第15話 私が使える魔法は?(後編)

「では次は、シャーロット・エバンス・テイラー」


ハッとして私はストーンサークルの方を見た。

私の次はシャーロットだったのか?

シャーロットはストーンサークルの中に入ると「植物の魔法を行います」と小さく呟いた。

彼女は両手を組み、何かに祈るような仕草をした。

だが五秒、十秒経っても何も起こらない。


(おかしいな。シャーロットは魔法は得意だったはずなんだけど)


私は『フローラル公国の黒薔薇』のチュートリアルの知識を思い出していた。

それによるとこの後の展開では、革命勃発時に彼女の『革命軍の仲間の姿を急成長させた森で隠す』『大量のイバラで帝国軍を一網打尽に絡めとる』などの大規模魔法と使っていたはずだ。


そう言えば、このルイーズも迷路のような地下通路を使って逃げようとするんだけど、シャーロットが暗闇を照らす魔法と、ネズミと会話する魔法で捕まえたんだよな。


一分ほど経っても何も起きない。

シャーロットは一度両手を降ろし、大きく深呼吸してから再び両手を組んで、小さく何かを唱えた。


すると周囲から土の中から、何かがモコモコと生えてくる。

「なんだろう」と思ってみんなが凝視する。

それらは大きく傘を開き、立派なキノコとなった。

色鮮やかな大小様々のキノコが、サークル内一杯に生えた。

キノコの森だ。

人の背丈ほどもあるキノコ、光るキノコなど見た事もないキノコもある。

それらがフワフワと胞子を漂わせる。胞子自体も赤や青や黄色に光り輝いて幻想的だ。


「シャーロット、よく解りました。もう魔法を解いてけっこうですよ」


リー先生がそう言うと、シャーロットは組んでいた両手を解き、再び大きなタメ息をついた。

それと同時に、見事に咲き誇っていたキノコが、急激に萎れて崩れていく。

ものの数秒で、キノコの森は元の草原に戻った。

ストーンサークルを出た所で、リー先生がシャーロットに尋ねた。


「ミス・シャーロット。最初は何を出そうとしていたのですか?」


シャーロットは何かを言いにくそうに、俯いて口をモゴモゴさせた。


「あなたの様子を見ていると、最初からキノコだったようには思えませんが?」


リー先生が再び尋ねると、シャーロットはチラリと私を見た後、ようやく口を開いた。


「最初は……キノコではなく、花を咲かせようと思ったんです。私は花の魔法が得意だから……。でも妖精がそれに応じてくれなくって……」


「なぜ妖精はあなたの呼びかけに答えなかったんですか?」


「それは……花の妖精は風の妖精が苦手らしくって……風は花を吹き散らしてしまうから。あのサークル内には、まだ風の妖精の気配が濃く残っていたんです……」


え?

って、私? 私の所為?


気付くと、みんなも私を見ていた。

リー先生はちょっとだけ難しい顔をした。


「そうですか。それは仕方がありませんね。それでも咄嗟に魔法を切り替えて、あれだけ出来たのは見事です」


先生はそう言ってシャーロットをねぎらった。

確かにそうだ。

私たちはみんな、何の役にも立ちそうもない、しょーもない魔法しか使えなかった。


将来は炎の剣で数十人の敵を打倒すはずのアーチー、どんな高い城壁も光のロープで乗り越えるハリー、数十体のゴーレムを同時に操るジョシュアでさえ、今はあの程度だ。

シャーロットの魔力が群を抜いているのは一目瞭然だった。


しかしそんな彼女を、何人かは冷たい目で見ている。

王族とは名ばかりの村長レベルの娘のシャーロットが、そんな大きな魔法を使った事が気に入らないのだ。


そして……私は知らないとは言え、彼女の魔法を妨害した事になる。

これでまたシャーロットの恨みを買わなければいいんだけど……


「それでは皆さん、今日の実践魔法の授業はここまでです。各自、自分の得意な分野からでいいので、魔法を練習して下さい。それから徐々に色々な魔法に挑戦して行けば良いのです。なお魔法を使っていい場所は限られていますので、それ以外の場所でむやみやたらと使わないように」


最後にリー先生はそう言って、この授業を締めくくった。



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この続きは明日の朝8時過ぎに公開予定です。

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