第12話捜索

 捜索を開始して数時間が経ったのだが、一向に相手の尻尾が掴めずにいた。


 自分達は、近衛衆の一部の人達と共に、街のある居酒屋にいる。話によるとよくここではならず者達がよく集まる場所らしく、よく取引などをしているらしい。


 帝都から少し離れた場所にあるこの場所は特に治安が悪く、彼等にとっては悪事をするにはいい環境ではあるらしいが、そもそもここでは悪事といっても喧嘩の相談や、相手を痛めつける程度の計画などをするが基本実行には移さない。


 この街事態、ほとんど犯罪が起きない事で有名なのだ、治安が悪いと言ってもその程度で終わるのだが、異国から来たものは話が変わってくる。


 基本、おとなしい住人しかいないこの街で大概悪さを起こすのは基本この地で一旗あげようと思う奴らだけなのだ。それが街に馴染めず、孤立していき誰も信じれなくなってしまった人達が犯罪に走ることが多い。


 その為、街では彼等を助けるために住人達で協力して助ける団体も作り上げたのだが。それでも救えなかった者、また手遅れになってしまった者が犯罪に手を染めてしまう。


 しかも彼等が襲うのは、現地民では無く、彼らと同じ異国の者を襲うのだ。どうやら彼等にとって羨ましいのだろう。理不尽な逆恨みなのだが彼らにしてみれば裏切り者に見えたのだろう。


 結局事態を重く見た、陛下が近衛隊を派遣し、組織化する前に一時的に拘束し、社会更生まで手を尽くすことにしたのだ。

 大体の奴らは兵士として雇われることになり、兵舎ではあるが住む所と生きるために必要なものは用意された。


 当初はこれで解決したのだが、現陛下による経済中心の方針、軍の縮小による退職に追い込まれたもの達が溢れてしまう。


 そのおかげで、元軍人がある区域を制圧してしまう事件が発生してしまう。この件で動いたのは大将軍閣下による采配で、将軍直轄の予備戦力兼この地区の治安維持を補う事で解決するのだが。


 チラッと、ここのマスターに視線を向けるが、自分達相手でも睨み返してくる始末である。ここは半ば帝国の土地であるのに帝国では無いみたいにみえてくる。


 「(極め付けは……。)」

所々にかけられている弾幕、書かれている事は。


「我々は、現皇帝を認めない、我等が支持するのは大将軍閣下のみ!!」と書かれている。

 

 彼らにとって、帝国で唯一味方をしてくれた大将軍には恩を抱いている様でこの地区にいる住人はほとんどが大将軍派閥になる。

 それと同時に退役軍人の集まりである為に大きな脅威になってしまった。

 そのおかげで、大将軍は度々謀反の疑いをかけられてしまう事がある。一説ではこの件で一度陛下に具申したが、無視されたらしく、その為怒った閣下が単独で決めたらしい。それ以降陛下とは不仲であり、ほかの人達との関係が悪くなり、しばらく疎遠になっていた話がある。

 

 結果的に皇帝は内に小規模ながら反抗勢力を作ってしまう事になり、帝国での二番手である大将軍との信頼を失ってしまうという。致命的な状況を作ってしまったことになる。


 最近は、だいぶ歩み寄りを見せる事になり、昔の様に総督や近衛大将である親父との交流をはじめる様になったのだが、少なからず溝は埋まっておらず国内でもこの地区の解決策は出ないまま数年経ってしまい、今では無法地帯に近い状態になってしまっているのだ。


 現にこの地区は帝国の支援を受けておらず、大将軍閣下の資金援助で成り立っているがそれでも生活するには厳しいのが現状である為にここ出身の犯罪者が多い、その為ますますこの地区だけは孤立していき、いつしかならず者どもの根城になっているという噂も聞く。


 その為、自分達は親父の指示で何かここでおかしなことがなかったかの聞き込みをする事になったのだがどうも誰も話してくれないので、ここで待機している訳なのだ。


 「ダメだ、昌月ここの人達みんな警戒してやがるよ、「話す事は無い」と一点張りで何も話してくれない。」


お手上げとばかりに手を振りながら、こちらに近づいてくる忠幸を見る。後ろにはさっきまで話していたのだろうと思われる老人がいたのだが、その眼光は鋭く、こちらを監視している様にも見えた。


