第8話葛藤


すっかり、あたりは暗くなってしまい、街にあるわずかな明かりだけが、頼りなく、地面を照らしている。


 あれから、狼玄さんの愚痴を聞いて数時間、もう暗いということで大将軍府をあとにした。

その後、志帆とは別れる事になった。よく家が近いとは言わていたが、最近直孝さんが総督になった為に、家を引っ越す事になり、昔より遠くに離れてしまったのだ。


 昔よく、一緒に歩いた道も今ではひとりで歩かなければならない。最初の頃は少し寂しさがあっだが今ではもう慣れてしまって前ほど苦にはならなかった。


 しばらく、歩き見慣れた建物の前につく。

 

朝とは違い、真っ暗な建物を確認してからゆっくりとドアを開けて中にはいる。

 不用心にも鍵は掛けていない、近衛大将が住んでいる家だ。泥棒が入ってもおかしくはないと思うと帝国の人々は思うだろう。


 実際、庶民からしたら貴族と対して変わらないと思うだろう、その事に嫉妬して嫌がらせをしてくるであろう。

 

 ただ、そんな事は今まで起きた事はなかった。その理由は、親父の人柄だろうか。


 仁義に厚く、公平で民の為に命を掛けていたからなのだ。自分が生まれる前から人々助けていたとよく直孝さんや、帝国の人々から散々聞かされていたからだ。


 誰とでも分け隔てなく、親父は接していた為に彼等からは、恨まれることはなかった、むしろ逆にどんな悪漢達も親父には敬意をひょうしていた。


 なので、ここを襲うとなるとそれは、帝国の民を敵に回すという事になりかねない、そんなリスクを犯してまでやる盗賊まではこの帝国にはまずいないではないだろう。


 それに、もし仮に襲ったとしてもここには取るものはないのだから、必要なものは全て近衛府に移動してある為余り気にかける事はないのだ。あるとしたら食器の数が減っているとかのレベルならありそうなかんじだ。


 相変わらず殺風景な玄関を見渡してから、電気をつけ、直ぐに脱衣所で向い、今日の汗をながす。


 風呂から、上がりそのまま自分の部屋へと向かう事にする、夜ご飯はすでに大将軍府で食べてきている為、あとは寝るだけ。


 「眠れない。」


布団をかぶり、瞼を閉じるがやはり眠ることができない。

 いつもなら、すぐに寝れてしまえるのだが、今日に限ってそれができないのだ。


 「(やっぱり、少しだけ気になってしまうか、自分もまだまだだな。)」


 自嘲気味に、笑みを浮かべてしまう理由は、大将軍府を出る時に親父に言われた事が引っかかってしまう。


 「お前には、お前なりのやり方があるのはわかるが、結局は志帆や高虎に迷惑をかけてしまっている事を考えて行動するべきだ。それに…」


親父は、後ろを振り向き最後にこう告げた。


 「某の、背中は追わなくてもよい。」


もしかしたら、親父なりの労いの言葉だったのかもしれない。自分のペースで進めばよいと。


そう、自分は捉える事は出来なくなってしまっていた。今まで、親父のような立派な武人になろうと必死になってやってきた事が全て無駄に終わったと感じてしまったのだ。


 もちろん、自分のペースで頑張ろうとは、思っていたが周囲の人達はそうではない。


 近衛大将の息子という、持ちたくもない看板を背負わされ、周囲からの無責任の期待まで気にかけなければならない。


 「(まったく、これだからな。親が優秀だと息子も優秀だと思うのはあまり良くないと思うんだよ本当にな。)」


プレッシャーがあった事は事実だ。実際帝国の文官出の人達には、よく言われていた、それでもなんとかやれたのは志帆や高虎さん達、周囲の人達の助けがあったからだと思う。


 それでも自分はあまり納得は出来なかった、納得というよりも自分の中にあるモヤモヤしたものがある、もしかしたら誰もが知っている可能性があるだろうと思う。


 

 自分は、おもむろに椅子に深く座りながら誰にも言っていない本心の言葉が漏れ出てしまう。


「結局、何も言われなかった。」


 一番、認められたい人物に言われていない。それどころか、説教されてしまうとは。もう少し違う言い方があってもいいのでは。と最後の言葉を思い出してしまい、少し気分が悪くなってしまう。


「一体、親父は何を思っているんだ?自分は何も期待されていないのか?」

 

近くにいた、志帆と、直孝さんの関係を見ていたから余計にそう思えてしまう。小さい頃はよく、褒めてもらう事も多かったのだが、軍人になると親父に言った時の「そうか、励めよ。」を最後にあれ以来聞いていない。

 

 「(昔は、帝国の武人として皆に認められていた親父が好きだった、もちろん、それは自分の親父として誇らしかったし、いつか自分も親父のように皆から認められる人に…。)」


「いや…、違うか…。」


短くうめくように、自分はさっきまでの考えを否定する。本当は、そんな立派な目標を理由にしているだけで、話は単純であり幼稚な理由であった。


 褒められたい。ただそれだけなのだ、自分はそれしか望んでいない。「よくやった!」といわれたいのだ。


 「(だが、それも叶わないかもしれんな、元々親父自身不器用な人で口下手なところがあるからな、だがな…)」


理解していても、やはり言葉で伝えてほしい。でなければ自分は今まで何のために頑張っていたのか?分からなくなってしまう。もちろん自分の為にやってきた事でもあるがそれでもと…。


 周囲の人達も認めてくれるが、時々精神的に来るものがある。もちろん、彼等は嫌味として言っている訳ではないのだが、「流石昌景様の息子」だとまるで、なれて当たり前みたいな雰囲気をだしてくる。自分がどれだけ努力してきたのを知らずに皆、笑顔で嫌味なく言ってしまうのだ。


 それが、自分には許せずにいたし、傷ついた事に最近になってわかった。偉大な父の功が自分の積み重ねてきた物を奪ってしまう。だからこそ、他人の評価では、親父とセットで見られている気がする。自分個人では見てもらえていない、解決するには親父からの評価も欲しかった。


  それさえ有れば、自分はここまで悩む必要はないであろうとおもう。むしろそれが心の支えとして安心できる。


 「(まぁ、考えても仕方ないことであろう、それに考え解決できるわけでもない。ここは明日の為に寝るとするか。)」


その後、寝床から起き上がり冷えた水を飲んでから眠ることにした。


結局、認められてない事と、「某のようにはなるな」の真意がわからないまま、いつの間にか寝ていたのだが。親父の真意を知る事になるのは、もう少し後になるが、それがよかった事なのか、悪かった事なのか。この時の自分はその事がわかる日が来るとは思ってもいなかった。


 


 


 

 

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