第7話 歓迎会と言う名のランク付け(中編)
レイトン・ケンフォード学園の歓迎会。
立食形式ではあるが、ビュッフェ・テーブルには豪華な料理がズラリと並んでいる。
会場内ではそこかしこで、数人が固まって談笑している。
私はそんな集団を横目で観察していた。
新たに入学した仲間を迎えるため、在校生が催す歓迎の宴だが、実はこの歓迎会が曲者なのだ。
ここで学園生活を決定するランク付けが行われる。
私の世界で言えば「スクール・カースト」なのだろうが、あんな甘い物ではない。
そもそもなぜ各国の上流階級の子弟が、バカ高い学費と寮費を払ってまでこの学園に入学するのかと言うと、『将来の外交を有利にするためのコネクション作り』が大きな目的なのだ。
従って小さい国や下級貴族の出身者ほど、上流階級の子弟との繋がりを持ちたがる。
しかし現実はそんなに甘くない。
上流階級の人間にとって、下級家族や弱小国の人間と交流する意味はない。
よって上流階級の人間は、彼らだけのソサイエティとも言うべき集団を作るのだ。
そして私、ルイーズ・レア・ベルナールは上流階級に属する人間だ。
周囲に男女問わず、様々な人間が集まって来た。
男子も乙女ゲームだけあって、いずれも美形揃いだ。
そんな中でも、一際光を放つ男子が、このゲームの攻略対象ヒーローの5人だ。
彼らも一人ずつが私に丁寧に挨拶に来た。
最初に来たのは、このゲームの中でもっとチャラい男、ハリー・レット・マグナーだ。
彼は海運王の息子。父親は商人ながら爵位を持っていて、全ての国に分散した財産がありかなりの権力がある。
さらには裏で海賊を取りまとめていて、独自の海軍力を持つ実力者でもある。
彼本人はチョイ悪系の黒髪のワイルドな美男子だ。
「久しぶり、ルイーズ。デニス公のパーティで会って以来だから、二年ぶりかな?」
ハリーは私の右手を取って、甲に口づけする。
キザだが様になる男だ。
「そうだったかしら? ごめんなさい、私、あの時の事をあまり覚えていないの」
いや、あの時の事どころか、ルイーズの過去については、ほとんどの記憶がおぼろげだ。
何しろ『フローラル公国の黒薔薇』においてルイーズは敵役。
その詳しい過去までは描写されていない。
さらに言えば、転生しても彼女の記憶はおぼろげなのだ。
「それは冷たい。俺の方はあれ以来、君の事が頭から離れないと言うのに……」
彼は大仰なポーズでタメ息をついた。
ハハ、笑えるけど、この世界だから許そう。
ハリーが立ち去った直後、やって来たのはエドワード・ロックウェルだ。
彼は隣国ドレンスランドの公爵家の長男であり、私=ルイーズの母方の従兄弟でもある。
小さい時からワガママなルイーズによく付き合って遊んでくれた、良き幼馴染でもある。
そして攻略ヒーローの中では唯一、ルイーズに思いを寄せていた男子でもある。
「ルイーズ、ハリーには注意した方がいいよ」
エドワードは近づくなり、小声でそう言った。
「彼は女好きで有名だからな。この年齢で既に各国に複数の恋人がいるともっぱらの評判だ」
彼は青銀髪の髪を撫でながら、金色の瞳に嫌悪を交えてハリーを睨む。
「あら、エドワード。私の事を心配してくれているの?」
男子にこうやって気遣って貰えるのは、私としては久しぶりだ。
嬉しくない訳がない。
それがイケメン中のイケメンともなればなおさらだ。
「そりゃ……僕は君の従兄弟であり幼馴染だからね。そうでなくても、フローラル公国の王族に繋がるベルナール公爵の一人娘ともなれば、変な目的を持って近づこうとするヤツだって沢山いるだろう。注意するに越した事はない」
エドワードが少し顔を赤らめながら答えた。
ふ~ん、つまり現段階ではエドワードはまだルイーズの事が好きなのね。
「ありがとう、エドワード。ご忠告感謝するわ。この先もきっとアナタが私をガードしてくれるのね」
どうやら彼の存在は、私にとって有効なカードになりそうだ。
「も、もちろん、僕はそのつもりだが……君自身も注意してくれよ。ルイーズは他人の思惑に無頓着な所があるから」
そう言った時、彼は自分の仲間に呼ばれた。
少し名残惜しそうに私のそばから離れていく。
