第9話勅命

 今日は、いつもと違っていた。何が違うのかというと。


 「おはよう、昌月!」


玄関から、出てすぐに志帆がいたからである。


引越す前は、よく迎えにきてくれた事があったが彼女が引越してから今日まで迎えにきてくれる事がなかった為、少し驚いている。


 「ん?、どうしたの?、そんな有り得ない物でも見るような目しちゃってさ。」


「いや、少し予想外だったから。」


不機嫌そうに自分を見る志帆に対して、思考を止めていた脳を回転させるが、少し歯切れが悪い答えしか返せなかった。


「もう少し、喜んでくれると思っていたのなー、そんなつまらない反応されるとは思ってもいなかったよ〜だ。」


歩きながら、志帆はまだ少しだけ機嫌が悪いらしく、語尾をうざったらしく伸ばして肩をぶつけてくる。


 「っと、危ないだろ。まったく、でどういう事なんだ?」


バランスを崩しかけた、体をなんとか持ち堪えさせながら、もっとも疑問を彼女にぶつける。



 「どういう事とは?」


「今まで、迎えに来るとはなかったのに、珍しく迎えに来るとはな。また何かよからぬ事を思い付いたわけではないだろうな?」


忘れてはならない。だいたいこの女が迎えにきたりする時は、決まってよからぬ事を考えているときなのだ。いつの日だったか、「私に考えがある。」と言って任せたら毎回とんでもない事をして事態を悪化させている事が多い気がする。


 「そんな私が、厄介事ばかり持ってくるような人みたいに見ないで欲しいのらだけど、軽く傷ついているのだけど。」


 「そんな事、言いつつ人の脛を的確に蹴ろうとする奴が、どこにいるんだ。」


志帆の、蹴りをなんとかガードしながら自分は少しだけ距離を取る。おとなしそうな見た目と真面目そうに見えるが、やっている事は強かで、強引なところとがある。喋りながら的確に脛を、蹴ろうとする器用さまであるのだ。あとしつこい。


 「まぁ、冗談はこれくらいにするよ、別に私が好きでしている事だからね、でもね。」


距離が離れている為、彼女は蹴るのを諦め、視線を自分にあわせ、少しだけ息を整えてから、彼女の口が開く。さっき見せてた軽口を言う感じでは無く、少しだけ重々しく感じた。


 「まだ、昨日言われた事を気にしているのかなって。昌月のお父さん達の関係知っているから、わかるかな、そういうの…だから少し心配になって様子を見にきたの。」

 

少し恥ずかしそうに志帆は俯いたまま視線を合わそうとしないでいた。


もちろん、自分にとって図星であったし、そこまで顔に出ていた事に志帆に心配をさせてしまうとは、我ながらに情けないと思った。


 「す、すまない。気を使わせてしまって。あと、ありがとう。」


間をおかずに、短く謝罪の言葉と感謝の言葉を述べる。

 「いいの!いいの!、私がしたいと思ってしたのだがら気にしないで!それにね。」


言葉を区切り、志帆は少しだけ自分の前に進みゆっくりと自分の目をまじまじと見て。


 「昌月が、元気無いと私も調子が狂うっていうかね、とりあえず今は大丈夫そうで納得した。」


 にこりと、志帆には珍しい満面の笑みを浮かべてから、すぐ自分の横に並んであるく。

 よく、詰めが甘い事がよくあるし、たまにトラブルを持ち込んできたりするが、不意に見せるある頃と同じ笑顔を向けられると、昨日までウジウジ悩んでいた事がバカらしく思えてくる。


 「まったく、志帆。」


「ん?」


「ありがとう、もう大丈夫だ。」


志帆は、何も言わずに、黙ってうなづいて視線を逸らす。少しだけ覗くと頬が赤らんでいたように見えた。その後、「見るな!」と腹を殴られた為しっかりと見えなかったのだが。

 

 

 それから二人で談笑しながら、帝国軍の兵舎へと向かうが、いつもとは違う兵舎へと向かう。


 今日から、自分達は足軽大将として新しく配属されるのだが初日から気が重い、結局のところ半分以上高虎さんの私怨が絡んでいるのと、彼直属の部下として働かされる事になるからだ。


 「一体、お前の兄さんはなにを考えているのか、わからないな。どんな無理難題な仕事をふっかけられるか心配だ。」


「大丈夫だと思うけど、流石に兄さんもそこまで鬼ではないと思う……けど。」


 「おい、そこで言い淀むなよ。不安になるだろうもし無理難題だったら頼むぞ。」


急に自信が無くなる志帆に一応釘は刺しておく。マジで何かあったら頼むマジで。


 「わかってるけど…あんな追い込まれた兄さんは知らないから、保証はできないよ。」


確かに、昨日の様子を見ていたらそう思うが、一日経てば考えも変わっているだろうと願うしかない。



 自分達は、不安な中、足軽大将が向かう兵舎の門をあける。


ギィ、と大将軍府の門とは違い、だいぶ古く時代を感じるものであっだが、それは帝国が設立されてから変わっていないという。


 歴史を感じる門を開けると、自分達は予想していなかった光景が広がっていた。


 そこには、人がいなかった。正確には一人だけそこにいた。その人物は自分達がよく知っている人だった。


 「た、高虎さん?」


高虎さんは、自分達に気付いたのかゆっくりと歩みを進める、その足取りは重く、いつもの高虎さんの雰囲気ではなかった。まるで、体に鉛でも付けたかのようにその場から動けなくなってしまう。


 妹であるはずの志帆でさえ動けずにいる。それほど高虎さんが出している雰囲気は異常であるのであろう。


 「よくきたな、其方ら。」


「(口調まで…。)」


彼の口から出る言葉に重みがあり、口調まで変わってしまっていた。これが本来公務で会う時の高虎なのかと勘繰ってしまう。


 「あぁ、言われてきたからな、それになんだまるでやりあうみたいな雰囲気をかもしだすのは?」


「(一体、どういう事なんだ?、高虎さんがあんな感じになるには、理由があるはずだ。)」


とりあえず、こっちには知らない話だから口調は変えずに普段通りの口調で問う。


 「ふっ、流石だな。肝が据わっているようだな、普通ならかしこまってしまうねだがな。まぁ、いいだろう。」


さして咎める事はせずに一瞬だけ笑みを浮かべだが直ぐに切り替え不機嫌そうな顔に変わる。


「すまんが、悪いが事情が変わってな。これからお前達に頼む事が極秘の任務になる。心して聞いてほしい。」


「極秘任務だと?」


「(これは、もう厄介とかのレベルではなくなってきているな。)」


 聞き返してくる自分に対して、深刻そうに高虎さんは重々しく口を開く。


 「勅命だ。帝国に四つしか無い至宝である鎧が奪われた。お前達はすぐに部隊を編成し捜索隊に加わってもらいたい。なお、部隊編成はお前達にまかせる。最低でもあと二人ほどほしい。」


自分達は、唖然とするしかなかった。


 足軽大将に昇進した瞬間、いきなりの勅命に対して二人で顔見合わせる。


 「はっはっは。」

生気のない乾いた笑いしか出なかった。こうして自分達の初仕事はとてつもなく、大事に巻き込まれてる形で始まってしまった。

 


 

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