第10話始動昌月足軽衆
いきなり、勅命を言い渡され部隊を作れと言われたがどうすればいいのか分からん。
一応制限が、3時間後らしくあまり時間がないのもつらい。
「部隊って言ったって、いきなり言われてもな。難しいぞ。」
いきなりの難題に、こめかみを抑えてしまう。
一応部隊としては、大将は自分で、志帆が副将だがあといる奴は遠距離兼斥候と遊撃ができる奴ってことになるであろう。本当ならもう一人欲しいところだが3時間しか無いので難しいと思う。
とりあえず、ある程度の部隊として機能できる人員がいればなんとかなる話ではあるのだが、それが難しい。
「(たくさん、いる人から斥候から遊撃できる武勇と遠距離戦ができる奴、おそらく全員ある程度はこなせるだろうだが。)」
一通りみんな、訓練はしている為できるのだが今回に限ってはそうはいかない。ひとえにこの任務の性質が問題なのだ。
勅命、この言葉が意味をするところは帝国にとって重大な事が起きた証だ。そもそも帝国の歴史の中で、勅命が下される事は珍しい事だ。
かつて老弦さんが北の国の反乱を鎮める時以来となるはずだ。もう二十年も昔の話らしいがこの功績で、新しく大将軍という地位が作られるきっかけになった内乱である。
帝国の長い歴史の中で、勅命があった事は少ない事である。皇帝によるが、勅命を下す事なく、治世を終える事が多かったが、今の皇帝になってから二回目の勅命は極めて異例な事であり、帝国内でも不安がる者も出てくる筈だ。
だが、それよりも今回選ぶ人選は極めて優れた者を選ばなければ無ならない。
生半可な者を連れてこれば部隊の危険に繋がるし何より戦闘は避けられないであろう。
確実性を求めるには、少数精鋭で動くしかなく少なくとも戦闘ができる実戦経験がある方がいい。
「なぁ、志帆ぶっちゃけアテはあるのか?」
「そういう、アンタはどうなの?」
逆に質問を返されてしまったが、答えは決まっている。
「いる訳ないだろう?、大体ほとんどお前と一緒に行動していたんだから。」
山賊退治や、荒くれ者相手などの相手はいつも二人で暴れて回っていたのだ。そのために高虎さんが事後処理に駆り出され死んだ魚のような目をする原因を作ってしまった。
その為に、二人揃って優秀な問題児扱いされていて周りが集まってこなかった。
元々は親父達の息子である自分達に取り入ろうとした奴がいたがあまりの暴走ぶりに誰もついてこなくなった。そのおかげで帝国足軽隊は伝説の二人として語られているらしく。
誰も関わろうとはしなかった為に自分達の交友関係がほぼ無いと再認識するだけになってしまう。
「私だって、そうよ!そんな誘いなんてなかったよ!、でもアンタ結構誰かと喋っていたイメージがあるのだけど?」
「なに?、あいつはたまにしかいない奴だけど…
うん?あいつって確かあいつのことか?」
「そうよ!、その子のことよ?」
自分は、志帆に言われてすぐにおもいだした。
「いたな、あいつ、でも…あいつかぁ。」
思い出した、少し前人員合わせで頼んだ時にやたら腕っ節が強いやつがいた事を。少し性格が難ある奴だった気がする。
「私は、私で探しておくから!昌月は、あいつの事頼んだよ!」
「えっ!あっ、おい!」
そう告げると志帆は流れるように自分から離れ、逃げてしまった。
「仕方ないかぁ、どちらにしろあいつが一番適任だろうしな。」
観念して、向かった場所は足軽の兵舎だ。
兵舎の門を開くと、そこにはたくさんの足軽達が槍や刀を使い訓練をしていた。もちろん切れ味はほとんど無い者であるが、当たりどころによっては大怪我をしてしまう。
その訓練の中で、人だかりができているところに向かう。
そこでは、リング上を作り沢山の足軽達が集まっていた。
ここでは、いつもトーナメント形式で対戦が行われている。もちろん一位になって、何か貰えるという事は無いが、腕試しを行いたい奴らが集まる場所であり、彼らにとって娯楽でもある。