 老人の左手は常に隠されていてなにかを隠し持っている気配がするが、嫌な予感しかしない。


 「あの、爺さんダメだぜ、多分元兵士だろうよ。それに実戦経験済みだろうな。あの手にあるのは大方ナイフだろうよいつでもやれる様にだろうなそれよりも。」


あたりを確認しながら忠幸はこっそり耳打ちをしてきた。


 「それに、何人か隠れている奴らがいる様だな、近衛衆達も気づいているだろうな、エラく長めに交渉しているようにおもえてくる。」


 忠幸は、指を指しながら、つまらなさそうに肩を落とす。彼が指を指す場所にどれも死角に隠れた伏兵達が潜んでいる場所であった。


 「彼等にとって、よそ者に対する対応なのか?何かを隠しているかのどちらかだろうけど…。」


忠幸が指を指す方角を見ながら自分はここでの飲み物に口をつける。一応、ここまで警戒されている場所で相手から出された者を口にするのはリスクが高いが逆に飲まないと怪しまれる。


 一応、自分達の主戦力の忠幸達には適当な理由をつけて飲まないとようには言ってあるが飲まないと信頼してもらえない為、最悪自分が倒れてもなんとかしてくれるだろう。


 「それにしても、話しに聞いているのとは随分違うね。この酒場は結構良さげな物が置いてあるのだけれど?」


何かに気付いたのか、志帆が周囲を観察しながらこの酒場にある物を触っていく。

 そこにあるのは年代物の、時計や茶碗など普通の生活では手に入らない物がたくさん置いてあるようだった。


 「ねぇ、昌月アタリかハズレかというより、ここは黒に間違いないと思う。」


志帆は、棚などに置いてある、物を見て確信したらしいのだが。


 「何か、引っかかるんだよな。」


 「引っかかるって何が?」


自分の素朴な疑問に対して二人は首を傾げていた。


 「いや、今回の件どう見ても国宝がある宝物庫に入れ奴なんて限られている。できるとすればこの国の上層部の人だろう。なら誰かが手引きをして犯行に及んだのは間違いないのだが、それにしても親父がなんで真っ先にここが怪しいと思ったのかが気になる。」


「それは、ここが大将軍閣下の派閥だからなのかな?それでも私は…」

 そこで、恐らく気づいたのだろう、志帆は言い淀んでしまう。いつもみたいな補佐役に適した距離のある声色ではなく、どこか納得のいかない憂いな表情を見せていた。


「本当にそれだけなのか?そこまで単純すぎる考えなのか?」


忠幸の指摘に対して自分は疑問をぶつける。これは自分や志帆にしかわからない事なのだが、彼等の仲を知っているからこその納得ができない事で流してたいけない事だと自分は思ってしまった。


 現に彼等はほぼ世代が同じであり、苦楽を共にした盟友なのであり、帝都ではよく三兄弟と言われていたこともあるほどの腐れ縁で結ばれてていた。

さらに、世間では知らないが志帆と自分は知っているのだ。よく大将軍を説得する為に自分達の親が会っている事に、よく三人で酒を酌み交わしていた事を知っている。


 そんな仲である大将軍の派閥というより、大将軍が守っている場所を真っ先に捜索の対象にほとんどの近衛をここに置いていってしまった事を誰も疑問に思っていない。


 「ひとつ、確認なんだが、忠幸この事件の後ろには誰がいると思う?」


確認の為に聞く。多分彼が想像通りの答えを持っていなかった場合、事態は最悪の方へと向かう。


 「ならず者、カシラが犯人だと思っているんだがお前があらためて確認するって事は悪い予感がするんだろうな。」


「あぁ、そうなんだが確証が無くてな。一応探りには行かせてあるから、あの娘による結果次第になるかもしれない。」

 

 「あの〜、昌月さん?」


突然背後から話しかけられ、自分達は飛び退いてしまう。忠幸に関しては槍を構える有様であった。志帆にいたっては後ろに下がった拍子に盛大にひっくり返えってしまい、あられもない姿を晒してしまうのだが。

 「ひゃい!やめて下さい敵ではないので槍を構えないで下さい!!」


驚かせた本人はというと、忠幸の槍に怯え、生まれたての子鹿の様に足を震わせて涙目でこちらを見ている。目はこちらを睨んでいる様で、「なんで事情を伝えてないんですか!」という声が恨み節に聞こえてきそうな感じが突き刺さる。


  「って昌月!、私が知らない所で弓にこんな危ない仕事を任せていたのは?信じられない!」


怯える弓を抱えながら、志帆の批判の声を甘んじて受ける、時間がなかったのもあるしそうしないといけない状況だったのも理解してほしい所だけど。




「あ、あ〜、弓には確か親父の動向を探らせていたのだったんだ。急ぎのようでもあったしそれに自分も違和感に気づいたのは近衛府を出る直前だから仕方なかったんだすまん許してくれ。」




