第106話 容態

「っお母さん!!」


「皐月!!」


私と父が倒れている母に駆け寄る。

母の横にはシロがいて母の頬を舐めて起こそうとしている。


父が母を仰向けにし抱え私がシロを抱えた。

シロは私の腕に包まれるとゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らした。


「メルディス、回復魔法を頼む!!」


「分かりました。 治癒ヒール


メルディスさんが魔法を唱える。

青ざめていた母の血行は変わらない。


「なんで……!! メルディスもう一回だ!!」


父が焦ったようにメルディスさんに頼みもう一度魔法を使ってもらうが変化は見られなかった。

むしろ先ほどより顔色が悪くなった気がする。


「優介落ち着きなさい……これは……」


魔法が聞かない状態にメルディスさんが何かに気が付いたようだ。


「落ち着いてられるか!! 俺が何のために離れたと思ってんだ!! 皐月が居なくなったら……全部意味ないじゃないか!! 俺がもっとよく見ていれば……」


父の悲痛な叫びが家中に響く。


「お父さん……」


「ユースケ……」


「治療できないとは言っていませんよ、この症状には覚えがあります」


メルディスさんが近寄り母を観察しながらそう述べる。


「治せるのか!?」


「はい……これは魔力中毒です」


「魔力中毒?」


聞きなれない言葉だったので同じ言葉を返した。


「はい。 あちらの世界でも魔力に耐性の無い人族がかかってました。 優介も見た覚え有りませんか?」


「あ……」


覚えがあったのか呆気にとられたような顔をした。


「この症状が出たら治癒ヒールを掛けたら逆効果になります、それは知ってますよね」


「あ……あぁ……ならば」


父がゆっくりと母を床に寝かせ胸元に手をかざした。


魔力吸引マジカルドレイン


正解です、と言うようにメルディスさんが微笑みを浮かべ頷く。


父がそう唱えると母の体からゆらりと靄のようなものが出て、父の手に集まっていった。


「!! 顔色が!!」


靄のようなものが父の手に集まる量が増えて行くとそれに比例するように母の顔に血の気が戻っていった。


父がその靄を母から離すと、その靄が父に吸収されていった。


「これで大丈夫なはずです」


「魔力中毒って何……ですか?」


母の具合が良くなったことに安心すると私はメルディスさんに尋ねた。

父は神妙な顔つきになった。


「魔力中毒って言うのは、魔力に耐性の無い者が長時間魔力に接することにより中毒症状を引き起こす状態です」


「……どういうこと……ですか?」


「これはお酒を例にあげた方がわかりやすか……。 アルコールに対して強い人もいれば弱い人もいる。 それは分かるか?」


メルディスさんに代わってお父さんが説明せてくれた。


「うん」


「魔力にも同じことが言える。 この世界には元々魔力が無かった。 ダンジョンが出来、職持ちが現れ、スタンピードが起こり世界中に魔力が溢れたんだ」


なんか壮大になって来たよ。

ちょっと着いていけるか不安になってくる。


「魔力を放出するすべがないまま体には魔力が徐々に蓄積していく。 それが身体を壊すんだ」


食べ物を食べて出さない感じ? ……なんかしっくりこないな。

んー風船に空気を入れ続ける感じ? それなら分かるかも……って…


「……ヤバいじゃん!! 治す方法とかは無いの?!」


「治す方法は……今俺がやったように魔力を強制的に吸い出す方法しかない」


「え? ……お母さんは……治ったん……だよね?」


「対処療法しかないから根治は不可だ」


父が沈痛な面持ちでそう告げた。


「そんな……」


「魔力が貯まったら吸い出すしかないのですが……優介、魔法防御の指輪はありますか?」


「あ……あぁ、ある。 そうか吸わせなければいいのか」


父はかなり動揺しているようだ。

メルディスさんから言われマジックバックを漁り小さな宝石の付いた細い銀色の指輪を取り出した。


それを寝ている母の指にそっと嵌める。

指輪は母の指に合うように縮んでいった。


「これでしばらくは大丈夫なはず」


「指輪……?」


「あぁ、魔力による攻撃から身を守る指輪だ。 全部防げるかどうかは分からないが今よりはずっと魔力を吸収しにくくなるはずだ。 定期的に様子を見て吸い出しに来れば突然倒れることは無くなるだろう」


「そうなんだ」


その言葉に安心しすやすやと寝息を立てる母を見た。



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