ここでは、賭博などするのは軍規違反な為、皆誰が勝つか、予想しながら見ている。一応これも訓練のひとつであり、見た目である程度の情報を得る為にやることなのだ。特に偵察などには重要になってくる。なんの装備をしていてどのくらい練度があるのか?身分は高そうかなどの情報を得る為に必要になってくる。
このトーナメントに出るものは、服装が自由に選べられる。例えば、わざと身なりを悪くしたり体調悪くしたふりをしてくる奴もいる。そこで油断した相手を張り倒したりするのだ。
自分は、ゆっくりとリング上に近づくと。
あたりは一気に静まりかえってしまう。
「(まぁ、仕方ないか、ここに足軽大将のやつが来ることなんてなかったんだろあな。)」
ついこないだまではあっち側にいたのに一気に空気が変わり皆ひざをついて頭を下げているが。
一人だけ立ったままこちらを見ている人物がいた。
「なんだ、お前か皆頭何か下げるなよ、問題児の昌月大将閣下様だ。普段通りにしろよ。」
ぶっきらぼうな声を聞いて、頭を下げていた連中はすぐに、普段通りに訓練へと戻ろうとするが、誰もリングにはちかづかなかったというより。
「昌月、すまんが今回は助けになれない。多分何かあっての事だろうが、すまん。」
みんな、口々に捨て台詞を残してその場をあとにしていく。 どうやら今回の事件の話は噂程度にはなっているのだろう。
「(まぁ、それに自分自身、こういうことに首を突っ込む奴と見られているから仕方ないが。 疫病神みたいな扱いはやめてくれよ。)」
流れる様に、その場から離れていく、共に苦楽を共にした奴らに逃げる様にいなくなる中、一人は逃げずに突っ立っていた。
「で、結局お前がのこるのか?)」
「おう、そうらしいな。」
キッパリとした返事に、自分は短く息をはく。
逃げなかったこいつ、さっきみんなに対して、声をかけた奴だ。
周りとは違って鎧は軽装で、その手に持っているのは、柄の長さ五メートル、刃の長さ四十センチの大身槍で名を「鎧断ち」と言い、なんでも代々受け継がれる名槍らしい。
「相変わらずだな、お前は自分の身分が変わっても普段通りでいてくれるのは助かるよ、忠幸。」
「まぁな、身分が変わっても友であることは変わりがないんだ。そうだろ?」
自分に対して裏表の無い笑顔をむける、彼はこの帝国軍足軽隊一の槍名人でもあると同時に自分や志帆達と同じ問題児の一人とされている。さらには昔からの付き合いで、問題ごとの解決の為にほとんどの作戦に参加してくれている。ほぼメインメンバーなんだが、運良く今回の昇進事件に巻き込まれなかった内の一人だけ。
「それにしても、だ。あんだけやらかしたお前たちが昇進できるとはな、羨ましいにも程がある。こっちもいくばくか戦功をあげているってのによ、まったく。」
「それ、皮肉で言っているのか?」
「いや、別に。それに俺自身暴れられるところを提供してくれるお前には感謝しているし。こんな風にバカやれることには感謝しているだ。昇進の件はまぁ気の毒としかな。」
「テェメ、最後絶対バカにしてただろう!」
素直に聞いていた自分の時間を返してもらいたい。反応を見てケタケタわらう忠幸は、槍を動かしながら。
「で、今回の仕事はなんなんだ?まぁある程度の話はこっちも知ってはいたが、それは噂程度であったと思っていたが。お前がここに来ると言うことはそういう事なんだろう?」
チラチラと切っ先をこちらの首に向けつつ、槍の切っ先を足下まで下げ構える。
「そうだと言ったら、どうなるんだ?」
相手の出方を見ながら、こちらも支給された刀に手をかけ始める。
「いや、別に参加するのはいいんだ。俺自身武功をあげられることに関してはいい事では、あるだろうし。その国宝の鎧を一度はこの目で拝んでおきたい、ただ…。」
