第4話昇進という名の罠

広場の方では人がたくさん集まっていて式典の準備に取り掛かっている。

軍関係者だけではなく、街の人達も一緒になって準備に協力していた。


 忙しなく手を動かしている彼等から離れ、昨日のうちに説明されていた、式典用に作られた控え室へと向かう。


少し迷いそうになるが、控え室近くに一人だけ受付の兵士が立っていた為なんとか遅刻するなくたどり着くことができた。そのままゆっくりと近くにあったイスに腰をおろす。


 「はぁー、なんとかたどり着く事ができたか。まったく昇進だけの簡易的式典なのに、なんでこうも大々的にやるのかね、この国は祭りでもないと言うのにな。」


幸い誰もいないと思い、これみよがしに愚痴をこぼしてみる。誰もいないし、受付は外だしここで思い切りハメを外す事を言っても。


 「まったく君はなにを言っているんだか。」


「うん、誰だってうわぁっと!?」


うしろから聞こえてきた声の方に顔向けた瞬間、イスから飛び上がってしまった。


 「な、なんで!?高虎さんがここにいるんですか!?まだ何もしてないんですけど」


「その口ぶりから、またなにか無茶な事でもするつもりかは、また後で聞くとしてだな。実はもう一人昇進するものがいてねそいつの付き添いできているんだよ。」


「うん、えっとそれってつまり…」


自分が何か言い終わる前に、そいつは出てきた。


大人しそうな、雰囲気とは矛盾する明るい赤い髪色で、瞳はこちらの事を見通すように澄んだ黒色で少し華奢な体を黒の軍服が少しだけ補っている様に見えたが、短いスカートがよりいっそ弱々しくみせていた。


「おい、マジでかよ…」


「開口一番に、その発言は無いと思うのだけど…まぁちょっとしたサプライズのつもりだったのだけどおどろいたかしら?」


「驚いたというよりも、複雑な気持ちだ。」


悪態をつく自分にたいして、彼女の眉が少しつりあがる。

「何よ、せっかく驚いてくれると思っていたのにこんなの肩すかしじゃない!」


「やっと、うるさい奴から離れられたというのにまた一緒だということにだ!、何か高虎さんのコネでも使ったのか?」


「失礼ね、これは私の実力で成し得た事なのよ。」


「(おいおい、あの試験を合格するのに自分は結構な思いをしたというのに…、でもそういえばコイツ自身地頭は良かった方だったしな、案外余裕だったのかも知れないな。)」


自分は改めて、彼女の服装に違和感を感じ、マジマジと凝視する。

 「ど、どう似合っているかしら?」

少し顔をあからめ、上目遣いで聞いてくる。彼女に対して一瞬可愛いと思ってしまったが。


「いや、もう少しなんだけどな〜、もう少しなんだ、ガガガガガガっ!?」


嫌味を言ってやろうと思った矢先に思い切り頬をつねられてしまう。

「アンタの言いたい事は、わかっているからそれ以上言わなくていいわよ!」


どうやら自分の考えている事がわかってくれるとは流石長いこと苦楽を共にしただけの事はあるがそろそろ引っ張るの辞めてくれると助かるのだが!?


「ワッ、ワハッハ、ハラ、ハワヒイへェフレー!」


そこまで彼女も怒っているわけでも無く。やっとのことで離してくれた。


「で、お前がここにいる訳はわかったのだが、何かよからん事を考えている訳ではないんだろうな志帆さんよ。」

引っ張られた頬をさすりながら彼女の名前を恨みを込めて呼ぶ。


名前を呼ばれ彼女本人は鼻歌を歌いながらその場でゆっくり回ってから向き直り指を一本ビシッと!こちらに向け。

 「ご明察!」

にっこり満面の笑みで答えてきたか、これはコイツの保護者に説明責任を果たしてもらわないといけない気がするな。

「……ッ……。」

「辞めろ、そんな目でこちらを見るんじゃない。だがこの件の半分はお前にも責任があるんだよ。」


「おい、それ一体どういう事な、んだ?」

 そこで歯切れが悪くなってしまった、確かこの時期に二人の昇進が重なる事が偶然であまり片付けられないそもそも二人共訓練とちょっとした山賊退治しかしていない……あっ。

「ま、まさかそんな事はしない筈ですよね?」


「いや、察しがよくて助かるよ、本当。」


高虎さんは笑っていた、笑っていたが目は笑っていなかった。掠れた乾いた声が少しだけするだけで何か凄く嫌な予感がする。


思い切り志帆の方に振り向くが、やれやれといった感じで舌を出すだけだ。もう既に彼女なりにてを尽くしたらしく。どうにもならなかったようだ。


どうやらここに呼ばれた時点で罠だったらしい。てかこんな軍全体でやる事でもないだろう普通!?


「さて、今回の昇進の件は本当だ。二人共この一年のうちに類まれな功績を作り上げてきた。軍内部でも贔屓とか無しで君達の事は評価が高いんだ。」


 「(あぁ、そういう事か。)」

 じぶんは、彼がなにを言おうとしているのかを理解してしまう。理解したら最後、やる事はひとつその場で正座し流れにまかせるだけだ。


 「だが!、それ以上に君達二人は!やらかし過ぎているんだ!、必要以上に建物を壊したり、山賊どもを盾に使いながら攻める鬼畜ぶり!、俺がどれほど各方面に頭を下げているのか!」


「(あー、素が出てるぞ、これでも帝国の若きホープと言われた人なのか、この部屋に誰もいなくてよかったね。)」


「これでは、陛下や父上達に申し訳が立たない。それに私の仕事が進まない!そこで、若輩だが君等二人を昇進させある程度責任を持ってもらうことにしたということだ!」


「(あー、ようするに、少しは俺の大変さを知れと言うことか、しかしここまで、キャラが壊れてしまうとはそこまで追い込んでいたとはな。)」


ちらっと、志帆の方を見ると豹変した兄がいたたまれないのか顔を逸らしていた。


 「あー。」

もはやかける言葉は見当たらない、自分は彼女を見なかったことにする。


「まぁ、昇進するのだから、君には部隊を率いてもらう。」


「部隊ですか?」


「あぁ、そうだ、そのために私がきたのだ。」


「(嘘つけ、半分以上は私怨が入っているだろうがコイツ。)」


「君達、二人をバラバラにしても意味ない事は、知っているから、部隊は一緒にしそこにいるトラブルメーカー原因その二である妹を副官につける。」


実の兄にトラブルメーカーとまで言われた妹さんは何も言わず黙っていたが。何か聞き取りずらかったが「ヨッシャ」と小さくガッツポーズをしていたように見えたが気にしないことにしよう。


「あとひとつは、君達は私の直属の部隊となる事は決まったのでな、これからはいろんな仕事を君達に任せようと思う。」


「「えっ?」」


二人して、声がハモってしまう。


戸惑っている自分の方に高虎が優しく手を置き。


「これからは、直属の部下になるんだからよろしく頼むよ」


そう言うと悪魔は、「もうすぐ式典だから二人共早く準備するんだよ。」とそそくさと出ていった。


「ハァー、こんなのありかよ。」


今更逃げてもどうにもならない。ここは諦めてこの流れに乗るしかないよな。


 自分達は、限界をむかえた一人の人間が豹変してしまう事を教訓とし、とりあえず式典が終わったらメンタル面での軍医を探す事を誓った。


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