第6話大将軍府へ

「ハァ〜、やっと終わったー!」

 

身体を、伸ばしながら脱力しきった志帆を目に自分は、式典で用意されていた飲みを飲んでいた。


あれから、式典が終わってから自分達は特にやることもなかったのだがいかんせん腹が減ってしまったのだが、かえって食べるのも面倒くさいので、急遽用意されたであろう出店で何個か見繕い近くのベンチで軽く昼食を済ませようとしていた。


 「それにしても、兄さんの私情が入っているとは言え私達これで足軽大将でしょう?、このまま一気に侍大将までいけるかもしれないわね。」


「いや、そんな楽観的な考えでいいのか?、それにあの私情ダダ漏れの兄の直属の部下になるんだ、きっと厄介事を押し付けられそうだ。」


 志帆の楽観的な考えを自分はたしなめる、彼女のこういう前向きな所は助かるのだが、いかんせん後先の事は全て片付いてから考えてしまうのだ。


 「(それでも、ある程度の自己処理は完璧なくこなすのだが…、抜けているところがあるから高虎さんがあんな残念な人になる原因なんだよな〜。)」


「(自分は、一度も自己処理の書類を目を通したことが無い、むしろ見せてくれない。)」


どういう訳か、彼女に「確認させてくれ」と言っても首をたてにはふらなかった。むしろ顔を真っ赤にして抵抗してきた、一度だけ強引に奪い取ろうとしたら数メートル吹き飛ばされた事があった。


 「(昔高虎さんに聞いたら、顔青ざめて「あいつに殺されるから」とか言ってけな。とりあえずさわらぬ祟りは何とやらだこの件はまたいつかにするしかないかな。)」


出店で買ってきた、パンを頬張っていると志帆がこちらを見ている事に目をしかめる。


 「ど、どうしたんだ?一体?」


「いや、よく考えたら、足軽大将って一体なにをするのかしら?、部隊を持って指揮するのはわかるけど、具体的には何を、するのかしら?」


「あ〜、確かに大体の人は足軽頭で終わるからな仕方が無いかもしれんな。」


帝国での、軍隊の階級は比較的複雑では無い。一般に軍の入隊試験を受けたものが始めるのが、足軽、足軽大将、侍大将、近衛大将、帝国総督、大将軍だったが、ベテラン足軽からの苦情で足軽頭が、足軽と足軽大将に入る形になり、現在七階級にわけられている。

 一般に、帝国の皇帝の代理人として総大将を務めるのは大将軍だ、帝国総督は普通は軍の総大将なんだが、帝国ではほぼ、軍を統べる事はない。むしろ軍内部の政治に力を入れている。軍政のトップで他国で言うと国防大臣みたいなもんだ。

 

近衛は、皇帝の側近であり、警備の長官である。そのおかげで三番目の地位にいる。

この三つのバランスが均衡しているので今は軍内部で不穏な事は起きていない。

侍大将は、一軍の指揮官で、その下に一部隊の指揮官が足軽大将で、自分達がいる地位はここだ。

 

ちなみに朝、出会った門を守っている人達は足軽頭で、足軽でも特殊な任につく人達や、ベテランで新米の兵達に訓練を行う教官役がこの地位につく。

 

 「(たしかに知っているのはそれだけ、しかも軍事の時だけで、平時の時は全くしらないな。)」


 食べながら、少しこれまでに軍であった内情を思い出してみることにした。



 「(そもそもの話、地位が上がってもやる事は余り変わらないとは思っているのだが、周りに足軽大将でどんなことをするのか聞ける人もいなかったからな余計にか。)」


 元々、足軽大将になれるのはごく一部である。


 帝国が建国されてから、何百年間大きな戦がなかった為に、軍縮の動きが出始まっている。さらに現在の皇帝は経済に目を向けている為に、余り国防に関して関心が無いらしい、その為今、軍の実権を握っているのは、大将軍、総督、近衛の、三代派閥が舵を握っているのだが、それでも軍縮を止めるには厳しいらしい。

 

少しでも、無駄を無くしたい皇帝の目を掻い潜るには、昇進をさせない様にする方針をとるしか無く、年に数名しか昇進できない。

 さらに、それも厳しく名家出身だろうが平気で落とす。実力があっても名家でないと落とす。さらにコネや賄賂も通じないという徹底ぶりであった。



 元々足軽での給料がよかったが、昇進できないベテランクラスから批判の声が出始めて、去年あたりから足軽頭の地位が新しく作られた訳だ。


 つまり、ほとんどの人は足軽頭以上の人達が普段何をしているかわからないということなのだ。

さらに困難なことに軍の服装は皆同じであり、誰がどんな立場なのかわからないまである。


 「(まぁ、侍大将とかなら、別だがな、とりあえず明日にでも、説明はあるだろうから聞いてみるしかないのかもしれん。)」


大方の考えをまとめ上げ、口に含んだ食い物を、スープで流すと、近くで、たくさんかってきた欲張りセットみたいな量を平らげた、志帆にこえをかける。

「さて、志帆そろそろ帰るとするか。」


「あ、そういえば。」


二人して、ベンチから立った瞬間、彼女は何か思い出したように呟く。


 「な、なんだいきなり、まだ食べ足りないのか言わないよな。」


「そんな事ではないの、よくよく考えれば私達、父さん達に挨拶してないから行かないと。」


「あー、でもさっき会ったから別に…。」


適当に、流してその場を後にしようとするが、ガッツと彼女の両手が、自分の腕をガッチリ固めて、逃げられない。


 「オイ、行くなら一人で行ってくれよ、別に親父に会う必要は無いだろう?」


「でも、おじさんには頼まれているから、責任もって面倒見るのが、私の仕事なので。」


彼女は、じわりと力をこめながらにこやかに告げてくる。胸とか、当たっているのだがそれと同時に激痛が増してきて複雑な気持ちになる。


 「イデデデデ!?、わかったよ、行くから離してくれないか!?。マジで折れるから!、それにどこに向かうつもりなんだ?!」


痛がる自分を無視して、この女はにこやかに。


 「大将軍府に行くの!、多分あそこに三人ともいると思うから、それじゃあ、いこっか!」


親戚かおじいちゃんの家にでも行く様な口ぶりな彼女に、自分は血の気が引いていく。

 大将軍府、三派閥のひとつの本拠地にアポなしでむかうからだ。


 「(誰か、この女を止めてくれ〜。」


悲痛な願いは、届かずそのまま引きずられながら大将軍府へ向かう。



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