自分と会話しながら。少しずつ彼が下がっていることに気付く。槍と刀、少しでも優位性を確保したい為に。対してこちらは刀、不利なのは誰が見てもわかること。
「その前に、一度だけ肩鳴らしをさせてくれ、ここの奴らとやり合うのはあきたからな!!」
先に言っておくが、彼の「鎧断ち」は一応訓練用に変えてあり、斬られてもそこまで重傷にはならないはずだが、槍本来の使い方はそのリーチを生かした叩きつけと、突きである。
忠幸は、一気に体をかがめ体のバネを利用して自分の右肩めがけて突いてくる。
「(こ、こいつ。)」
予想していたより思ったより早い動きに、自分は回避行動する為に、横に飛ぶ。
ガッと、横に飛ぼうとして力を込めた右足の内側に痛みが走る。
「甘いぞ!昌月!」
そのまま薙ぎ払れてしまうが、なんとか受身をとりながら追撃が来ない様に転がり距離をとる。
どうやら、突きはフェイントらしく自分が回避すると見越して槍で足を払うことをきめていたらしい。
「いきなり、突きとか殺しに効いているかと思ったぞ!!この野郎!!」
「いやー、長年の付き合いだから、居合とかでぶつかってくれると思ったんだかな。」
残念がる忠幸に、自分は体の泥を払いつつ。
「ふっざけんな!。お前みたいな達人相手に真正面からやるやつがいるか!!、自分みたいな人並みがそんなことしたら、一発で病院おくりだろう。」
「いやー、そこまで褒められてしまうとはな。」
「いや、ほめ、っ!!」
こちらが喋り終わる前に次の一撃が飛んでくる、なんとかしてギリギリで回避し、身をかがめ砂を掴み奴にめがけて投げつける。
「くっ、やりやがったな。」
砂から目を守る為に片手で防ぐ間に忠幸の懐まで潜り込み。
「(このまま、刀を首に当てれば!?)」
そのまま自分の勝ちに見えた。だがそうはならなかった。
ガシッと手を掴まれたてしまう。
「な、何だと!?」
何と忠幸は持っていた槍を捨て、きけんを承知で見えない状況で腕を掴んできた。しかも片手でだ。
そのままもう一方の腕に付いている子手を使い、刀の腹を思い切り殴る。
ガギィっと甲高い金属音と共に刀が少し曲がってしまい、衝撃をモロに受けた自分の腕は痺れ掴んでいた刀を落としてしまった。
「お前と、誰もやらない理由がわかったかも、ここまで実戦的にやられたらな。」
「そうか、だがこれくらいやらないと実戦とかでは役に立たんだろう。俺たちは軍人だ、やるかやられるかの世界にいるんだ、生きる為ならどんな手を使わないとな。」
確かに忠幸の言うことは正しいのだが。今の帝国にそんな考えを持っている奴はすくないだろうな。
「まぁ、これで殴り合いになれば俺の勝ちだな!昌月!何か奢れよ!!」
「いや、引き分けにしよう。」
さっきまで陽気に勝ち誇っていた忠幸は、首を傾げていた。
「ん?、それはなんでだ?」
「よく、自分の腹のあたりを見てみろ。」
言われた通りに忠幸は見ると、納得した様にうなづきため息をつく。
見て見ると、脇差が忠幸の腹を捉えていた、忠幸の鎧自体特別性であるがある程度刺さることは確実だ。そこから殴ってから槍で刺すこともできるのだが、二人とも出血多量で死ぬかもしれない。
「どうする?」
「いや、流石にここまでにする。これ以上やったらほんとの殺し合いになるだろしな。」
忠幸は、手を離し槍を拾いつつ手短に答えた。
「それじゃあ、腹も減ったし飯食いながら詳しく聞くとするか!?」
自分の肩を叩きながら先に、進む忠幸の後を追いかけるが、あることに気づく。
さっき殴られた刀を鞘に戻そうとするが、完璧に歪んでいる為鞘に入らない。
初日に支給された刀をダメにしてしまう、このことを上司である。高虎に説明することを考え自分は早足にかける、忠幸に視線をうつす。
「あいつ、いつかケリをつけてやる。」
