第107話 現状





「お父さん私家に残りたい」


「駄目だ。 ミーリア戻るぞ!!」


ソファーですやすやと寝息を立てる母、先ほどの顔色を思い出し、いつ病状が豹変すると知れない母と離れて暮らすのが怖くなった。


だが父は頑なに拒否の姿勢を貫く。

ミーリアは首を傾げてた。


「ヤダ!! 私お母さんの傍離れたくない!!」


「ここに残ったらどのみち離されるぞ!!」


「それでもヤダ!!」


元々あっちでだってこちらに来るために魔力回復薬を集めてたんだもん。

もうここに居るなら別に良い。

それよりも離れたくない!!


「ここに居ても材料持ってきてもらったら上級魔力回復薬作れるもん!! お父さんの方が効率よく集められるでしょ? 魔族の人達だってダンジョンに潜ってるんでしょ? 私がこっちに居ても良いじゃん!!」


「ここだと優奈が危険なんだ!!」


「私だって強くなったもん!! 誰か来たらぶっ飛ばすもん」


どちらも引く姿勢を見せない。


「優介、優奈落ち着きなさい。 母君が起きてしまいますよ」


宥めるような落ち着いた声色でメルディスさんがそう言う。

その言葉に私と父は母を見た。

すやすや寝息を立て続ける母をみて胸をなで下ろす。


「話の流れが掴めませんが……優介は優奈を無理やり連れだしたのですか? すり合わせの時は危険が迫ってたから保護したと伺いましたが」


「……心配だったんだ」


メルディスさんにそう問われ、保身に走った自覚があるらしく気まずそうに答える。


「それで優奈さんは家に居たいと」


「お母さんをこのままにしていられない」


「この症状は回復薬でいったん症状は治まりますがすぐに症状が現れます。 強くなった分魔力が強くなった優奈さんが側にいるのは得策ではないですよ」


「……そうなの?」


「優介は魔力を抑える訓練をしたので平気ですが優奈さんは駄々漏れの状態です。 こちらに居ると魔力の濃度がさらに上がる恐れがあります」


「ぇえ……」


「とはいえ……この症状がどこまで広がっているのか情報が欲しいですね。 対処できる人間がこちらに居ないとなると、原因が特定された場合魔族の立場が危ういものになります」


「……それならテレビで何かやってるかも? あ、私のスマホでもちょっと検索してみます!!」


そう言って私はスマホを探すべく自室へと向かうべく階段を駆け上がった。




『最近流行っている謎の倦怠感を伴った病について迫っていきたいと思います。 今日お越し頂いたのは県立大学病院の末雲教授にお越し頂きました。 末雲教授よろしくお願い致します―――』


私が自室に入るとなにやら部屋が散らかっていた。


「スマホスマホ……? 私どこに置いたんだっけ? ってなんか部屋散らかってる?」


机の引き出しや椅子も出しっぱなし、ベッドは毛布がめくれている。

棚の一部は何かが無くなったようにぽっかりと空いている場所がある……。


「あそこに何を置いてたんだっけ?」


疑問に思ったがそれよりもスマホの方が大事だ。


ベッドの横の充電器周りを探すがスマホは見つからない。

机の上も見るが無い。


テーブルの上にももちろんない。


ベッドの毛布を引っぺがすが無い。

隙間に落ちているのかと思いきや良く見えない。


「んー見えない……あぁ!! 回復薬の箱!!」


隙間に顔を寄せ懸命に覗き込んでいると脳裏に回復薬の箱が思い浮かんだ。

それと同時にバッと顔を上げ棚の方を見る。


「え?! アレに回復薬一式入れてたんだけど?! どこ行ったの!? ノート……ノートはある!?」


慌てて机に向かい引き出しを開ける。


「ノートもない!!」


今まで変換したレシピを書き留めていたノートも消えていた。


「泥棒?! え?! どうしよう!!」


スマホを探している場合では無くなってしまった。


姉が持ち出したとつゆ知らずに慌てて階段を駆け下りる。


「お父さん!! 家に泥棒入ったみたい!!」


「……」


ドアを開けてそう言えば皆テレビに集中していた。



「あれ?」


お父さんもメルディスさんもミーリアもテレビをじっと眺めている。


泥棒よりも優先しちゃうの? と疑問に思いつつ視線をテレビに向けた。


そこに映っていたのは人が溢れんばかりに押し寄せている病院の風景だった。




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