第48話 亘理の受難





ダンジョン攻略室



「ようやくダンジョンに入ったかぁ……」


「室長、顔」


「指摘が短すぎるぞ」


パソコンに入力しながら三波から指摘が飛んできた。


予算が下りて職持ちを雇用するまではこぎつけた。

鑑定士のスカウトも順調に進んでる。

だが、職持ちが知れ渡ったおかげで企業からの勧誘もあるらしい。


まぁ……それは当然だな。

特に回復職は、現代医療では治療が出来ない者も回復できる可能性があるため、とんでもない額が提示されているらしい。

ただ、現状ダンジョンに潜る権利は国が保有している。

ダンジョンに潜れるというのは、職持ちにとってかなりでかいアドバンテージだ。

今のところそれによって雇用者の離脱は防げているが……天秤が金銭に傾く者もでるだろう。

それは一個人の問題だ。 

個人が辞めると言ってしまえばこちらには留め置く権利もない。

国で強制的に所属させる法律はないからな、今後ダンジョンなんて危険なものから遠ざかりたい者も出てくるだろう。


後、他国の職持ちの情報が欲しい。

外務省ルートで要請しているが返答が来ない。 

当たり前か、その情報を開示すると言う事はどの程度戦力を有しているかも開示することになる。

だがダンジョンを攻略するうえで情報が欲しい。


他にもこれはどうでもいいことだが……。


「いい加減『職持ち』 から名称変更しろ。 紛らわしいんだよ。 んなことで時間取ってるなら仕事しろ。 他国から情報取ってこいや」


「室長?」


「ついでに『モンスター』 の名称もはよ決めろ。 何が『魔獣が良いかな? それとも魔物が良いかな?』 だ。 くっそどうでもいい。 仕事しろ」


「声に出てますよ」


無駄な会議にリモートで出席させられ、延々と無駄な議論を聞かされた。

音声をオフにしては笑顔で悪態をつき、今後の予定を考えながら無駄な時間をやり過ごした。


予算は……その前に職持ちの実力把握が先か。

雇用している職持ちがダンジョン攻略出来ればでかいぞ。

まだ人数が少ないが、班編成を行い、地方ごとに配置できれば自衛隊に出向隊員として人の貸し出しをし、自衛隊から予算を持ってこれる。

それをこれから雇用する人材の費用に充てれば人数は増やせるな。

ともすれば自衛隊との契約書を交わさないといけないな。 

今度夕食を取りながらいくらまで引っ張れるか探りを入れるか。

それに伴い見積もりも作成しなければいけないな……。

資料を集めなくては……。

……ん? 今の『門』 に駐在させている人件費はこっち持ちになるのか?

藪蛇になるのか?

うわ……突きたくねぇ……。

今のところ費用請求は来てない……な。

三波君が纏めてくれた請求関連の資料を見る。

よし、来てない。

今はまだ知らんぷりしておこう。




予算と言えばダンジョンから集められたアイテムの先も考えなければならないな。

流石に素人の私の判断では今後に差し支える。 

上からの指示は今のところ降りてない。

これからダンジョンにも潜るようになる。 

‥‥それらを管理する保管庫や設備も整えねば。

在庫管理のシステム化も必須か?

開発費いくらかかるんだよ……。


アイテム販売は経団連に渡りを付けられる経済産業省に話を持って行ってもらうか?

そこで企業への販売ルートを確保できればそちらからの利益で備品などを補えるな。

あーでも金銭を決める時はおれも出席しないとダメだな。

上に任せたんではなあなあで曖昧になりそうだし、若すぎると買い叩かれかねん。

そこのたたき台が出来たら販売部門を立ち上げて仕事を割りふれる形にしないと。

販売部門だけでなく倉庫課も必要か?

在庫管理も大変な量になるぞ?

そんで人が増えれば総務も必要だ。

人件費の管理や契約関連も専属で人が欲しい。


何よりいつまでも自衛隊の駐屯地で間借りする訳にもいかん。

とすれば土地の確保や工事業者とのやり取りも必要になってくるな……。


あぁ……。


「人が欲しい。 出来れば俺の仕事を全てフルオート化してくれる人材が」


「室長が3倍頑張れば宜しいのでは?」


「存外に赤くなれと言う事か?」


そう言って三波君が私の机にどさっと書類の束を置いた。


「前日分のコールセンターから上がって来たまとめです。 それと備品の購入の稟議書が完成しましたのでチェックを、それと機材の見積もりが業者から届きました、後、月内の中間予算案の資料のまとめも入っております。 作製するのに必要な資料が全て入っているかどうかの確認もお願いします。 それと会食の予定もいくつか来てましたのでご確認ください。 あとこちら、お目通しの上承認お願いします」


「三波君は……鬼か?」


「……人ですが?」


「いや……すまん」


三波君に無感情な瞳で見つめられつつ、ため息を吐き渡された資料に目を通すのだった。



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