高虎さんにどう説明するか考えながら忠幸の後を追う。
ガヤガヤと沢山の訓練生達や軍人達が列をなしている。ここは、帝国軍の食堂で腹を空かした奴らが集まる場所である。その料理はうまいのだが、全部大盛りで、食べ盛りや大食いの奴らにとってはこの上なく良いのだが、自分みたいな少食には合わず一回行ったきり使った事はなかった。
「なるほど、それで俺に白羽の矢を当てたって事か、しかし勅命にしては既に噂程度に広まってしまっているとなると、上の奴らも相当混乱しているように見える。」
自分の話を、聞きながら並べられた大量の料理を食べながら忠幸は冷静に状況の確認をする。
軽く三人前くらいある魚の定食をみるみる平らげていく様を見るとこっちは食欲を無くしてしまうんだが。
「まぁ、言いたいことはわかるんだが、それほどの問題が発生してしまったんだろうな。」
帝国始まって以来の大事件かもしれないと思ってしまう。今まで、帝国の宝が盗まれた話は聞いたことはなかった。しかし今になってこんなことが起こってしまうのはどうもきな臭い。
「まさか、内乱が起こるとかないだろうな?」
定食の魚の身と骨を分けながら、忠幸は周りに気にせず、今思った事を述べる。
「お前、思っていてもそんな事をわざわざこんな場所で言わなくても…。」
自分は、慌てて声の大きさを落とすように促す。
魚の食べ方は綺麗なくせに、あまり空気を読めないというか正直過ぎるというか。
忠幸の懸念も間違ってはいない。この帝国も三十年前に起きた大戦以来平和な時期が長すぎたのであろう。それにもしかしたら軍縮を進める現皇帝に対して不安があるのかもしれない。そのかわり皇帝陛下は経済に対して力を入れており、帝国は歴代の中で一番裕福な時代になっている。それも陛下が名君と言われている理由だ。
慌てる自分を気にするそぶりはせずに忠幸は、話を続ける。
「だが、俺達やお前の家は代々この帝国創設からの名家の奴らは軍人出身だろ?、それに元々軍事政権だったのをたった数年で変えてしまったからな。だが、それが災いして古参の家臣つまり俺達とは折り合いが合わなくなってるからな。」
「それが、反乱の話につながるってのか?」
自分の、質問に対して忠幸は眉をひそめ腕を組み始める、小難しく話になると難しい顔をして考えるのがこいつの癖の一つだ。
「さぁな、だが今回の国宝が盗まれた事は、この国にとっては大打撃になるだろうな、このまま見つからなければ陛下の信用にも関わってくる。そこから揚げ足をとり始める古参の奴らが現れてこじれにこじれて、最後は内戦になる。そんなシナリオが見えてくるな。」
「内戦か、自分達には他人事の様にしか聞こえないな。これも平和に、いや当たり前の日常とかって言うやつに慣れてしまっているせいなのか?」
内戦、というより戦争についてあまりイメージにしにくいのは、自分達の世代ではよくある事だ。かくいう自分も実戦経験があるといっても山賊や町の不良共の仲裁などをする程度であった。何人かは斬った事はあるがまだ殺すまでにはいたっていない。
だいたい斬りつけたら、その場でへたり込み降参する奴らがほとんどで殺し合いに発展する事はなかった。
所詮は、ならず者の諍いを止めるだけの治安活動するのが現帝国軍人の仕事になっている。その間ベテランの人達もかなりいなくなった為に、軍自体経験がなく、問題視されていた。
「それに、昌月お前盗まれたブツの重要性にはあまり気づいていないようだなぁ?」
「盗まれたもの?、確か国宝級としか聞いてないがそれがどうかしたのか?」
軽く、尋ねる様に聞く自分に忠幸は呆れたとばかりに顔をしかめている。
「あのな、国宝級と言われればあの「鎧」達の事を言うだろうよ。」
「あの鎧ってまさか、あの…。」
「やっとわかったか、そうだよ。全く高虎どのも教えてやればいいのに。まぁ、説明は部隊編成ができてからしたかったのだろうがな。」
