反撃を取ろうとするが既に相手は予想していたのであろう。刀の鞘の部分で右腕にむけて薙ぎ払いを放つ。


 ゴキィンっと周りの人にわかるくらいの大きな音と共に周りのものを壊してしまう。既に衝撃だけで地面が削れてしまっていた。


 踏み留まる事はできたが右腕は暫く使え無いほどのダメージを受けてしまった。


 「か、陽炎二式か?よもやここまで見事なやつを作るとはな。」


折れた腕を押さえながら老弦は関心気味に相手の技を言い当てる、既にさっきまでの余裕があった表情は冷や汗をかいている。攻める側、守る側は逆転を起こしてしまったようだ。



 「首を狙ったつもりだったんだが次は外すつもりは無い!」


冷ややかな瞳で老弦を睨みつけながら臨戦態勢に入る昌月に対して老弦は脂汗がとまらかった。



 「(ワシも使うべきであるのだが、今は無理に等しい、まだ今日初めてこの鎧をつけたばかりだ。使った後ワシがどうなってしまうかわからない。下手をすると昌景の二の舞になってしまう……」)


折れた腕はすぐに治っていくのだが、痛みは身体に染み付いてしまう。流石の老将も精神的に限界を迎えてしまったようだ。


 「くっ、流石のワシも厳しい様だ…此度の戦の勝敗は貴様に勝ちを譲る!」


老弦がそう叫ぶと同時にいつの間にか何もない場所から大量の水が現れる。いきなりの出来事に呆気に捉えていた昌月に対して襲い掛かる。


 「くっ、待て!?」


すぐに水を蒸発させる事はできたのだが、それは老弦の作戦だった様だ。大量の水を蒸発させたために水蒸気が現れ老弦の姿が見えなくなってしまう。


 「くそ、逃してしまったか?」


水蒸気がはれて周りを見渡してみてもそこには既に人影も無く、あるのは唯の瓦礫まみれの帝都の街並みだけしか残って無かった……。


 








 





 


 


 

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