第105話 異変




見れば床に猫らしき者がウロウロしておりその先を進めば何やら女性が倒れていた。


「お母さん!?」


「皐月!?」


落ち着かせるどころか余計に不安を煽ってしまったようだ。


「お母さん!! お母さん?!」


姿見の魔法越しに声を掛けるが反応は無い。

どうやら倒れているのは優介の妻らしい。


「お父さん!! お母さんが!! どうしよう!!」


「ミーリア今すぐここに転移を!!」


「えっと……ユースケいいのカ?」


「ミーリアお願い!!」


ミーリアに詰め寄る2人。


「2人共待ちなさい。 息はしているようだから一旦落ち着いてください」


それを止めようとすると


「落ち着いてなんかいられないよ!!」


悲痛な叫びが優奈から漏れた。

こちらを向いてくれたので安心させるように微笑みむ。


「私は回復魔法が使えます。 優奈さんも回復薬を持っているのでしょう? なら生きてさえいれば救えます、大丈夫です安心してください」


「そっ……そうなんですか?!」


「はい」


目を閉じ姿見に映された場所の様子を魔法で探る。


見えない場所に何者かが潜んでいる場合がある。

この後ミーリアの転移で赴く際、危険を取り除いておく。


探知魔法をかけるがこの家には猫と優介の妻以外居無さそうだ。

ついでにこの家に掛けられた保護魔法の過保護っぷりに呆れてしまった。


「優介……」


あちらの世界での優介の境遇を思えば家族に対する思いは当然かとその後の言葉を噤んだ。


「ミーリアここに居る皆をこの部屋へ連れて行ってください」


「分かっタ」


優介の剣幕と優奈の狼狽えっぷりと私の制止の間で狼狽えてたミーリアに許可を出す。

本来であれば師団長同士の権力に差は無く同等で命令されても聞く必要はない。


目覚めてからミーリアは優介を頼りにしてきたのであろうが私の方が長く時を過ごした。

信頼関係は私の方が上だ。


そしてミーリアの転移魔法により姿見に映された部屋へと移動した。




+++





優奈が消えて亘理室長から情報を貰い、魔族と対するためにダンジョンに潜ってレベルを上げる日々が続いていた。


そんな中で最近母の様子が可笑しい。


初めは連絡のつかない父や安否が分からない優奈を心配して心労が祟っているのかと思った。

優奈が残していった快復ポーションは上級を作るのに使い切ったらしく下級しかなかった。

すぐさまそれを飲ませた。

一時的に良くなったと思いきや、すぐにまた症状が現れ快復しなかった。

私も治癒の結界を掛けたが変わりなかった。


せめてもと私も長期でダンジョンに潜るのは止め早めに家に帰り家事炊事を率先して行うようにしていた。


「ありがとう遥」


「いいよ、具合悪い時はお互いさまじゃない」


「私は早めに休むわね」


「うん、お休み」


そう言って母は早くに寝ることが増えてきた。

ただ、朝起きることもしんどい様子でここ最近私が起こしに行っている。


「……もう朝なのね」


「おはよう、大丈夫? おかゆ作ってあるよ」


「ありがとう」


母がご飯を食べている間にシロにご飯をあげる。

シロも最近調子が良くないようだ。


ご飯を残すことが増えてきている。


「お母さん、私そろそろ行かなきゃいけないから食器は流しで漬け置きだけしておいてね。 病院の予約は何時からだっけ?」


「分かったわ、ありがとう。 検査の予約は10時からよ」


「そう、気を付けて行ってきてね。 じゃ、行ってきます」


「分かってるわよ、遥も気を付けていってらっしゃい」


今日は体調の悪い母が病院で検査してもらう日だ。


悪い箇所が見つかり治療で完治すればいいのだけれども……。

せめて上級……中級快復薬が有れば……。

提出した上級快復薬は返してもらえなかった。

当たり前と言ったら当たり前だ。

提出する前に症状が出れば使えたのにと後悔が残る。


はぁ……とため息が漏れた。


母もこんな状態じゃレベル上げも順調には行かない。

気持ちに影がさす。


母やシロも居なくなったらどうしよう。

少し前まで楽しかったのに、こんなことになるならもっと大事にすればよかった。

悪い想像ばかり膨らむ。


バチンッ!!


弱気になる自分に活を入れるように両手で頬を叩き気合を入れる。


くよくよしたってどうしようもないじゃない。

目標ははっきりしている、めそめそしている時間があるなら限られた時間で効率よく強くなれる方を考えなきゃ。


そう気合を入れなおし歩きを止め駆け足でダンジョンへと向かった。





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