近衛府を出る時に、弓と話した際いくらか密偵としての訓練を受けていると聞いて、ダメ元で親父を探るようにしてもらっていたのだ。


 本人は自身なさげではあったのだがどうやらある程度の成果はあったらしい。


 とりあえず、渋々志帆も弓も納得してくれたかは怪しいが、一刻も争う状況なので弓が一歩前に出る。


 「はい、やはり近衛大将殿は捜索隊には加わらずに違い場所に向かわれておられていました。」


やはりというべきなのか、自分の中での唯の疑問だったことが現実になると穏やかではいられなくなってしまう。この状況は一番無いと思っていたのは自分自身であり、弓には悪いが当たっては欲しくはなかったというのが本音だ。

 

「で、どこに向かっているかまではわかっているのか?」


ダメ元で、弓に尋ねると少しだけ得意げに胸を、逸らし始めた。


 「そこは大丈夫です!一応怪しまれる可能性を考慮して総督府の者であると身分を偽って近くにいた近衛の方々に聞きこみをしました!!」


少しだけ、テンションが上がったのか、初めのおとなしそうな感じとは思えないくらい声がデカくなっていた。もちろん周りの者に聞こえそうなくらい。


 「な、なるほどそうか。難しい事を頼んでしまって苦労をかけたな。結果は何かわかったのだ。」


「それが、近衛大将殿は、事件のあった場所に向かわれたらしくそのまま国宝が置いてあった宝物庫へと一人で向かわれたらしいです。流石にこれ以上は勘付かれると思い帰ってきました。」


 首を傾げながら伝える弓を見ながら自分が思っていた最悪の結末になるかもしれないことに、自分は焦り覚え衝動的に酒場の扉に向かってしまう。


 「昌月、どうしたの?!」


いつもと違う追い込まれた顔の自分に驚きながらも志帆はその場での身体を掴み、落ち着かせようと試みる。


 「おそらく、早くしないと取り返しのつかないことになるかもしれん。」


志帆が止めに入ったことに少しだけ冷静さを取り戻した自分は手短に簡潔的に説明する。もはや具体的なことも言わず、意味の分からない事を言っている事もわかっているが、時間が欲しいわかってくれなくても、最悪一人でもと思っていた矢先。


 「おっと兄さん達、それは困ってしまうな。」


それまで、話しかけることもしなかった、酒場の人達がゆっくりと立ち塞がって行く。ずっと隠し持っていたのであろう、刀を抜き、こちらに向けてきていた。


 同時に外から怒声が聞こえ始め慌ただしく人々の足音が聞こえ始め、金属同士がぶつかり合う音が聞こえ始めてきた。


 「どうやら、始まったみたいだな。」


立ち塞がる男は何かが始まった事を理解し、こちらに切っ先を向けてくる。数にして二十人弱、こちらは近衛兵含めて十人程、二倍の差で圧倒的に不利的状況であり、しかも外では倍以上の敵がいるであろうがそこは外にいる近衛兵に頑張ってもらうしか無い。


 「昌月、ここは強硬突破するしか無いわ、多分だけどアンタのお父さん限りなく危ない状況なんでしょ。」


自分の焦り方で大方の事情は気づいてくれたのだろう。長年一緒にいれためなのか、自分のことをわかってくれる事はありがたい。同時に冷静でいられなかった自分に情けなくかんじた感じてしまう。


 「らしく無い、顔をするな。昌月、ここを乗り切るのが先決だ。全くお前といると退屈しないですみそうだよ。」


後ろから背中を叩きながら忠幸が槍を構える。彼にしてみれば闘えたらそれでいいと思っているから事情など関係ないと思うが、それでも彼に叩かれた背中からは暖かさがあった。


 「早く、ここを突破してすぐに向かいましょう!あと、さっきの頼み事聞いたので報酬ははずんで下さいよ!」


弓は、短刀を構えながら、今回の報酬の事を聞きながらこっちをジト目で見てくる。


 「わかった、なんとかするさ。」


こんな危機状況なのに、何故か笑みがこぼれてしまう。こんな即席のチームなのにまだお互いを知らないはずなのに、なぜか安心できてしまう。


  深く深呼吸してから、ゆっくり刀を抜き、眼前にいる、越える相手に向けて刀を構え。



 「いくぞ!」


自分の合図と共に全員が敵と衝突する。


 時間はかけられない、ここは前哨戦にしかすぎない。本番は、ここを切り抜けた先にあるのだから。




 




 



 

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