事の重大さに気づいた自分に対して、少し同情する様に忠幸は静かにこちらを見据えている。
「お前が想像している通りの物だろうな。帝国の建国時に活躍した。四人がつけていた鎧だろうな。
その昔、戦ばかりの時代をおわらせた。功臣達の遺物であり、なんでも装備するだけで神のごとき力を手に入れられると、昔爺さんにきいたことがある。帝国で国宝と言われるのは多分だがそれしか有り得ないだろう。」
「帝国に伝わる四人の武人達か、今ではこの話について詳しい文献は残っていないしな、何しろ帝国建国より前までに遡り、四人とも建国以前に亡くなっている為にどんな人物か、伝わってない。だがそれでも初代皇帝を無類の強さで支えなんども助けたという話は有名だが…。」
忠幸の指摘に、不安を感じてしまう。同時に数百年前の鎧を盗まれて、ここまで混乱が起きるのは納得する。もし、仮にその鎧を盗んだ賊どもがを身につけた場合どんな被害が出るのか?、考えただけで背筋に冷たい悪寒を感じてしまう。
「だが、本当にそんな力があるかはわからない。爺さん自身も代々語り継いだ話をしてくれたに過ぎん。あくまで信憑性が薄いがそこんところは気に止めといた方がいい。」
忠告ともとれる、話を受け止めつつも自分は少し動揺が隠せなかった。仮にそうだとしても、何故賊が国宝級を盗める筈がないという疑問に対してある可能性がある事に気づいてしまったからだ。
「(もしかして、帝国内で彼等を手引きしたものがいると考えると……もしかて。)」
ふいに、横から肩を叩かれて勢いよく振り返ってしまう。
「うおっ!?、どうしたの?急にこっちがびっくりするじゃあないの!」
驚きながら、怒っているのは志帆であった、よく見たら後ろにもう一人控えているのを見るとどうやら人員の確保には成功した様だ。
「そっちの後ろにいるやつはだれだ?」
よく、見ると赤みがかった短髪で、足軽が身につけているはずの鎧は付けておらず代わりに訓練生が使う制服を着ている、下はズボンでは無くスカートだが足の脛やチラッと見える手からは防具をつけているのがわかる。そして腰に下げている刀は、少し短めで何より気になるのは手に弓矢を持っている事に目がいってしまう。
「あ、この娘は、弓っていうの。私が周りから避けられている中で唯一逃げずにいてくれた良い子なんだから。」
「いえ、別にいい子とかではないんで…。」
弓という子は、必死に否定していた。少し可愛らしく、うつむきがら聞こえるか聞こえない声で。
「さて、それじゃあ。向かうとするか昌月。」
自分達のやりとりを見てから忠幸は、ゆっくりと席から立ち上がり肩を鳴らしなながらめくばせをする。
「そうだな、約束の3時間後にはまだある程度時間がないが向かうとしよう。」
自分に続いて、後の二人もうなづき自分達は食堂から出て、高虎さんがいるであろう足軽大将兵舎に向かう。
「うむ、予定より早く着いた様だな。」
時間を確認しながら高虎さんは、まるでこちらを値踏みする様に自分達を凝視する。
「よく、短時間で集めたものだな、まさかこんな問題児二人と一緒にやりたいという物好きもいたというわけだな。」
朝の時点でいくばくけ余裕がなかった高虎さんがいつもどおりな、雰囲気になっているのはよかったが結局のところ一言余計だなとおもう。
「早速だが、君達の任務を確認するぞ、まぁ厳密にいうと違うから勅命なのだが、盗まれたものも大概なのだから。」
頭を少しかきつつ、志帆が先手をとる。
「もう、それの説明はあちこちで噂になっているからいらないとおもうわ。」
「むぅ、言われてみればそうだな。では直々に命令を下す。」
朝会った時と変わらない高虎さんの雰囲気に気づいた、自分達はすぐに姿勢を正す。周りに忠幸達がいるからなのか、公の場では、これほど淡々とした物言いなのだろうか?
