第14話太刀花家の宿命


  太刀花家、それは帝国に置いて武を司る名家として有名であった。


 建国当初始まりの氏族といわれた一族であり初代皇帝の右腕として仕えていたのだ。


それ故に帝国内での政争に巻き込まれてしまい帝国初の内乱により一族のほとんどが、私怨により殺されてしまう。


 事態を憂いた、時の二代目と三代目は二世代にかけて帝名というものを制定し、帝国から氏名というものを制限する事に成功する。

 これにより太刀花の一族は守られると同時に太刀花の家名引いては他の氏族達も世代が進む事に忘れ去られていく事になり今となっては一族間でしか伝わらない。


 だが、世間はわすれても一族では伝え聞かされるであろう。

 

 この家の成り立ちなどの話心構えなどは脈絡につなげられていく。


 その中で太刀花家は、皇帝の側に仕え御身を守る事をおもにしていた。

 

 事実昌景の先代達は近衛府ができるまでは親衛隊としていつも皇帝の側にいることが多かった。


 そして、昌景の代になり近衛府の設立と近衛大将に任命される、親衛隊と言っても足軽大将止まりだった、太刀花家の大躍進であり昌景自身武臣といわれる程の実力を持っていたから誰も咎める者はおらずむしろ喜ぶ者がいた程だ。


 帝国内での地位を不動した昌景は数年後息子を授かり、妻とも死別してからの事だ。


 父親の病が悪化した事を聞き急いで父の元に訪れた。


 もう既に息は絶え絶えで今にも事切れそうな父が最後に昌景に伝えたのは、遺言というより予言であったのだ。


 「太刀花家は、十五代目の時にかつてないほどの危機を迎えてしまう。それによりこの太刀花家が滅ぶか存続するかはお前次第だと言うことを忘れるでないぞ。」


もはや呪いであった、昌景は近くで遊んでいる息子に目を向ける、まだあどけなく庭を駆け回っている姿に愛おしいさを感じてしまう。 

 

 亡き妻の忘れ形見でもある為に余計にそう思ってしまうのかもしれないと自虐的になりつつあったがそれも吹っ切れると思った矢先の事であった。


 なんとか回避する事はできないのかと昌景は父に問うたが首を横に振りそれっきりであった。

 

  この事を伝えるべきかどうか父も迷っていたのであろう。結局死ぬ間際でしか伝える事しかできなかったのであろう。


 以来昌景は、その最悪の事態に備える為に力をつける事に専念した。

 

 可能限り息子にそんな宿命は背負わせたくない。その為にも自分を犠牲にしてでも争いの根は取り払わなければならない。

  

  並々ならぬ意志を持って昌景はその時が来るのを待った、そしてその時は……。



 「(どうやら…その時が今きたのだろうな…。)」

 

  炎を纏って一回り大きくなった刀に対して昌景は力を込める。


 自分の運命はどうなっても構わない例えここで死ぬ事になろうとも息子に運命を背負わせない為に昌景は一気に前に出る。


 あまりのスピードに炎が後から追いかける形になり、一瞬にして老弦の懐に入り、下から真っ二つにする為に刀を下段から振り上げる。

 

  

  もはや躊躇いは無く、一連の動きを視認できるものは限られていた。


 対して老弦は冷静に刀を前に出し昌景の一撃を防ぐが、直後さっきまでは弾いていからのカウンターをかけてきていたのをやめて、後ろに下がろうと距離をとろうとする動きを見せる。



 さっきまで見せなかった行動に周りにいた者達は疑問に思うがすぐに答えがわかることがおこる。


 昌景の振り上げた後から遅れて水飛沫の様に火が吹き上がりそのまま老弦に襲い掛かる。

 

咄嗟の判断で少し距離を取ることが出来たおかげでモロにかぶる事はなかったのだが、それでもいくらかは被ってしまった様だ。


  身を捻って被る範囲を減らせるのがやっとだったらしく片側は無傷でもう片方の一部は食らった。


 「ムッ!?」


どうやら運悪く左目の瞼を焼いてしまったのと左手の指を数本焼いたらしく、持っている槍を落としそうになっている。


 「忘れていたわ、その刀は火を自在に操り弾丸の様に飛ばしたりできる事をな、まったくその刀の能力は反則的だと思うのだがな。」


「いえ、そうは思いませんよ、何しろここまでしてやっと手傷を負わせることができたのですから。ですが、あなたが全てを思いだす前にここで決着をつけさせてもらう!」


ドン!と思い切り足を地面に下ろす瞬間老弦のもとに炎の道ができそのまま津波の様に襲いかかってくる。


 襲ってくる炎の津波のを一振りで振り払うが、それが囮である事を老弦はわかり切っていたがすでに体の左側を焼かれていて反応が少し遅れてしまう。


 チャンスとみた昌景はすかさず、刀に炎を灯す。口からは、血の味がするが気にせずにそのまま老弦の腹に目掛けて斬撃を放つ。


既に半身を焼かれていてむごたらしい火傷を負っている老弦では至近距離での斬撃を躱す事はできない、焼かれた半身の再生を行いながらあえて受け止める選択をとる。


ゴゥ!!っと槍に炎の塊がぶつかる。斬撃自体を止めることはできたのだが、熱風まで防ぐことはできず、今度は全身が焼かれてしまう。

  既に鎧の能力で急激な再生を繰り返してはいるが、本人にとっては生き地獄そのものだ。

例えるなら折れた骨をくっつけては折るの繰り返しなのだから、常人では既に意識はなくそのまま消し炭になっているだろう。


 皮膚の再生と斬撃を防ぐことに集中している老弦には避ける事は叶わなかったと誰もがそう思っていたが、老弦は何を思ったのか槍を手放してしまう。当然さっきまで受け止めていた斬撃をまともに喰らうことになる。