次にやって来たのは、ジョシュア・ゼル・ウィンチェスター。
彼はフローラル公国とは北側の海を挟んで反対側にある、北方三連合国の公爵家の指定だ。
ちなみに父親が国王の従兄弟でもある。
彼は最初から礼儀正しく、丁寧に私に挨拶をしていった。
その次がガブリエル・マルセル・バロア。
この国のほとんどで国教に指定されている聖ロックヒル正教の大司教の息子で、代々大司教を排出している家柄だ。
世界各国に信者がおり、各王室も聖ロックヒル正教の大司教には逆らえない。
彼は可愛らしい顔立ちで、栗色のクセっ毛と緑の瞳の持ち主だ。
そして最後にやって来たのが、既に今日の昼間に出会っているメイン・ヒーロー、アーチー・クラーク・ハートマンだ。
彼はエールランドの公爵家の長男であり、王位継承権も第七位ながら持っている。
そして私=ルイーズの許嫁でもある。
もっとも親同士が決めた事で、ここに来るまで顔を合わせた事もないが。
「ルイーズ嬢、既にお会いしているが、正式にご挨拶申し上げる。アーチー・クラーク・ハートマンです」
彼は慇懃に頭を下げた。
しかし彼の目に私に対する親愛の情は見られない。
「アナタと私は、親が決めた婚約者同士だが……昼間の事はいただけない。上に立つ者ならば、もっと周囲の人に対して礼儀と寛大な心も持たねば……」
そう言い残すと、彼は私の前から立ち去った。
おそらく正ヒロインであるシャーロットの所に行くのだろう。
既に彼はシャーロットに心を奪われているのかもしれない。
「さすがモテモテですわね。ルイーズ様」
そう声を掛けて来たのは、茶髪ストレートロングの、いかにも計算高そうな美少女だ。
「エルマ・ブラウンです、お久しぶりですわ」
「ええ、本当に久しぶりですわね。エルマさん。何年ぶりかしら」
私はとりあえず返事を返しながらも、内心は冷ややかな目で彼女を見ていた。
エルマ・ブラウン。
同じフローラル公国の侯爵令嬢。
ルイーズとは同じ歳で、過去にパーティなどで何度か顔を合わせている。
エルマは私の手を両手で握った。
「こうしてケンフォード学園でルイーズ様と一緒になれるなんて、私、とっても嬉しいですわ。昔馴染みですもの、これからも親友として、よろしくお願いしますわね」
親友ねぇ。
確かゲームでは革命法廷で原告側証人として、ルイーズが学生時代にどれだけ横暴だったか暴露した女のはず。
しかも自分が助かりたい一心で、自分がやった事までルイーズに罪を被せて……。
(周囲の人間で一番注意しなければならないのは、コイツだよな)
だが私もそんな事はおくびにも出さず、笑顔で返事をする。
「ええ、私も知り合いがこの学園にいて嬉しいわ。よろしくね、エルマさん」
「そうだ、こちらの方々もルイーズ様とお近づきになりたいそうです。紹介しますわね」
エリマはそう言って、背後に来ていた二人の女子を手のひらで指し示す。
「アリス・ホワイトです。これからルイーズ様と一緒に勉強できるなんて、私、光栄です!」
両手を胸元に組んで目を輝かせてそう言ったのは、金髪で赤い瞳の少女だ。
確かフローラル公国の伯爵令嬢のはずだ。
「わたくしはサーラ・デュッセルドルフです。こうしてフローラル公国でも高名なルイーズ様とお会い出来て本当に幸せです。ぜひわたくしもご学友の末席にお加え下さい」
そう言ったのはピンクの髪に青い瞳の少女だ。
デュッセルドルフ家は聖ロックヒル正教で何人かいる大僧正の一人だ。
そこのご令嬢と言う事か?
「アリスさん、サーラさん。ルイーズ様とお近づきになれたのは、私のお陰だと言う事を忘れないでね」
エルマが得意そうにそう言った。
なるほど、彼女は私との繋がりを元に、自分の地位を確立しようとしているのか。
そしてこのグループで、女子内のトップ・カーストを作ろうとしている。
そんな中、私達に近づいて来る一人の少女の姿が視界に入った。
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この続きは明日の朝8時過ぎに投稿予定です。
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