「まず、君達の部隊の面倒を見てくれるのはあの近衛大将殿だから失礼のない様に頼む。今すぐ、近衛府にむかってくれ。部隊の長は昌月で良いのだったな。」
「(勝手に、まとめないで欲しいけど、これ以上拗れても厄介だ黙っておくとするか。)」
そこからも、淡々とした声色で、進めていく高虎に対して志帆も少し怪訝そうな顔をしていた。
無理もない、志帆にとっても自分にとってもこんな高虎さんは見たことがない。元々一緒になる事はなかったから余計にこの居心地の悪さを感じてしまうのだろう。
我ながら自分達は、まだ子供っぽさが抜けていない事を感じながら高虎さんの話をききおえる。
「では、これで私から言う事は終わりだ。後は近衛府で詳しく話をしてくれる筈だ。あまり時間がないかもしれん。馬も用意してあるから、すぐに向かえ。」
冷静であるが感情がまったく読めなかった、事務的な口調で自分達に命令を下す様は、自分の中にある高虎さんに対しての印象が崩れていく感じがする。
すぐに用意された馬の所に向かおうとすると。
「昌月、志帆、こっちにこい。」
手招きしながら呼んでいる高虎さんの姿があった。自分達は、首を傾げながら彼の元に向かうと思い切り、頭を撫で回される。
「っ、にいさん!?」
皆んなより、少し離れたたところではあるが志帆は顔を真っ赤にしているが本気で嫌がっている訳では無かった。
自分も意図が分からず、無言で見上げると高虎さんが不安そうな顔で見つめていたからだ。その目にはいつもの真面目な時のものでも、先ほどの冷徹な目でも無く、自分達の事を心配してくれているのだと自分でもわかってしまうほどに悲しそうだったのを覚えている。
「この件は、何か裏がありそうなんだ、今はまだわからない。だが悪い予感がするんだ。だからもし何かあったら迷わず逃げて欲しい。変に立ち向かったりしないでくれ頼むぞ。」
「でも、それは…。」
何も言わない、自分の代わりに志帆は絞り出す様に声に出すが高虎さんはゆっくりと首を横に振るだけだった。
「今までだって、なんとかしてきたつもりだが今回ばかりは別なんだ。お前達はすぐに無茶をするからこっちからしたら何度肝が冷える思いをしたか、だから一度でもいいから俺を安心させてくれ。」
拝む様にまでとはいかないが、彼の必死さがわからない事はない。その原因を作ってきたのは自分達であまりの身勝手さに業をにやした結果が昇進だったのだろう。だが彼の本心は出来るだけ危険な任務から遠ざけるための理由だったのかもしれない。
そのために。わさわざ自分の部下にまでして守ろうとしたがそれも裏目に出てしまい、この状況が生まれてしまっているのだから彼はやるせ無い気持ちでいっぱいなのだろう。
「わかった…なんかあったら逃げるわ。」
先に折れたのは志帆だった、俯きながら短くうなづきそれ以上何も言わなかった。
志帆に続き、遅れて無言でうなづく。
「そうか、すまん時間をとらせた。ではいってこい、二人の活躍には期待している!」
彼なりの激励の言葉であったのだろう、頭に置いていた手をゆっくりと離し。何も声はかけてこようとはしなかった。
すぐに、自分達は馬に乗り待っている忠幸達と合流し、近衛府へと向かう。
風の様に駆ける馬を眺めながら高虎は短く呟く。
「死ぬなよ、皆んな。」
駆け出す若者達の身を案じながら彼は言わずにはいられない、例え理想論であっても願わずにはいられない。彼等に同じ苦しみを背負わせたくないから。
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