 誰もがそのまま真っ二つに両断されると思ったのだが、どういう訳か老弦の身体はくっついておりそのままくの字に曲がって数メートル飛ばされてしまうのであった。


 いち早く、老弦の行動の意味に気づいた昌景は軽く舌打ちをし、追撃の斬撃を飛ばす。


 だが老弦は一気に体勢を立て直して、すぐに横に飛び込み難を逃れる。普通なら筋肉や骨はズダボロになっていて動けないのだが、鎧のお陰で無理ができる、老弦の方が有利なのだ。


 逆にジリ貧なのは昌景の方、既に限界の出力で刀を使っていた為に既に後がなくなってしまい、かなり焦っている。安全圏で見ている根室達の顔が引きつっているのがわかり、昌景は恐る恐る自分の手を確認する。


 その手は既にシワだらけの老人の手と化していたのであった。

 

 (「どうやら、少し頑張りすぎたらしいな。我ながら情け無い。武人などと呼ばれていたのが聞いて呆れてしまう。」)


現状、はっきりと言うなら昌景に勝機は無い。既に限界を超えた。力の行使により既に内部から崩壊が始まっているようだ。今立っているのも気力だけで立っている状況だ。


 だがそれも無意味であった。こうしている間も刀は容赦なく昌景の命を奪い続けている。能力行使を解けばいいのだが今解くと一瞬の内に殺されてしまうであろう。彼の直感は安易な方には流されないように踏ん張っていたのだ。


 既に七十ぐらいの老人の風貌に変わり果ててはいたが目だけは死んでいなかった。どんな不利は状況でも彼は諦めずに立ち上がってくるであろう敵を睨みつけている。


 既に体の再生は終えたのであろう。無傷の男がそこに立っていた。彼は目の前にいる老人の正体に気づき口を歪ませていた。


  「なんだ、もう終わりか。だがお前はよくやった方だと思う。歴代の太刀花家の当主の中では随一と言っていいほどの強さだ。」


人相が変わるほど嘲るような笑みでこの老人は吐き捨てる、まるで興味を無くしてしまった物を見るような冷徹な目で。


 「ふん、それが貴殿の素なのだな。なるほどあまりいい性格とは言えないな。だから今まで某等しか友人がいなかったのかな?」


対して昌景は鼻で笑い相手を挑発する。

 そこにはかつての友人に対しての少し毒の強い軽口にも聞こえてくるのが虚しい。本来なら笑い話で終わる二人の何気ない会話ではあるのだろう。


  少しの沈黙の後、燃え上がっている炎を見ながら老弦は吹き飛ばされてきた時に拾った短刀を引き抜き構える。


 「もうすでに、助からないであろうなその体の状態ではみてみろ、お前が放った炎の弱々しい燃え方よあれではもう無理だ。」


老弦の言う通り炎は先ほどまでの勢いがなくなりつつある、既に夜を照らしていた炎が再び闇に飲まれようとしているのがわかる。その時が彼の死を決定づけると告げているのだ。


 「さよなら、久しく見なかった強敵よ。」


短い言葉と共に、全身を切り刻まれた後昌景は数十メートル程飛ばされてしまう。


 既に受け身を取ることができず全身を激しく打った昌景はそのままくらい闇の中に落ちてしまう。


  

 あれからどのくらいたったのであろう。

誰かが呼んでいる気がして重たい瞼をあげる


 そこにはもう会うことは無いと思っていた息子の姿があった。


 なにやら必死になって何か言っているようだがなにも聞こえない。だが息子に似ている誰かであろうが伝えておこう。


 仮に伝わらなかったとしても息子似のこの青年なら安心だ。


 「すまないが、青年この刀を……息子の…昌月にわたして……くれ。」


なにも言わず青年はうなづいてくれた。よかったこれでもう後悔は無い。


 「あ…あと…今まですまなかった。……つら…いおもいを…させて………………。」


それ以上なにも言えなかったが満足だった。

 愛していると言いたかった、冷たくしていたのは私なりに頑張ってほしいと思ったのが間違いだったらしい。

 色々と言いたかったが仕方ない、それにもしこの刀が渡れば会えるだろうその時までのわかれだ。


 そこで昌景の瞼は閉じ体から光を放ち灰になってしまう。


 周りには負傷した根室や志帆達の沈痛な思い出で目の前の現実を見つめていた。


 ただ一人灰と刀を握りしめていた青年が短く泣くのを堪えながら絞り出す。


 「と……う…さん。」


短く重い言葉を呟き彼はすぐに立ち上がる、泣いている場合では無い。

 目の前に父の仇がいる。

 

彼は形見の刀を引き抜く。


 消えかけていた周りの炎が不思議ことに息をふきかえした様に勢いよく燃え上がる。


 偶然かそれとも運命なのか刀は新しい主人をすぐに受け入れ再びちからを取り戻す。

 皮肉にも刀は息子の元に渡ったのだ。だが本人はそれを知らないまま死んでしまった。


 










 



 


 抜かれた刀は怪しく光だし周りにいた者達の誰かが生唾をら飲む。これから始まるであろう。自分達の末路に対して覚悟を決める。



 


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