第10話 草むしり


「朝!!」


ハッ。 隣に姉が寝ているのを忘れて声を出してしまった。


そっと姉の様子を伺い見る。 大丈夫寝ているようだ。

スマホを見ると朝5時だ。

姉が起きるまで日課の草むしりの旅に出よう。


起こさないようにそっとベッドから降りると着替えて草むしりをしに出かけた。



「お姉さん、コジロウおはよう」


燃えるごみの袋にむしった草を入れていると犬見知りのコジロウと顔見知りのお姉さんが散歩にやって来た。


「今日は遠くの公園なのね」


「あの公園……綺麗になっちゃったので」


「その言い方まるで綺麗になっちゃダメみたいね」


草や土だらけの両手でコジロウが汚れないように腕を広げる。

ノーガードの顔に向かってコジロウが突進してきた。


「コジ……コジロウ!! 武士の情けを!!」


「断るワン」


穏やかなお姉さんの優しい声で一刀両断された。


「断られた!! 無念じゃ」


なすがままに顔をこすりつけられ、コジロウが離れる頃には、夏毛に生え変わりつつあるコジロウの毛で顔や服が毛だらけになった。


「コジロウって優奈ちゃん好きだよね」


「本当ですか? コジロウもっとやって!! 私も大好き!!」


覚悟を決めて、さあもう一回来いとコジロウを呼ぶ。

だがコジロウはお姉さんの横に座った。 その顔は、少し引いているように見える。


それは「あ、そういうのは間に合ってます」 って顔だ。 私達相思相愛じゃないの? その証拠に毎回毛まみれにするじゃないか!?


そんなやり取りをしていると、お姉さんが最近持参してくれるようになったコロコロで毛を取ってくれた。


「ありがとうございます」


「いえいえ、いつもコジロウがごめんね」


「私もコジロウ大好きなので平気です」


「そう言ってくれると嬉しいわ。 ……っとそろそろ行かなくちゃ。 じゃあまたね優奈ちゃん」


「はい。 また~、コジロウもまたね」


手を振り見えなくなると、袋の中の草を見て、ちょっぴり傷心の私もそろそろ家に帰るかと準備をした。




家に帰ると姉も起きていて私の姿に驚いていた。

庭に袋を置きその上に軍手を置いた。


軽く草を払い家の中に入るとシャワーを浴びる。


「スッキリした―。 おはようお姉ちゃん、お母さん」


「おはよう優奈、朝から何してんの? 朝起きていないからびっくりしたよ」


「優奈は最近草むしりしてくれるのよ。 おかげで庭が綺麗で助かるわ」


「えへへ」


「さあ、朝ごはんできたわよ。 そっちのテーブルに運んでちょうだい」


「「はーい」」


キッチンカウンターに置かれたサラダやお味噌汁、ごはんを姉と二人でテーブルに運んだ。

母もリビングに来るとテレビを付けて席に座った。


「「「いただきます」」」


三人で朝食を食べる。 そんな中テレビのニュースが流れた。

例のモニュメントに関するニュースみたいだ。


「政府はこちらの謎のモニュメントを撤去する方針だと発表しました。 今日から一カ月間持ち主が現れない場合強制撤去を実施する旨を発表……」



「……持ち主て……」


「どうやって判断するんだろうね」


呆れたように感想を述べる姉と私。


「駅や公共施設に出来た物もあるみたいだし、撤去するにしてもすぐに出来ないんじゃないかしら。 ほらお役所って色々手順を踏まないといけないでしょ」


「あぁ……」


このニュースが報じられてすぐにモニュメントは人目に付かないよう飛散防止ネットのような物で覆われてしまった。

発表からネット設置までのその速さからSNSでは「#政府の本気」 というタグが出来ていた。



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